大阪市の学力テスト最下位 成績UPに教員の査定反映は意味があるのか?
2018年春の学力テストで大阪市が2年連続最下位
今春の全国学力テストにおいて、大阪市は2年連続で「全都道府県・政令市で最下位」という結果でした。大阪市の吉村市長はこの結果を受けて、「教員はぬるま湯に漬かっている。結果に対し責任を負う制度に変える」と発言しました。
学力テストの結果分析によると、基本的な学力を測る国語A(身につけておかなければ後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や,実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能など)においての大阪市の特徴は「中下位層が分厚く、上位層が薄い」つまり最低限身につけておかなければならない国語力が欠けている児童の割合が突出しているということです。
算数Aの結果においても正答率が0-60%だった児童の割合が多く、60-100%の割合は全国最低クラスです。国語B・算数Bにおいても、大阪市の小学生の学力は「下位層が分厚く、上位層が極端に薄い」「算数は全国最低水準、国語は全国最低で飛び抜けている」という分析結果です。
抜本的改革のためテスト結果を給与に反映?
大阪市の学力に関する不名誉な結果を改善するために、吉村市長が「教える側の努力や意識を変える抜本的改革」として提唱しているのが、学力テストの正答率に数値目標を設け、達成度合いによって校長・教員の評価やボーナス、学校予算の増減に反映させる制度案です。学力向上の指導をする教育委員会の担当者にも責任を持ってもらうとして、教員と同様にテスト結果が給与に反映する制度の構築を検討するとしました。各学校の目標については一律に決めたいとしていましたが、学校の実情や地域の特性なども考慮して個別に決める可能性にも言及しました。また、吉村市長は「教員らに対して結果に責任を負うよう求める以上、自身もそうあるべきだ」と述べ、来年のテストで全政令指定都市中最下位を脱することができなければ、自身の夏の賞与を全額返上するとも明らかにしました。
教員の査定に学力テストの結果を反映させるという方法は、学力を向上させる効果があるのでしょうか。はたして大阪市の学力低迷の原因は教える側の意識改革だけで解決できるものでしょうか。教育現場の実情は教える側だけの努力で改善できるのでしょうか。
学力低迷の大きな理由は「家庭環境・経済格差」
学力低迷の大きな理由は、教える側の問題だけではなく「家庭環境・経済格差」にも起因しています。大阪市の学力低迷において、家庭環境や地域特性は無視できません。 学力テストの結果を見ても学校毎の点数差が非常に大きいのが実情です。学力に大きな影響を及ぼす指標として「世帯収入・大卒率」があり、「家庭の社会経済的背景」と呼ばれるものがあります。大阪市は「家庭の社会的経済的背景が低い地域が多いのではないか」と指摘されています。
大阪市全体で見ても世帯年収平均が400万円以下と全国平均よりも低く、各学校毎では学校がある地域の大卒率・世帯収入の違いが学力テストの結果と強く相関していると推測されます。大阪市全域(とりわけ家庭の社会経済的背景の低い地域)の学校では、学習指導に加えて家庭環境・経済問題の改善が必要でしょう。下校後も学習・指導できる場所を整備し、福祉の観点からも家庭問題の解消を図る方法が必要です。
教員と保護者の相互理解、格差是正など課題は山積み
今の大阪市の学力低迷問題の解決にあたり、教員を査定して教える側にのみプレッシャーをかけたとしても、改善は難しいと思われます。「たこやき共和国」と揶揄される大阪独特の県(府)民性を理解したうえで、公教育現場における教える側(教員)と教えられる側(保護者)との相互協力、学校施設の整備、「家庭環境・経済格差」の是正、子育て世代への支援など、学力低迷の原因となりうる諸問題を段階的に複合的に解決していく必要があると思います。
学校・保護者・行政の歯車が噛み合わなければ低迷は続きそう
しかし、吉村市長の気持ちも十分に理解できます。個人的には公教育という特殊な世界に一石を投じた吉村市長の発言は教育問題を考える上で評価できるものだと思っております。
もっと踏み込んで言うならば、長年大阪市内とくに子供の学力に異常に関心を示す地域で教室を運営してきた私の感想ですが、たとえ家庭の社会経済的背景が立派であっても、保護者の「教えられる側の子供の学力に関する偏った思い込み」を変えない限り、教える側(教室)と教えられる側(保護者)との指導内容をめぐるミスマッチを避けることが出来ないように、公教育においても、子ども達の真の学力向上を図るための学校・保護者・行政の歯車がかみ合わない限り、大阪市の学力低迷問題はまだまだ続くのではないでしょうか。
(栢原 義則/進学塾塾長)
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