真のアドバイスとは「足りない“視点”を指摘してくれるか」で決まる!ーーマンガ「エンゼルバンク」に学ぶビジネス
『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』の第17回目です。
『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい一言をピックアップして解説することによって、その深い意味を味わっていただけたら幸いです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「良い代理人とは『顧客の意表をつける人』」
(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第2巻 キャリア15より)
龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を輩出することによって当校を救った救世主でした。
井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが・・・。
相手の言っている真実が、「本当の真実」とは限らない
転職代理人・井野が次に担当することになったのは、大手商社に勤める32歳の一般職・北川。北川は、担当の井野が新米だと知って、見下した態度を取ります。威圧的な雰囲気を持つ北川は、「私が希望している大手の求人情報さえくれれば、後は自分で判断する」と言い残すと、さっさと帰ってしまいます。
「このまま黙って引き下がるワケにはいかない」と意地を見せる井野。「名誉挽回」とばかりに、井野は北川の希望する大手の求人をピックアップし、上司・海老沢に見てもらいます。ところが、それを見た海老沢から言われた言葉とは、「相手の思いもよらない提案をするのが良い代理人だ」というものでした。
さらに「彼女の転職はおそらく難しい。しかも、相手は必ず他でも相見積もりを取っているはず。今回は、他社に振ってしまうのも手だ」と言う海老沢。しかし、それを聞いた井野は、北川の転職を成功させるべく、決意を新たにするのでした。
本当のアドバイスとは「相手が見えていないことを見せる」こと
上のマンガのコマの中で、井野が「良い代理人(サービスマン)とは、できるだけ顧客の望みを叶える人のことでは?」と海老沢に言っている場面があります。おそらく多くの人が、この主人公と同じように考えているのではないかと思います。それに対して、海老沢がそれを真っ向から否定しているセリフが、今回、選んだ「本日の一言」です。
実のところ、ほとんどの顧客は「自分が本当に欲しいものは何なのか?」ということを、ぼんやりとしか認識していません。わかっていないのですから、当然、その言葉が真実とは限りません。たいていの場合、顧客は表面的な言葉に終始しているものです。
今回の一言は、転職エージェントだけに限らず、職場などでも使えます。これは特に現在、アドバイスをする立場にある人に、ぜひ知っておいてもらいたいポイントです。つまり、「相手が見えていないことを見せることが、本当のアドバイス」だということです。
「顧客以上に顧客を知る」ことが大切
私もアドバイスを生業としていますので、一つ、事例をお話しましょう。ある時、会社員をしながら副業ビジネスをしている方の相談に乗ったことがあります。その方はブログなどでファンを増やし、そのファンを対象に自分のオリジナルサービスを展開しています。
相談内容とは「もっと副業で稼いで独立起業したい」というものでした。「私にもっと人の目に止まるブログやHPのつくり方を教えていただけませんか?俣野さんみたいに出版すれば、もっと売れるビジネスを築けますか?」といった調子です。それに対する私のアドバイスとは、「もっと自分の顧客に目を向けること」でした。
これはビジネスの初心者にありがちなのですが、そういう人はたいがい、真っ先にツールに走りたがります。「どの媒体がいいか?」「出版で名を売って」・・・というあんばいです。
努力が結果に結びつかない要因は、自分のビジネスを飛躍させるために何がセンターピンなのかがわかっていないことがほとんどです。「自分がそうしたほうがいい!」と確信していることが「本当にそうなのか?」を疑ってみることです。そもそも的がずれているところを狙っても仕方ありませんので。
この方の場合、顧客の流入経路がほぼ口コミで顧客もそれなりにいること、自分の時間的なキャパにさほど余裕がないことから、問題はブランディングやマーケティングではなく、むしろ、メニューや商品単価にあることが明白でした。
売上を伸ばすための方法は2つしかありません。同じものを違う人に売るか、違うものを同じ人に売るか。その範囲や量がビジネスの規模感となります。
問題が顧客の数ではなく売上規模の場合、いかに単価の高い商品を売るか、いかにリピート商品を売るかという発想にならないといけませんが、顧客が離れてしまうことを怖れた相談者は、自らの商品を必要以上に低く価格設定していて、顧客をつなぎとめようとしていたのです。これが稼げない本当の理由でした。
他人にアドバイスする際に外せない3つのポイント
今回は、私のビジネスコンサルティングの一つの視点を提供しました。
ここで、他人にアドバイスする際のポイントを、もう一度おさらいしておきましょう。それは以下の3つです。
(1)相手が「状況をすべて理解している」という前提に立たない
(2)相手の口にしている希望を、額面通りに受け取らない
(3)相手が気づいていないことを気づかせる
相手が誰であろうと、この3つのポイントをおさえて話を進めれば、「傾聴力」がアップすることは間違いありません。
俣野成敏(またの・なるとし)
大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」』を上梓。著作累計40万部。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。
俣野成敏 公式サイト
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