自作が映画化された作家がとるべき態度
出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
第41回の今回は、26年間続いた連載小説『大帝の剣』(エンターブレイン/刊)を完結した夢枕獏さんです。
時代小説でありSFでありアドベンチャーでもある本作は、おもしろいなら何でもアリのエンターテイメントの超大作。
この物語がどのように立ちあがり、書き上げられたのか。
注目のインタビュー最終回です。
■「とにかく、結末を見届けてほしい」
―次に執筆スタイルについてお聞きしたいのですが、アマチュアの頃から最後までプロットを決めて書いたことがほとんどないそうですね。このスタイルには何か理由があるのでしょうか。
夢枕「そうですね。ラストを決めずに書くケースがほとんどです。ただ、書きたいシーンというのは連続してあるんです。もちろんそれは書いてゆくわけですが、スタート時は、ラストのことはあまり考えてなかったりします。
だから、書きながらラストにたどりつくっていうスタイルですね。
僕の作品の多くはそうやってできあがりました」
―夢枕さんが小説を書くうえで影響を受けたという作家がいらっしゃいましたら教えていただければと思います。
夢枕「自覚しているところでは筒井康隆さんと平井和正さんかなあ。あとは作家ではなく特定の作品だったり、いろいろ影響は受けていますね。
平井和正さんの『ウルフガイ』という作品に、看護婦が犬神明の血を注射されて姿が変貌していくシーンがあるんですけど、それがすごくきれいだったんですよね。グロテスクなものを美しく描写するというのは、この作品を読んで自分の武器としてもらった感じがあります」
―この作品は映画化もされていますが、その際に映画監督の方に注文を出したりはされたんですか?
夢枕「ほとんどなかったですね。監督がイメージを持っていたので、そのイメージ通りで行きましょう、と。僕だって小説にあれこれ口を出されたら嫌ですからね(笑)」
―自分の作品が映像化になるというのはどういった感想を持つものなんですか?
夢枕「非常に複雑ですよ。当然、僕の方は作品のイメージがあるわけですが、映像化する方は、それとは違うイメージを出してくるわけです。あたりまえのことですが、作者と同じイメージのものは、まずできません。同じイメージにする必要もない。僕としては自分のイメージを超えたものが出てきてほしいし、自分のできなかったことをやってほしいというのがあります。映像化されたものが自分のイメージを超えた時はうれしいですね。
映画化ということでいうと辛い質問をされたことがあります。
『陰陽師』は映画だけでなく、テレビドラマ化もされたんですけど、映画は野村萬斎さんが主演で、テレビドラマの方は稲垣吾郎さんが主演でした。それで、“萬斎さんと稲垣さん、どちらの安倍晴明がいいですか?”って。そんなのどっちとも言えるわけがないじゃないですか(笑)
小説でも映画でも、作品が世に出てしまったら原作者は逃げちゃダメですよ。時々、“この映画の出来はいかがですか?”と聞かれて、出来がよくない時に、“あれは僕は知りません。映画の方にはタッチしていないので”っていう人もいます。
色々な考え方はあると思いますが、映画って大きな船ですから、それにみんなが乗っている。作者も乗っている。みんなが一生懸命に作ったものに対して、作者ひとりが船から勝手に逃げ出してしまうようでね。何かいい答があるといいんですけどね」
―夢枕さんの人生に影響を与えた本がありましたら、3冊ほどご紹介いただけれませんか?
夢枕「その時々で違うんですけど、『西遊記』と、平井和正さんの『ウルフガイ』手塚治さんの『火の鳥』ですかね」
―最後になりますが、読者の方々に向けてメッセージをいただければと思います。
夢枕「基本的にはずっと読んできてくれた方へのメッセージになるんですけど。とにかく結末を見届けてほしいということですね。雑誌が休刊になったりして何度か中断しましたが、26年書いてきました。
30代で書き始めて60代になって完成ですから、これはこれですごいことだと思うんですよ(笑)
30代には30代の体力と筋力があるわけで、60代で30歳と同じ速度で100メートルは走れませんが、その時にどうするかっていうことですね。これが答になってるかどうかはわかりませんが」
■取材後記
『サイコダイバーシリーズ』完結時に続いて二度目となった夢枕さんへのインタビューでしたが、穏やかで率直な語り口は変わらず、物語に貪欲な姿勢が伝わってきました。
『大帝の剣』は冒険・闘い・歴史と物語をおもしろくする要素が詰まった大作。
全5巻の長編ですが、一度読みはじめたら最後、一気にラストまで読まずにいられなくなるはずです。
(取材・記事/山田洋介)
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