“計画”は、最初の1%にすぎない――“実行”まで地域に「伴走する」コンサルタントの執念
人口が年々減少していく中、都市部への人口集中なども重なり、「地方創生」は今、日本が抱える課題の一つです。施策が一時的なプロジェクトで終わることなく、継続的な地域の発展につながっている案件は、どれほどあるのでしょうか。また、私たちが地方創生に関わりたいと思ったとき、どういった行動をとることができるのでしょうか。
前編に続き、今回は「株式会社さとゆめ」の嶋田氏にさとゆめで実施されている地方創生のための施策と今後「さとゆめ」が目指すものについて語っていただきました。
プロフィール
嶋田俊平(しまだ しゅんぺい)
株式会社さとゆめ 代表取締役社長
京都大学大学院農学研究科終了後、環境専門コンサルタント・シンクタンクに入社。地域資源を活用したコミュニティ・ビジネスの事業計画立案、地域の森林利用・保全計画の策定支援、農山村をフィールドにした企業のCSR活動の企画立案等に従事。2013年5月。株式会社さとゆめを創業。道の駅やアンテナショップのプロデュース、商品開発・プロモーション、地域振興のビジョン策定など幅広い事業領域で地域を支援。これまでに関わった地域は30を超える。
計画や戦略をつくっただけでは「地方創生」は実現しない
―「株式会社さとゆめ」に限らず、地域系のコンサルティングの会社はたくさんあると思うのですが、嶋田さんが設立した「さとゆめ」がほかと違うところは、どのようなところでしょうか。
私たちが立ち上げた「株式会社さとゆめ」は、地域活性化のための計画から実行までを行う「伴走型コンサルティング」を提供する会社です。
確かに地方創生や地域活性化を謳うコンサルティング会社は増えてきていますが、実際は、計画の部分だけを請け負って、実行は地域の人々に丸投げという会社が少なくありません。でも、地域にはノウハウやネットワークが必ずしもあるわけではないので、こちらが提供した計画を実行するのは想像以上に難しいことなんです。そこを一緒にやっていくことに私たちが掲げる「伴走型コンサルティング」の意味があると思います。
―さとゆめが行っている「伴走型コンサルティング」のゴールってどこなんでしょうか?
地方創生は、移住・定住者を増やすことや、若者が結婚・子育てをしやすい環境をつくること、結果として「人口を増やす」ことが大きなゴールになっています。でも、実際はかなり時間がかかることですし、そう簡単なことではありません。
例えば、地域の強みを生かしたものを使って、商品をつくる。商品ができたら、販路を探す、あるいは、お店をつくる。お店ができたら、お客さんを連れてくる。そうすると、売上げが上がる。売り上げが増えると、そこに雇用が生まれる。雇用が増えると、そこに新しい産業ができる。そういう状態になってはじめて、そこに新たに人が移り住む大きな流れができる。そういう状態をつくることが、私たちが思い描く、「地域の活性化」、「地方創生」なんです。
―でも、かなり長期スパンのプロジェクトになりますね。
根気のいる仕事だと思います(笑)。でも少しずつですが、取り組みの成果は生まれています。
現在携わっている長野県の信濃町の「癒しの森事業」というプロジェクトは、さとゆめを立ち上げる前の2006年からかれこれ12年伴走を続けています。
特に、今年で5年目になる山梨県の小菅(こすげ)村には、かなり密に関わっていますが、色々な追い風もあって、人口が増える流れができています。
4年前に当時人口720人ほどだった小菅村の人口推移のシミュレーションを行いました。かつては1,200人ほどいた人口が、毎年30人くらいずつ減少し続けていて、そのままのペースでは、2060年には人口300人を下回ってしまうという推定結果がでました。そうなると、村としての存続自体が難しくなります。
これに対して、村役場や村民の方々が大きな危機意識を持ち、地方創生の総合計画をつくって、取り組みを一気に加速化しました。本格的に計画が稼働し始めた2014年からは人口が少しずつ増え、今では740人を突破しました。村全体で取り組んできた結果だと思っています。
地方創生は、地域の人々の“本気”と地域外の人の協力で成り立つ
―毎年30人ほど人口が減っていたのに、そこから盛り返して人口が増え始めたなんて、すごいですね。どんなことを仕掛けたんですか?
