「なぜ本当のお父様じゃない人のお世話になるの?」ところ構わずセクハラ三昧!なぜか親に知らせず勝手に娘を養女にする貴族社会の謎 ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~

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顔がいい人だけが言えるジョーク!姫が立派に育ったのはなぜ?

夜通しの勤行が終わったあと、右近は静かな僧房で姫君と体面しました。質素な格好を恥ずかしがっていますが、とても美しい姫君です。

右近は源氏の冗談を引き合いに出します。「殿はわざと“私が知っている一番の美人は2人。それは亡くなられた女院(藤壺の宮)と、うちのちい姫だ”。そして紫の上に向かって“あなたが私と夫婦だなんておかしいね。光栄だと思いなさいよ”なんて仰るの」。ガチで顔がいい人だけが言える選ばれしジョーク!

「美男美女のお二人を拝見すると、まるで寿命が伸びるようです。私もたくさん美しい方を拝見しましたが、やはり紫の上が一番。でも、姫様はその紫の上にどこをとっても負けていませんわ」。

乳母は自慢の姫を褒められて相好を崩しながら、今までの道のりがいかに大変だったかを語り、今後を頼みます。「源氏の大臣はご立派な方でしょうが、れっきとした奥様が大勢いらっしゃいますでしょう。それよりはどうかお父君の頭の中将様にお知らせできるよう計らって下さい」。

乳母の言うことはもっともです。話の辻褄が合わないので、右近はここでようやく、夕顔の死の詳細を語りました。覆面の男が実は源氏だったこと。某の院での急死や、山寺の寂しい葬儀のことも。

「殿はいつまでも夕顔さまのことをお忘れにならなくてね。忘れ形見の姫君を我が子と思って世話したい、うちには子どもも少ないから、もし見つかったら手元に迎えたいと、ずっと仰っていたのよ……」。

長い年月のあれこれを語り合いながら、右近と姫一行は数日をともにしました。姫の美貌はもちろん、立ち居振る舞いの素晴らしさにも、右近は目を見張ります。

(乳母殿は本当に立派に育ててくださった。どんなに美人でも、田舎っぽいところがあったら玉に瑕だもの。夕顔さまは頼りないほどおっとりした、可愛らしい方だったけど、この姫には優雅な気高さがあるわ。

九州は洗練された、奥ゆかしいところなのかしら。でも、同行者は一様に田舎っぽくなっているし……)。確かに姫以外の人は皆太ってダサくなっています。やはりお姫様は、生まれ持ったものが違う?

若い子だけじゃなくオバサンにも…暇な源氏のセクハラ三昧

お寺での日程を終え、右近と一行はきっちり互いの住所を確認し合いました。今度は連絡が取れないなんてことがないように!幸い、場所はそう離れておらず、いろいろと安心です。

右近は帰京後、源氏に報告すべく六条院に出仕。久しぶりに通る六条院の大きな門からは、出入りする人も牛車も大勢いて、何とも賑やかです。

改めて見る六条院の華やかさに、右近はなんとなく気後れがして、女房の控室に下がっていると「右近は戻ったの?顔を見せて」と紫の上からお呼びの声が。休み明けの女房は他にも大勢いるはずなのに、特別に自分をお召しくださったと思うと嬉しくて、右近は早速参上しました。

紫の上は源氏と居間でくつろいでいるところでした。紫の上は27、8歳。女盛りを迎えて、ますます輝いて見えます。(しばらくぶりに拝見したけど、また美しくなられたようだわ。姫は紫の上に負けないと思ったけど、やっぱり幸運の差というのがあるのかしら……)。

源氏は「今回の休みは長かったな。しかもなんだか若返ってるみたいだぞ。怪しいなぁ。なにかイイコトがあったんだな」とセクハラ混じりでニヤニヤ。「何もございませんよ。ただとてもお会いしたかった方に巡り会えました」「おや、それは誰?」

右近は返答に窮します。何も知らない紫の上の前でこの話をするのはおかしいし、かといって源氏にだけ話すと疑われそう。他の女房たちもやってきたので、いったん話を保留にして下がりました。

何かあると感じた源氏は、寝室で足を揉ませるために右近を呼び出します。「若い子はこういう役目を嫌がるからね。やっぱり中年同士が気楽でいいね」。近くにいる若い女房たちはクスクス笑いながら(そんな、殿が困ったお戯れをなさるからでしょう)。

太政大臣は名誉職なので、内大臣時代よりも暇。自宅にいる時間も長いので、若い女房にちょっかいを出して遊んでいるらしい。そして右近のようなおばさんにも時々こんなことを言う。源氏オジサン、暇だね。

