絶滅危惧種なのに価格の高騰のほうがニュースになる「鰻(うなぎ)」を考える

絶滅危惧種なのに価格の高騰のほうがニュースになる「鰻(うなぎ)」を考える

ニホンウナギは「近い将来における野生での絶滅の危険性が高い」

鰻(ニホンウナギ)は絶滅危惧種に指定されています。カテゴリーは絶滅危惧ⅠB類(EN)とされ、「ⅠA類(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの」に分類されています。(環境省「生物情報 収集・提供システム『いきものログ』)。

この「いきものログ」の「ニホンウナギ」のデータによれば、
引用

シラスウナギ、成魚ともに漁獲量が近年50年間継続的に減少を続けている。漁獲量から推測して、日本の河川に遡上する本種の個体数が減少していると考えられる。河口域で遡上したシラスウナギを捕獲することや遡上を妨げる堰の建設や隠れ場所の減少が本種の減少の一因と考えられる。卵からの養殖は実用化されていない。

以上引用

と説明されています。

この様に、絶滅が危惧されている鰻ですが、1月頃に「シラスウナギ」の不漁のニュースでは、絶滅ではなく、丑の日の鰻蒲焼の高値を危惧する報道を記憶されている方も多いと思います。そして、その「土用の丑の日」もこの猛暑のなか、水産庁や環境省による販売規制ということも無く高級品となった蒲焼は、今年も多くの日本人のお腹に収まったようです。

鰻の成魚は淡水に生息することもあり、洋の東西を問わず人間に親しまれた魚なようですが、その生態はなぞの部分が多く、何故、漁獲量が減少したのかその原因がハッキリしないために、水産庁としては、「捕獲禁止によって関連業界の首を絞めることは出来ない」。他方、環境省は減少の事実を持って「『絶滅危惧種』とせざるを得ない」と言うところなのでしょう。

研究が進む鰻の生態だが卵からの養殖の実用化はまだ

鰻の生態は分らないとはいっても、そこは日本の研究者の能力は高く、鰻(ニホンウナギ)は、遠く2,000km離れた西マリアナ海嶺で生まれ、黒潮に乗って日本近海(中国、台湾、韓国を含む)まで来ることがわかってきたそうです。(世界初の快挙に世界の研究者が絶賛したとか)

その後、川を遡上した成魚は、天然鰻として珍重されたりして、よく知られるところですが、どうやって西マリアナ海嶺まで向かい繁殖するのかもまだわっていないようです。(図-1)
図-1ニホンウナギの一生
出典:ウナギをめぐる状況と対策(水産庁)
一方、私達に夏を乗り切るスタミナをくれる鰻は、はるばる黒潮に乗って海岸近くまで到着した幼魚(シラスウナギ)を河口付近で捕獲、養殖のうえ、翌年に市場に出ることになります。

環境省も言う様に、卵からの養殖は実用化していませんので、私たちが食べる鰻は全て西マリアナ海嶺からはるばるやってきたシラスウナギが成長したもので、養殖鰻も天然鰻も全て元は天然鰻といえなくもありません。

シラスウナギの供給量は2000年をピークに減少傾向

シラスウナギ漁は、日本以外では主に台湾、中国、韓国などで行われていますが、わが国で消費される「鰻」となるまでを図-2に概略を示しました。
このようにして私たちのスタミナ源、鰻のわが国における供給量(消費量)は、2000年をピークに減少傾向が続いていますが、そのほとんどが輸入と養殖によっており、いわゆる天然物のウナギは2017年では71トンに過ぎません。(図-3)
出典:ウナギをめくるめぐる状況と対策について(水産庁)および貿易統計から筆者作成

従って、私たちの夏の元気は、殆どマリアナ海溝で生まれたシラスウナギの動向にかかっているといっても過言ではありません。近年、シラスウナギの不漁が続き鰻の蒲焼の値段が上がっていて、今年も1月にシラスウナギの不漁を報じたニュースが報じたとおり高めに推移しています。(図-4・5)

出典:「浜松生活」ホームページデータから著者作成
近年のシラスウナギの日本近海への来遊量の減少について、黒潮の蛇行やフィリピン・台湾振動(フィリピン沖の風向きの変化)など海洋環境の変化が上げられていますが十分な答えが提供されているとは言えないというのが現実のようです。

一方、成魚として暮す河川の環境については、堰など遡上や降河の障害になる点が指摘されています。鰻の養殖についても、シラスウナギの養殖池への投入量と採捕量に大きな開きがあったり、シラスウナギ漁を行っていない香港からの輸入量が最大である点など資源管理という観点から透明性を求められる課題も多く認められます。

日本の食文化を形成する「鰻」、私たちはどう食べるか?

私達消費者はどのように考えればよいのでしょうか?昔から人間社会に親しまれてきた鰻ですが、わが国においては江戸時代頃からよく食べられていたようで、今では、日本の食文化を形成する重要な役割を果たす存在になっています。

表だらけになるので、数値は示しませんが、輸入量の多くを占める蒲焼などの調製品は、いまのところシラスウナギほどの価格の変動は見られませんので、私達消費者は、すき家でスタミナアップする事も可能です。もちろん、北大路魯山人も通ったという竹葉亭で白焼きをいただき日本の食文化に思いをはせる事もできます。

鰻を提供するお店側も、どちらの戦略(すき家か竹葉亭)をとるのかを明確にして望んでいくのが良いのではないかと思います。

(岡部 眞明/経営コンサルタント)

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