とにかく、小菅村の魅力を引き出せるよう、さまざまなコンテンツを作りました。まずは「道の駅」の立ち上げからはじまり、村づくり会社をつくったり、イベントを開催したり、ローカルメディアを作ったり、地域の外から来た人が泊まれるタイニーハウスをつくったり。古民家を改装し、ホテルにする計画もあります。ロジカルに何をやるかを考えることも大切ですが、地域の方々のアイデアをどんどんかたちにすることが大切だと考えています。
最初に取り組んだ道の駅のプロデュースでは、多摩川源流の幸を使った「源流イタリアン」というコンセプトを提案しました。イタリアから取り寄せたピザ釜で焼いた本格的なピザを提供しています。メニューの中でも、小菅村で獲れる川魚「ヤマメ」のアンチョビを使ったピザが人気で、話題になって人が集まるようになり、2年目で黒字化しました。
―確かに、「そこでしか食べられないもの」は、コンテンツとして価値が高いですね!
道の駅といっても、国道に面しているわけではないので…わざわざ足を運んで来てもらうための理由を作る必要がありました。だから、「小菅村だけのコンテンツ」が必要だったんです。
道の駅のほかにも、村全体がお化け屋敷というコンセプトのホラーイベント「ゾンビ村KOSUGE」を企画したりもしました。小学生から80歳のおばあちゃんまで、村民がゾンビメイクをして参加したんですよ。
実際に小菅村で実施されたイベント。老若男女問わず、多くの村民が参加した
―村民自らゾンビ役ですか!? メイクも本格的です。みんなで村を盛り上げていこうという姿勢がうかがえますね。
地域の人たちを巻き込まずして、地方創生はできません。いくら僕たちが地域に伴走するといっても、重要なのは、そこに住む人たちが危機感を持って取り組んでいるかどうか。このままだと村がなくなる、住めなくなる、家族を養えなくなる…近い未来起こりうることとしてそれをきちんと認識している人は、自分たちから地域を変えようと行動するようになってくれます。
―嶋田さんの役割は、地域の人々の思いを後押しすることなんですね。
それにしても、地域全体の戦略から、道の駅のコンセプト立案やメニュー開発、イベントの企画・運営まで、携わっている内容が本当に幅広いですね。非常勤含めて社員数15人という中で、プロジェクトをどうやってかたちにしているんでしょうか?
その地元以外の人たちも協力してくれているんですよ。僕は、「さとゆめ」をカチッとした会社とは考えていません。ふるさとで何かしらの夢を叶えたい人たちが、さとゆめという「箱」に集まって、自身の経験とさとゆめのリソースをかけ合わせて、夢をかたちにしてもらいたいなと思っています。実際、仕事として100%関わってくれている人もいるし、50%の人も、ひとつのプロジェクトだけ関わっている人もいるんです。
いろいろな人がさとゆめで、地域の課題解決のニーズに応えています。たくさんの人がさとゆめに関わっているので、どこまでを社員と呼んでいいのか、僕自身もわかりませんが(笑)
「地方創生」には、まだまだ解決しきれない課題が多くあります。
今は、限られた地域の方としか伴走できていませんが、さとゆめの事業が今まで以上に多くの人を巻き込み、全国各地で「ふるさとの夢をかたちに」のムーブメントが同時多発的に広がっていく。「さとゆめ」には、第二のふるさとを作っていくこと以上に、壮大な夢が詰まっています。 文:まきだ まどか 撮影:平山 諭
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