「紫の上だって、年寄り同士が仲良くするとご機嫌斜めだろうよ。けっこう嫉妬する人だから。それで、どんな人に会ったの。偉い坊さんでも口説いて連れてきたのかね」。

右近は事の次第を明かします。でも、側には紫の上がいるので話が続けにくい。「そうか。事情を知らない人がここにいるからね」と源氏が言うと、紫の上は「あら、私は眠くて何も聞こえないのに」と、袖で耳をふさぐ仕草をします。ちょっとかわいい。

源氏は右近を質問攻め。「姫は母親似か?」「母君ほどではないと思っていましたが、とてもお美しく成長なさっています」。「ほほう、ではこの人(紫の上)と比べて美人かね?」「さあ、それほどでは……」「なるほど。何にせよ私に似ているなら安心だ」。源氏は早くも父親気取りで、そんなことも言うのでした。

「本当のお父様じゃない人に……」貴族社会の謎システム

源氏は心を決めました。「頭の中将の所は子どもがたくさんいて大変だ。今更姫が名乗り出ても苦労するだけだろう。それなら子どもの少ない我が家で大切にしよう。世間には意外なところから姫が出てきたと言えばいい(そして物好きな貴公子たちを集めて、ヤキモキさせてやろう!)」。

最後だけ余計な気もしますが、とにもかくにも姫の今後が決まったことに、右近は安堵。2人とも、不幸な最期を遂げた夕顔もきっと喜んでくれるだろうと思う気持ちは共通でした。

源氏は初めて姫に手紙を出します。(容姿は申し分なさそうだが、あの末摘花のように歌がからきしダメで、無骨な字を書くような姫だったらどうしよう)。外部に露出する唯一の情報、字や和歌。それがダメだとどうしようもないこの時代、姫がどんな筆跡なのか心配です。ちょっとしたテストですね。

右近は、手紙とともに姫や女房たちの衣や絹などをたくさん持って、姫一行の元へ。九州では見たこともないような、色鮮やかで美しいものばかりです。源氏は紫の上にも事情を打ち明け、特に優れたものを集めて贈ったのでした。

豪華なプレゼントを前に、姫は喜ぶどころか困惑。「お気持ちは嬉しいのですが、実のお父様からならともかく、どうして源氏の大臣のお世話にならないといけないの?」。お母さんの最後の恋人とは言え、ただの知らないオジサンですからね。仰る通りです。

右近は「右近でさえこうしてお目にかかれたのですから、お父君とは必ずお会い出来る日がきます。まずは源氏の君のもとで、立派な姫君になられる方がよいのですよ」。要するに、源氏のもとで大事にされている姫がいる→自然と頭の中将の耳にも入る→おいおい真実が明かされる、ということらしい。

何でもかんでもあからさまにするのは奥ゆかしくないからNG、というのが貴族の意識らしいのですが、本人も戸惑ってるし、とりあえず連絡だけでもしたらいいのに……。親がわかっている娘を勝手に養女にするというこの流れ。その昔、親のわかっている紫の上を無理やり強奪して妻にした源氏にとっては大したことではないのか?というか、貴族社会ってそんなものなのか?さっぱりよくわかりません。

さて、肝心の筆跡はどうだったのでしょう。源氏の感想は(ちょっとタッチが弱いが、上品で見苦しくはない)。とりあえず及第点というところで、ホッとしました。

姫の住まいはどこ?本妻から消えぬ嫉妬の影

六条院での姫の住まいについては、花散里の夏の御殿に決定。春の御殿はもう空き部屋がないし、人目が多いので目立つ。秋の御殿だと、秋好中宮付きの女房と間違われそう。という消去法の結果でした。

花散里にも簡単に事情を説明し、夕霧についで2人目の母代わりを依頼。人の良い花散里は、お世話できるのが嬉しそうです。

夕顔との経緯を聞かされた紫の上は「やっぱりそんな秘密があったのね!」。源氏は「聞かれもしない故人の事を話すのは、あなたが特別だからだよ。生きている人のことはあらかじめ説明しないといけないこともあるけどね」。

源氏はしみじみと「いろんな恋をしたが、中でも彼女は本当に可憐で愛おしかった。もし無事でいたなら、明石の上と同じくらい大切にしただろう。才気煥発というタイプではなかったが、おっとりと愛らしい人だった」。

紫の上は面白くなさそうに「そうかしら。やっぱり明石の上と同じではなかったと思うけど」。紫の上にとっては死んだ夕顔よりも、生きて冬の御殿にいる明石の上の方が問題。ちい姫を引き取り、紫の上の気持ちは少しなだめられたのですが、心の奥では明石の上への意識が消えません。

ちい姫が2人の話を無心に聞いている様子を見て、源氏も(確かに、そうかもしれないな)と思うのでした。紫の上、明石の上、そして突然やってきた姫の存在で、源氏の周囲はにわかに慌ただしくなります。

簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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