「上司にかわいがられると仕事がうまくいく」は本当か?

12万部を超えるベストセラーシリーズとなった『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社、小学館文庫)。その著者である俣野成敏さんに、「ビジネスパーソンの仕事への向き合い方」についてお話しいただくこのコーナー。第12回の今回は、「上司との付き合い方」についてです。

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こんにちは。俣野成敏です。

会社に勤めている方の中で、「上司とうまくやりたい」と思わない人はそうはいないと思います。時代を超えて職場の人間関係が離職理由の上位を堅持する中で、世間を見渡してみると、上司とうまくいかずに悩んでいる人は大勢います。これをお読みのあなたも「そう思っている」のだとしたら、そもそもなぜ、あなたは上司とうまくやりたいのかを、深く考えたことがあるでしょうか?

何のために上司からかわいがられたいのか?

実のところ、「ただ上司にかわいがられれば、それで何もかもうまくいく」という訳ではありません。ひとつ、事例を見てみましょう。

『ドキュメント パナソニック人事抗争史』という本があります。パナソニックの創業者・松下幸之助氏が、自社を一代で世界的な家電メーカーにまで育て上げたことを、ご存じない方はいらっしゃらないでしょう。これにより、松下氏は「経営の神様」と謳われました。

しかし、どんなに磐石に見える会社も、未来永劫にわたって安泰などということはありえません。その後の判断を誤ってしまうと、巨大企業をも揺るがす事態になるということが、本書を読めばよくわかります。

パナソニックを揺るがせた原因は「人」でした。同社は人選を誤った上に、さらにそれを是正するにも時間がかかりました。松下氏亡き後の同社では、派閥争いと権謀術数が幅を利かせ、イエスマンが重用されました。

「若くて元気がいい」と言われるうちは問題ないのですが、地位が上がって自分と距離が近くなればなるほどライバル視するようになり、自分を大切にしてくれる人を周りに置きたくなるという現象は大企業によくあることです。そのような体質は経営を悪化させ、数々のイノベーションの芽を潰してしまう結果となります。

もともと、人間とは感情の生き物です。どんな人でも他人に反対されるのを嫌い、お世辞を好みます。もし、自分が上司への忠誠と忍従の末にトップに君臨し、「もはや何も自分を遮るものなどない」となった時に、そこで会社に功績を残せるかどうかは、結局、その人が「何を目指しているか?」によるのではないでしょうか。

「かわいがられる相手」は誰でも良いワケじゃない

日本では一般的に、ある特定の上司からかわいがられることを「媚を売る」と言って、あまり良くない意味に取ることの方が多いような気がします。とはいえ、サラリーマンが会社で出世するためには、必ず「誰かに引き上げてもらう」必要があります。つまり、実際は同じ「上司に気に入られる」という行為であっても、ただ単に「自分が良い思いをしたいがために媚を売る」場合と、「自分の目的を達成するための手段として上司に尽くす」場合の2種類がある、ということです。

もし、あなたが「上司からかわいがられたい」と思うのであれば、まずは「どのようにかわいがってもらいたいか?(願望)」から考えなくてはいけません。それはたとえば、

(1) 大きな仕事が欲しい

(2) 昇給・昇進がしたい

(3) 優しい言葉をかけてもらい

といったことがあるでしょう。

次に、「上司からかわいがられたい目的」を考えます。要するに「なぜ、上司にかわいがられる必要があるのか?」ということです。実際は「なぜ(目的)」が先でも「どのように(願望)」が先でも構わないでしょう。かわいがられる目的としては、

(1) 大きなことを成し遂げたい

(2) お金や名誉が欲しい

(3) みんなの前で特別扱いしてもらいたい

などがあります(願望の(1)(2)(3)と目的の(1)(2)(3)はリンクしています)。

これらが明確になることによって、あなたは「誰にかわいがられればいいのか?」がはっきりと見えてくるでしょう。つまり「かわいがられる相手は、自分の目的に応じて選ぶ必要がある」ということです。

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「人の力は有限」という事実から考える

「かわいがられる相手を選ぶ」とはどういうことなのか、事例を少しお話しましょう。

私の知り合いにファイナンシャルプランナーがいますが、その中のひとりに「キーパーソンの懐に入る」のがとても上手な方がいます。その方は、「この人だ」と思った人には徹底的に尽くします。たとえば、相手が社長なのであれば、その社長を尋ねる際には事前に秘書に電話をかけて、「社長の機嫌はどうか」「最近は何に興味があるのか?」といったことをリサーチし、準備してから臨むということです。

その代わりに、そう思わない人にはまったくと言ってよいほど関心を示しません。それは、決して好き嫌いで相手を選んでいるワケではありません。「自分が仕事で貢献できる相手」を選び、相手からも自分を選んでもらえるように、手を尽くしているのです。これは少し極端な事例かもしれませんが、ある意味、組織の中で生きていくための参考になるのではないでしょうか。

日本人は平等を重んじる価値観を持っているため、「特定の人を特別扱いするというのは良くない」と考えがちです。しかし「相手を選ぶ」とは、逆を言うと「自分が貢献できて、かつ感謝される相手はそんなにいない」ということを意味しています。逆に、しっかりと選ぶ必要があるのです。

自分の力は有限です。すべての人を満足させられる人などいません。ですから、「自分がもっとも貢献できる相手」を選んで成果を上げ、そこから波紋のように影響を広げていくことが大切になってきます。

「上司を満足させる」とは「会社を満足させる」こと

ただ、会社の中で働いている限り、「あの人に評価されたい」と思っても、組織の構造上、叶わないこともあるでしょう。たとえうまくいって、特定の上司に気に入られたとしても、その上司が失脚してしまった場合に、自分のキャリアまで止まってしまう可能性も考えられます。上記の知人のように、ピンポイントで相手を見極めるというのは、現実にはなかなかできることではありません。

しかし、このような状況に置かれたときにとても役にたつ言葉があります。

それは、拙著「プロフェッショナルサラリーマン実践Q&A編」(プレジデント社)の巻末特典として漫画「島耕作」などの原作者である弘兼先生と対談したときに耳にした言葉です。

「出てくる人はどこにいても出てくる」

このひとことです。

よって、サラリーマンにオススメできる方法としては、会社にフォーカスすることです。まずは「会社が自分自身に何を求めているのか?」と考え、「自分はそれに対して、どのように応えていくのか?」と思案することです。結局、上司も会社の代弁者に過ぎません。ですから、会社に貢献することを考えていけば、たとえ尽くした上司を見誤っても必ず誰かが見ています。

大切なのは、自分が受けるべき評価を受けることによって、より大きなチャンスをもらえるようになることです。仕事を通じて自己実現をするためには、良い意味で会社を利用することを考えてみましょう。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』が11刷となっている。著作累計は34万部超。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

俣野成敏 公式サイト

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