ヘンテコだけど衝撃的、本から学ぶ音楽の表現法とは——アノヒトの読書遍歴:真舘晴子さん(後編)
高校生時代、同級生とともに「The Wisely Brothers」を結成した真舘晴子さん。高校2年生のとき、好きだった男の子から手渡された本をきっかけにいろいろな本を読むようになったそうで、最近では古本屋さんに行ってさまざまなジャンルの本との出合いを楽しんだりと、日常的に読書をしているといいます。そんな真舘さんに、前回に引き続いて音楽活動に影響を与えた本との出合いについてお伺いしました。
——これまで曲作りに影響を与えた本にはどのようなものがありますか?
「私たちのバンドの曲で『鉄道』という曲があるんですけど、中島らもさんの長編小説『永遠も半ばを過ぎて』に影響を受けています。歌詞の中にもタイトルの『永遠も半ばを過ぎて』という文言を使ってますし、この一冊を読んで感じた雰囲気やニュアンスを出したくて作りました。写植家(写真植字家)を主人公にした話なんですけど、写植家って原稿通りに文字盤の文字を打っていく仕事で、手でたくさんの言葉を打ち出すんです。主人公は、自分はチューブのようなもので、ただ言葉を通しているだけって言っているんですけど、私も音楽を通して言葉を書いたり生み出すことをしてますが、自分は言葉が通り過ぎていくだけのチューブじゃないなって思ったんです。でも読み進めていくと、この主人公は、実は通り過ぎていただけだと思っていた言葉が自分の中に溜まっていき、自分は単なるチューブじゃなかったってことに気付いていくんですけど、私はそのことに驚きました。主人公の写植家のように意識していなくても日常の中で出合っていく言葉というのはこう、自分の中に溜まっていくもので、通り過ぎてなくなってしまうなんてことはないのかなって思いました」
——この本を読んで、表現方法や言葉に関する考え方は変わりましたか?
「読んですぐに変わったわけではなく、読み終えて徐々に変わっていったという感じでしょうか。この本は、『言葉が人の中に残っていく』というテーマについて、忠実にまじめに書かれている一冊なんですけど、最初はうまくそれを理解することができなくて、違う本を読んだりいろいろな場所に行く中で『あ、こういうことなのかな』って思うようになったんです。最近は何も考えなくても自分の中から言葉がザァって出るくらい言葉のレパートリーが増えていて、それは読む本や観る映画、行った場所、そこで感じる雰囲気だったりというのが、言葉の源を作ってくれているのかなと。そう考えると、自分というのは、生きていく中でたくさんの表現方法を見て、その中で何かを伝える方法を身に付けていっているのかなって思いました。この本を読んで自分は何かを人に伝えたいのかも知れないと思うようになりましたね」
——なるほど。これまでに真舘さんの印象に残るような表現はありましたか?
「フランスの作家でボリス・ヴィアンという人がすごく面白い表現の仕方をしてるんです。ボリス・ヴィアンの表現の仕方はヘンテコなんですけど、『日々の泡』という本では、彼が感じた物事の雰囲気をすべて自分の言葉で伝えていて、とても衝撃的でした。例えば『蛇口からウナギが出てくる』という表現を使っているんですけど、そんなあり得ないような表現をするのに、そのときの状況や気持ちがこんなに伝わるんだと驚きました。表現っていうのは、すごく分かりやすければ良いってものではなくて、でも分かりづらくても良くなくて。いかにその人が独自に持つ表現方法で伝えられるかってことなのかなって感じました。例えば、自分が風景に対して込める『この景色がすごく好き』っていう気持ちやそこで感じた美しさを、音楽や文章や言葉を通してどれだけ自分のやり方で表現して、伝えられるかっていうことなんじゃないかなと」
——この本との出合いについてよかったら教えてください!
「この一冊は、同い年の友だちが突然この本を読んだ感想文を送ってきてくれて、それで知ったんです。ずっと読みたかったけどきっかけがなくて…最近読んだばかりの本ですね。ただその友だちの感想文がすごく抽象的で、よくわからないけど私は『この感想文すごくいいな』って思ったんです。そのときは、なんでこんなに抽象的なのか分からなかったんですけど、本を読み終えたら『ボリス・ヴィアンの言葉たちを読んだからああいう感想が生まれたんだな』って納得しました。この本には、ボリス・ヴィアン独特の表現がたくさん隠されていて、想像すると難しいのにスッと伝わってくるから、続きが楽しみで早く読みたくなっちゃうんです。一方で、純粋な恋愛小説でもあるのでその組み合わせに、なんて素敵なんだろうって思いました。そういうギャップもあって、もう1回読み直したいくらいです。この『日々の泡』っていうタイトルも胸がぎゅっとなるくらい良いですね。友だちが感想文を送ってきてくれて良かったです。自分が読むべき本だったなって強く思ったので」
——真舘晴子さん、ありがとうございました!
<プロフィール>
真舘晴子 まだちはるこ/スリーピースガールズバンド「The Wisely Brothers」のメンバー。高校生時代に和久利泉(ベース)、渡辺朱音(ドラムス)とともにバンドを結成。ギターヴォーカルを務める。オルタナティブかつナチュラルなサウンドを基調としたスタイルの彼女たちは、高校卒業後より下北沢を中心に活動。2014年にファーストミニアルバム『ファミリー・ミニアルバム』を、2016年にはセカンドミニアルバム『シーサイド81』をリリース。今年1月7inchアナログ『メイプルカナダ』を、続けて3月には『HEMMING EP』をリリース。また4月にも『HEMMING UP! TOUR』を開催するなど精力的に活動を行い、今後の活躍が期待される。
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