「この歳になって弟のラブレターを拝見できるとはね」実の兄弟からのプロポーズに困惑!楽しい他人のラブレターチェック~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~

テーマパークも顔負け!六条院春の町の大イベント

お正月が過ぎ、六条院に花の季節がやってきました。花は咲き乱れ、鳥は歌う。春の町の庭は例年にもまして見事な花盛りです。

その頃、秋の町には秋好中宮が里下がりして来ていました。いつぞや「秋の庭の素晴らしさをご覧あれ」と挑戦状を送ってきた中宮に、春の町からのお返しをしようと、源氏と紫の上は考えます。

ところが、中宮様は「ちょっと春のお庭を見てきます」と、ぶらっとお出かけできるような身分ではない。同じ敷地内なんだからちょっとくらいいいじゃん、という気がしますが、そういうわけにもいかないらしい。身分が高いと不自由ですね。

中宮は若い女房たちを代わりに派遣し、源氏主催の春の庭での船遊びに参加させることに。船もクルーも中華風に統一され、異国ムードが漂う中、女房たちはワクワクしながら船に乗り込みました!

広い池にゆったりと漕ぎ出すと、あちこちに霞がかって幻想的。霞の中から姿をあらわす見事な岩や柳、桜や藤の華やかな色、池で遊ぶおしどりの波紋……。すべてが絵に描きたいような美しさで、女房たちはうっとり。きっと今ならインスタにアップするんでしょう。「外国に来たみたい!」「花の名所めぐりなんかしなくてもいいね!」と、大変な盛り上がりでした。

会場の外も盛り上がってるぜ!夕暮れからは六条院ライブ

日が暮れると、今度は釣殿(池に張り出した水上の殿舎)で音楽の夕べ。若い女房たちはここぞとばかりにおしゃれして席につき、招待された一流アーティストとゲストの皇族貴族が、篝火の中で合奏をはじめます。

歌の上手な人が一曲歌い出すと、ご近所の一般ピープルのみなさんも、六条院の駐車場(牛車の牛とか馬とかが停めてある)に紛れ込んで「なんかよくわかんねえけどスゲエ!!」ライブ会場に入れなかった人が、外で頑張って聞いてるみたいなアレですね。牛と馬の間で盛り上がってるぜ!

こうして飲めや歌えのオールナイトで迎える2日目の朝。今日は正午頃より秋好中宮主催の御読経(春と秋の2回、僧侶を呼んでお経を読む)なので、参加する人は着替えをし、予定のある人はここでさようならです。

中宮は一晩中、楽の音を聞きつつ「私もライブ見たかった」と残念がっていました。そこへ、8人の美少女たちが春の町から船に乗り、秋の町に登場。それぞれ鳥と蝶の衣装をつけ、鳥の子たちは銀の花瓶に桜、蝶の子たちは金の花瓶に山吹の花を捧げ持っています。

この演出をプロデュースしたのは紫の上。まるで春の妖精があらわれたかのような、素晴らしいサプライズに中宮もいたく感動しました。手紙には「花園の胡蝶をさへや下草に 秋まつ虫はうとく見るらん」。これでもまだ、春はつまらないとおっしゃいますか?

中宮は「あの秋のお返しね」とニッコリし「昨日は本当に泣き出したいほどでした!蝶に誘われてそっちへ行きたかったです。身分の制約さえなければ……(胡蝶にも誘はれなまし心ありて  八重山吹を隔てざりせば)」と書いて返します。

ナレーションは「素晴らしい方だが和歌の才能がないのかも」と書いていますが、中宮の子どものように素直な感想がかえって可愛らしく、本当に遊びに行きたかったんだろうなと思わせます。

奇妙な逆転現象…本当の兄弟からのプロポーズに困惑

かように、六条院の人びとは日々楽しく暮らしていました。各町の女主人同士の手紙のやり取りや、お互いの女房たちの行き来も活発です。紫の上と玉鬘も、お正月に対面したのをきっかけに手紙をやりとりする仲に。性格の良い玉鬘は紫の上や花散里からも好評価を得ます。こういう所で、先にいる年上の女性に嫌われたらオシマイですもんね。

一方、義理の弟の夕霧は、本当のお姉さんと信じて相変わらず真面目に接しています。玉鬘は直接男の子と話すのはちょっと恥ずかしいのですが、周りがやれというので渋々という感じ。逆に頭の中将の息子たちは、実の姉とは知らず玉鬘に熱を上げています。特に長男の柏木は結構本気。何ともおかしな逆転現象です。

仲良しの夕霧にくっついてウロウロしている兄弟を見かけて、玉鬘は思います。(ああ、あの方がたが私の兄弟、本当の家族なんだわ。ここに私がいるっていうことを、どうにかして知って欲しい)

家族に会うために上京してきたはずなのに、どうしてこんなことに?という戸惑いと切なさが、玉鬘の心を苦しめます。しかし源氏の前では気を使い、そんな素振りを見せずに「お父様」と呼び、言うことを聞く玉鬘。源氏はそんな健気な玉鬘が可愛くて可愛くてたまりません。

