苦手な仕事を「できない」と言ってみたら「何が」変わったのか|ココナラ広報・古川芙美さん
「何かが足りない…。もっともっと頑張らないと」
「うまくいかないのは自分に欠点があるから?」
仕事をする上で、こうした息苦しさや辛さを感じたことは誰にでもあると思います。そんな時、どのように壁を乗り越えたらいいのでしょうか。
スキルのフリーマーケット事業の株式会社ココナラの広報・PRリーダー古川芙美さんは「自分の弱みを手放して、自分とほかの人の強み同士でつながり、成長していける仕事の仕方があるんです」と語ります。
この連載では、「自分の弱みは、誰かの強み」をテーマに、自分らしく自然体で働く人の働き方ストーリーをお届けします。今回は第一回目、古川さんにお話をうかがいました。
古川 芙美(ふるかわ ふみ)さん
「一人ひとりが自分のストーリーを生きていく世の中を作る」をビジョンで設立された、スキルのフリマ(株)ココナラにて広報・PRリーダーを務める。2年間広報の専門知識を学び、複数社の広報歴任後、17年8月より現職に着任。個人のミッションは「世界の不均衡を均衡にすること」。
「広報は外交官と同じぐらい重要」に触発され、広報の道へ
―古川さんはこれまでどのようなお仕事をされてきましたか?
古川さん:新卒で証券会社に就職し、法人営業を担当しました。目にとまった企業に飛び込み営業をしたこともあり、人として、社会人として、度胸と自信がついた貴重な体験でした。ただ次第に、投資信託や株について自分自身で実感や質感が感じられなくなってきて。そんなときにたまたま見ていた雑誌に、プロの広報を育てる学校の設立者インタビューがあり「コミュニケーションを主軸にする仕事が広報。世界では広報は外交官と同じぐらい重要な仕事」と書いてありました。
その瞬間「私、コミュニケーションを使ったこういうダイナミックな仕事がしたい」と思い、会社をやめてその学校に2年間通いました。卒業後は、アパレル会社、大手寝具メーカー、ブライダル会社でそれぞれ広報を担当。そして昨年の8月からココナラの広報をしています。
―ブライダル業界からIT業界へ、大胆なキャリアチェンジですね
古川さん:ブライダル会社にいるとき、仕事と自分の思いやミッションがアライン(リンク)していくと、すごく力を発揮できるという体験がありました。ブライダルはとても素晴らしい仕事でしたが、やがて私の中に新しいミッションが生まれてきました。日々、ニュースを見ていて、世界には貧困と富裕、飢餓と肥満、雇用の不均衡など、たくさんの不均衡があることに、ひっかかりを覚えたのです。こうした不均衡を均衡にする仕事がしたいーそう思ってネットで企業を調べていた時に、自分のミッションとアラインするココナラを見つけました。
ココナラでは全ての人が自分しか持ちえない経験・知識・スキルを場所や時間に縛られずオンラインで売り買いできます。まさに自分らしく生きる(働く)均等な機会を提供しています。
例えば、大企業の経営企画部に所属しながら、副業としてココナラでプレゼン資料作成スキルを販売している方がいましたが、先日会社を辞めて独立しました。話を聞くと、会社では、自分が得意なプレゼン資料作成は全体の2割ほどで、あとの8割は会議や上司のサポート等。退職を決意し、今好きな仕事をしていられるのは、会社の看板を外しても自分の得意なスキルで稼げる、とココナラに自信をもらったから、と仰っていました。そんな話を聞くと本当に嬉しいです。
IT企業勤務なのに、パソコンが苦手…
―私たち一人ひとりにも得意・不得意、強み・弱みがあるのも均衡、不均衡の側面です。そこで率直に、古川さんご自身の弱みをおうかがいします。
古川さん:実はパソコンが得意じゃないという「弱み」があります。ITの会社なのに…(笑)。ココナラに入社してからマックのパソコンになり、うまく使えなかったんです。右手だけでキーボードを打っていたら、社長に「打つの、遅くない?タイピングゲームをやってみたら早くなるよ」とアドバイスをもらって。それからは、早めに出社してタイピングの練習をやりましたが、パソコンを使った資料作成は今でも苦手です。
あと、私、ケアレスミスをすることがあって。ある日、社長のアポイントを受けて、すぐ社長のスケジュールは押さえたのですが、会議室を押さえるのを忘れたとことがありました。当日の朝になって社長から指摘されて大慌て。その時すでに社長が会議室をおさえており、事なきを得ました。
後日、こうしたミスや資料作成など苦手な分野について社長に真剣に相談しました。社長からは「30歳半ばを過ぎたら、自分の弱みを克服しようなんてしないほうがいい。それよりも、得意なところを伸ばしたほうが絶対にいい」と衝撃的なアドバイスをもらいました。腑に落ちましたし、気が楽になりました。
「曇りなき、まなこで」自分を認める
―では具体的に、その弱みの手放し方を教えてください。
古川さん:まず弱みを手放す前段階として、「自分の弱みと強み」、「好きなことや得意なことと苦手なこと」を認識する。この4つを認識すると、自分自身が見えてきます。それも「曇りなき、まなこで」。この言葉はアニメ映画『もののけ姫』に出てくるアシタカが言っていて私が大好きな言葉です(笑)。
