成果が上がる! スポーツドクターに聞くたったひとつの「心の整え方」
ビジネスパーソンの誰しもが、「心の状態」によって仕事の質や効率が左右された経験があるのではないでしょうか。取引先から褒められた後はなぜか作業がはかどったり、上司から小言を言われた日には落ち込んで何も手がつかなかったり……。せっかく仕事をするのなら、常に心を整えて、いい結果を残したいもの。今回は、有名アスリートやアーティストたちを指導しているスポーツドクターの辻秀一さんに、仕事のパフォーマンスを上げる「心の整え方」について伺いました。
辻秀一氏
スポーツドクター。(株)エミネクロス代表。1961年東京生まれ。北海道大学医学部卒業。慶應義塾大学病院内科で研修。慶應義塾大学スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学ぶ。「応用スポーツ心理学」をベースに、個人や組織のパフォーマンスを最適化・最大化する心の状態「Flow(フロー)」を生み出すための独自理論「辻メソッド」を提唱。企業の産業医やチームドクター、健康コンサルタントとして活躍する一方、有名アスリートやアーティスト、大手企業経営者たちに「心をFlowに導く思考習慣」を指導している。著書『さよなら、ストレス』(文藝春秋)など多数。
「不機嫌」が仕事のパフォーマンスを下げる
——仕事のパフォーマンスを上げたいのに、日々の雑事に追われて悩むビジネスパーソンが大勢います。生産性を改善できなければ、長時間労働や過剰なストレスにも繋がりかねませんが、どう対処していけばいいのでしょう?
まず「なぜパフォーマンスがうまく発揮できないのか」を考えてみましょう。結論から言うと、現代人は「機嫌の悪い」状態に陥りやすいから、仕事がうまくいかないのです。機嫌が悪いと、やる気も出ないし、いいアイデアも湧かないですよね。
次に機嫌が悪くなる原因を挙げると、「環境」「出来事」「他人」の3つに分類できます。雨が降ったり、電車が遅れたり、朝一にメールボックスを確認したら未読が100件以上溜まっていたり……。そういった外的要因による刺激によって、我々の日々の機嫌は左右されているわけです。
しかし、これらの刺激を自分でコントロールするのはまず不可能です。となると、この外的な刺激によって不機嫌になっても、自ら機嫌を整えること。つまり何事にも「揺らがず、とらわれず」な状態を目指すことが、パフォーマンスを上げるための一番の近道だと言えます。
——何事にも「揺らがず、とらわれず」な状態とは、集中力を発揮するということですか?
それだけでは足りません。心理学者のミハイ・チクセントミハイが提唱した「フロー理論」というものがあるのですが、何かをする際、それ自体が楽しいので、何にもとらわれずに没入できるような状態のことを「Flow(フロー)」と言います。ちょうど集中とリラックスが共存した状態です。シンプルな言葉に言い換えれば、「機嫌がいい」ということですね。この「機嫌がいい」状態を「心を整える」といいます。
——では、「自分の機嫌が良くなる方法」を見つけることが大事なのでしょうか。例えば、運動をしたり、好物を食べたりするとか……。
それは「ストレス・コーピング」という対処法ですね。確かに、美味しい料理を食べたり、温泉に入浴したり、好きな映画を観たりすると、機嫌がよくなりますよね。ただ、いくら憂さ晴らしの方法をたくさん知っていても、それをすぐに実行できなければ意味がありません。目の前の仕事を早く終わらせるために「じゃあ、今からハワイ行ってきます」なんて無理じゃないですか(笑)。忙しくて、好きなことがなかなかできない状況が続いて、さらに不機嫌になってしまう人もいます。そこで、何よりもまず機嫌がいい状態そのものに「もっと価値を見出す」ことが大切なのです。
「ストレス」を感じることは人間の生存戦略だった
そもそも、人間の脳はストレスを感じやすい仕組みであることを解説しておきましょう。他の動物と違って、人間は進化の過程で「認知機能」という高等な脳機能を獲得しました。これは一言で言えば、外からの刺激に対して、考えて反応する力のこと。この機能があったおかげで人間は危険を回避したり、道具を作り出したりして、文明を発展することができたのです。
ところが、この機能には外からの刺激に対して、ネガティブな意味付けを起こしやすいという特徴があります。外部の刺激に対して不安や恐怖を感じたり、その理由を見つけることばかりに注視してしまうのは、すべて認知機能のせいなのです。
——もともとは命を長らえさせるための機能だったわけですね。しかし、なぜ現代では逆の効果を生み出してしまうのですか?