若い子のも弟のも!ニヤニヤ楽しいラブレターチェック

春も終わり、初夏になると更に玉鬘へのラブレターが増えました。暇な源氏は玉鬘のところに入り浸り、それらを読みふけっては「これは返信」「これはスルー」とチェックして、女房に指示を出しています。

源氏の弟宮、兵部卿宮のラブレターは「あなたに恋い焦がれて苦しい」と、早くも片思いで盛り上がっている様子。「彼は私と仲のいい弟なんだが、まさかこの歳になって弟のラブレターを拝見できるとはね」と、ニヤニヤ。

この人は3年ほど前に、最愛の奥さんを亡くして寂しいので再婚を検討中。その割にあちこちに愛人がいます。惚れっぽい体質らしく、先日のイベントの際にも源氏に「兄上の愛娘のためなら、恋の淵に身を投げても惜しくない」とアツく語っていました。

恋愛体質でちょっと頼りない弟ですが、絵合わせでは御前で講評をしたりと文化人としては一流です。源氏は「感受性豊かな人だから、あなたも得るものが多いはず。失礼のないようにお返事を」と指示します。

また、髭黒(ひげくろ)の右大将と呼ばれる中年オジサンからもラブレター。帝を護衛する近衛大将で、その名の通り黒いヒゲがトレードマークのマッチョな堅物です。若い頃に結婚した年上の妻がいて、子どもも3人いるのですが、今は妻との関係が冷え切ってしまい、離婚して新しい奥さんを迎えたいと考えている所。

源氏も、浮いたウワサなど聞いたこともない髭黒からのラブレターはちょっと意外。「ほほう、”恋の山には孔子もつまずく”というが、なるほどこれは興味深いな」

源氏は目についた手紙をあれこれ勝手に開けては「これは誰からの」「これはどうして読んでないの」と、質問攻め。手に取った中には玉鬘の実の兄弟、柏木からのものもありました。

源氏は読んでニッコリし「若い子が頑張って書いていて可愛いね。真実を知らないから無理もないが、今も無下にはしないように。それにしても見事だなぁ。彼は将来必ず国の重鎮になるよ。私の予想は当たるんだ」と感心。

玉鬘は奇妙な事態にただ恥ずかしそうにしています。実の弟から結婚してほしいと言われたら、もう何とも言えませんよ。そりゃ。

男の気持ちを左右する、上手な返信の仕方とは?

源氏は右近を呼び出し「誰に返信をするのかは慎重に決めなさい。本気度が低そうな相手にホイホイ返事をすれば気を持たせるし、尊重すべき相手に応じないのは失礼に当たる。

かといって、なしのつぶてというのも、お高く止まっているようでよくない。私も過去の反省があるけれども、男が無理やり想いをを遂げるのは、”なんて冷たい、つれない人だ”と思い余ってしまった時なのだ。時候の挨拶などで、男の逆恨みを買わない程度にさりげなく返事をしておくことも、リスク回避になるのだよ。

甘い言葉にほだされてしまうのは論外だが、玉鬘が何を言われても心の動かない女性だと思われるのもよろしくない。とりあえず、兵部卿宮と髭黒には然るべき対応をし、それ以下の人たちは熱意や誠実さを見極めてからだ」。気を持たせるのも良くないが、オールスルーだと逆恨みされる恐れもある。そのあたりのバランスが大切だ、というのが源氏先生の持論のようです。

右近は「お手紙はここに集まったのがすべてでございます。誰もこっそり取次などしておりません。お返事も、殿がご指示なさった分だけお返事をされていますが、姫様はそれすらとてもお嫌そうになさいます」。

源氏は「私がこんな風に口出しして、あなたにはうるさい限りだろうね。結婚を公表した方が、かえって実の家族にも自然に伝えられるのではと思ったのだが、有力候補がそれぞれ難アリだ。

あなたももう22歳、物事を自分で判断できるでしょう。私をお母さまだと思って何でも相談してください。幸せな結婚をして欲しいから」。

玉鬘はここでもなんと答えるべきか悩みますが、なにも言わないのも無愛想なので「私は親を知りません。ですから親とはどういうものか、どんな気持ちで接していいか、よくわからないのです……」

そう言って悩ましそうにしている玉鬘の美しい横顔。ここに来た時はまだちょっと田舎っぽさがあった彼女も、今はすっかり洗練されて、お化粧や衣装の着こなしも上手になりました。ますます綺麗になっていく玉鬘を、誰か他の男の嫁にするのはいよいよ惜しい。右近も内心は、親子でなく夫婦としてお似合いではないかと思い始めています。

実の親と思って信頼しなさいと源氏は彼女に教え諭しますが、さすがに親心でなく恋心が芽生えているとは言えません。たまに意味ありげな事を言ってみたりはするのですが、玉鬘はピンとこない様子。源氏はため息をつきながら、毎日夏の御殿へ通っては帰るのでした。

簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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