そして実際の手放し方ですが、とても簡単。ただ手放すんですよ。
例えば、さきほどの会議室の予約を忘れたミスをしたとき、その瞬間はやっぱり焦るんですけど、指摘を受けてもそれをダメ出しと受け取らないこと。
「どうしてこんなこともできないんだろう」「自分は価値がない人間だ」という小さい所にいかないで、ただただ「予約が取れていなかった」という事実を受け止めて、こだわらずに次に進む。
そうすると、仕事のスピードが上がっていって、周りの人の「教えてくれるスペース」と、私自身の「教わるスペース」が広がっていきます。
弱みにこだわらなくなった後は、私の苦手なことを人に任せていくようになりました。私が苦手なプレゼン資料や表作成は、得意な人から拝借。
先日、ちょっと面白いこともありました。同業のライバル会社の広報の方と講演セミナーでご一緒し、意気投合。その方の資料が素晴らしく、お借りできないか尋ねたら快く貸していただきました。
ITベンチャー各社では、リソースや情報をシェアする機会が増えています。情報をオープンにすると、情報がどんどん外から集まってくるんです。
最近、シェアリング・エコノミー協会の広報会の立ち上げにも関わりましたが、そこでもいろいろな情報をシェアしています。
弱みを手放すと、情報が入ってくる
―弱みを素直に受け止めて、手放して、教えてもらうスペースを広げる。具体的なスキルですね。弱みを手放すことで見えてきたことはありますか?
古川さん:弱みを手放してみたら、「わからない、できない」って言っていいんだと気づいたんですよ。それ以前は、「わからない・できない=悪い・市場価値のない人間」になっていたんです。それに気づいた後は「私はこれができます」というのと、「私はこれができません」というのが同じテンションで言えるようになっていったんです。「できません」と言った瞬間の自分を小さくしないでいられることってとても大事だと思います。同時に、周りから「あなたはこれが得意だよね。それをやったらいいんだよ」と言ってもらえたことも大きかったと思います。ひとりで頑張らなくていい。みんなが得意なものを持ち寄れば、自然にすべてが拡大していき、劇的なトランスフォームを迎えます。自分の得意なところで仕事をすれば、自信を持ってグングン拡大、成長していきます。
―実際に、強みを持ち寄って成長できた体験はありますか?
古川さん:はい。先日、社団法人五反田バレーの立ち上げに関わりました。五反田バレーは、五反田で企業や行政の壁を超えて社会課題に取り組むスタートアップコミュニティを支援する団体です。立ち上げでは、皆さんそれぞれ「リリース書きます」「プレゼン資料を作ります」「法人登記します」と自分の得意なこと、やれることにどんどん手を挙げて準備を進めました。ベンチャー企業ならではのオープンマインドと、会社が違っても一緒に作業するという雰囲気作りや、共通のマインドセットは、とても大事にしています。
社長からみた「強み」の考え方
―ココナラ南社長にも古川さんについてお話しをお聞きします。古川さんの強みをどうご覧になっていますか?
南さん:まずは、愛嬌(笑)。
▲株式会社ココナラ 代表取締役社長 南 章行さん広報の仕事は急に取材依頼が来て、社内調整やクライアントさんとの連携など、突発的なものばかりなんですよね。メディアや外部に出す情報やリソースは社内にあるわけですから、社内から好かれている広報でなければスムーズに運びません。そういう意味で先ほど古川さんの強みを愛嬌と言ったわけですが、言い換えると、周りが応援したくなるような一生懸命さやポジティブさ、伝えたい気持ちなどの姿勢がちゃんと透けて見えて、サポートしてあげたいと思える気にさせる人。採用段階からそういう空気感を持っていましたから、とてもやりやすいだろうと思いましたし、実際、一緒に広報をやっていてラクですね。もう一つの強みはこわい物知らず。必要以上に相手の状況をそんたくしない度胸や突破力。これは僕が持ち合わせないところです。古川さんが苦手な分野は僕がサポートし、2人で広報を担当しています。
―古川さんはプレゼン資料作成が自分の弱みと話しています。
南さん:古川さんの資料作成は40点から80点まで幅がありますよ。でもそれは僕がサポートできるから大丈夫。
そもそも会社がスキルのフリーマーケット事業で、みんなの良いところを活かしてつなげる事業をやっているのに、社内が軍隊風でダメだしする文化だったら、人の良いところを見つけてつなげようなんてできないですよね。だから、うちの会社は、すべての要素が平均点の人ではなく、ここは80点、あそこは20点という人が必要。社員全員が80点の得意な分野で仕事をしたら、平均点が80点になる。自分の良いところを活かせばいいんです。苦手な分野はほかの人が補えば良いのですから。 インタビュー・文:野原 晄 撮影:平山 諭
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