それは、脳の仕組みがまったく進化していない一方で、外界の刺激の量や種類がめまぐるしく増えてしまったからでしょう。かつての生命維持装置であった認知機能が、時代の流れに対応できていないわけです。EメールやSNS……常に対応しなくてはならないことに追われている。いわば「認知脳が暴走している」状態に陥っているのです。
反応しなければいけない刺激が多く、ストレスを感じやすい時代をどう生きるか。そのためには機嫌が悪いことよりも、機嫌がいいことの価値のほうに重きを置いてあげることが重要です。つまり、「自分にとって機嫌がいいことは、どれだけ価値があることなのか」を言語化して考える習慣を持たなければいけません。
自分にとって機嫌がいいことの「価値を見出す」
——具体的には何をすればいいのでしょうか?
例えば、機嫌がいいと、ご飯がおいしい、仕事の効率が上がる、人とのコミュニケーションがうまくいくなど、自分にとってのご機嫌であることの「価値」を考えて、それを言葉にしてみることです。ストレスに悩む多くの人が、このようなご機嫌の価値を考える思考習慣を持っていません。
まずは1日に少なくとも3つほど、ご機嫌であることが自分にとって「どんな価値があるのか」を自問自答してみてください。あなたにとって、ご機嫌であることはどんなメリットがありますか?
——私にとって、ですか? えっと……。
ほら、すぐには思い浮かばないでしょう。それだけ「ご機嫌であること」に意識が向いていないということなんです。ストレスに悩む現代人は、「意味付け」という海の中で「この水さえなければ」と泳ぎ喘いでいるようなもの。「嫌な上司さえいなければ」「景気が良かったら」「もっと給料が良ければ」……でも、そんな万全の状態なんて、いつまで経っても来ませんよ。そこで「機嫌がいい」という陸地の存在に気づくことが大事なんです。
「ご機嫌になる」思考習慣をつけることで多くのメリット
——紙に書いたり、家族や同僚同士で「ご機嫌であることの価値」について話し合ってみたりするのもいいかもしれませんね。
そうですね。さらに、ご機嫌でいることのメリットは他にもあります。ひとつは、生きる上でのパフォーマンスが向上すること。次に、人との関係の質が良くなるので、コミュニケーションが円滑になって、人間関係が今以上によくなること。機嫌の悪い人と一緒にいたい人はいませんから。それと、健康にもメリットがあること。近年では、機嫌がいい状態が動脈硬化や認知症、感染症の抑制にも効果があることが判明しています。そして、自分の変革と成長に繋がることです。
人間の変革と成長を最も阻害しているのが、脳が過去にとらわれてしまうこと。これはある英会話学校でメンタルトレーニングをした際に知ったことですが、「英語に苦手意識がある人」と「そうじゃない人」がいたら、後者のほうが確実に学習効率は高いんです。
これだけメリットがあれば、もうやるしかないでしょう。”Just do it in Flow(つべこべ言わず、ご機嫌でやろう)”ですよ。「ご機嫌であることの価値を考える」方法は、時間もお金も必要とせず、いつでもどこでもできることが特徴。どんな状況下でもご機嫌になる思考習慣を身につけるということです。自身のパフォーマンスを上げたい方だけじゃなく、今の職場の環境や人間関係に悩む方にもきっと役立つと思いますよ。
WRITING:紐野義貴+プレスラボ PHOTO:安井信介
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