黒猫チェルシー『LIFE IS A MIRACLE』インタビュー
2月に4年半ぶりとなるアルバム『LIFE IS A MIRACLE』をリリースした黒猫チェルシー。年齢の割には激シブなサウンドや演奏スタイルは事実だが、それが実際にリスナーの胸を射抜く歌と演奏に昇華されている。やりたいことが伝わることと直結している。再びここから始まる黒猫のストーリーを過去も(ちょっと)振り返りながら展望する。
——4年半ぶりにアルバムをリリースしてみていかがですか?
渡辺「作品の手応えはすごくあって。自信持って、『これ、好きなんだよ』って友達に紹介できるようなアルバムができたなぁっていう風に思ってて」
——反応は耳に入ってきてますか?
渡辺「やっぱ今までを知ってくれてる友達とかファンの人たち、ライヴに来てくれてるような人たちは、『今までで一番いいアルバム』って言ってくれたりもするし。でも、まぁまちまちなんですけど、結構時間が空いてるんで『あ、今、こういう感じなんや』って反応の人もいるというイメージですかね。『変化』っていうものが先に入ってくるというか、変化したことの印象が強いというのも久々に聴いてみようかなという人にはあると思います。それでもスルメみたいに何度も聴いてもらったらわかってもらえるとは思うんですけど」
——このアルバムを聴いて、黒猫チェルシーって芯からミュージシャンなんだなと。そして戦えるフロントマンがいるんだなと思いました。
澤「それはむちゃくちゃ嬉しいですね。4年半ぶりなんで、『じゃあ次はどこに行ったら俺らのアイデンティティは目立つんやろうな?』と。例えば前回のアルバム『HARENTIC ZOO』でいうと、それまでとはサウンドも一新して、外部のミュージシャンに入ってもらったり、プロデューサーのエッセンスやアレンジも作品にすごく影響がありましたし、自分たちにも新しいものであって。そういうところで新鮮味を保っていった部分もある」
——登場時のパンクな黒猫とはガラッと変化した時期で。
澤「それ以降、リリースしてない期間は、ライヴばかりやってたわけですよね。普通、バンドはライヴやってリリースしてツアーしてという連鎖で循環していくものが、俺らはライヴに偏らざるをえないところがあって。で、今回、どういうアルバムになるのかといった時に、やっぱりね、バンドとしてこれからもやっていくことであったり、今まで何をしてきただろうかというのは、この4年半の間ですごく考えたとから黒猫として普遍的なものができた。ある種、ファースト・アルバムみたいなものというか」
——改めてファースト・アルバムのような感覚だと?
澤「インディーズの時に初めてCDを出せる時にーーその時はパンクバンドとしてやってたんですけど、自分たちが高校生の時だったり、東京出て来てからもそうですけど、そこの地点での自分たちの固まったものを出すっていう感覚に今回はわりと近くて。そのワクワク感はすごいありましたね。なんか、自分ら、これからずっと絶対やっていくだろうなってことだったり、自分らのやってく音楽というのを今までよりは俯瞰で見れたところはあるかもしれないですね」
——黒猫ってパンクの中にも古いブルースやロックや日本のフォークみたいなものも含まれてたわけじゃないですか。それを今、演じなくてもできるって感じなのかなと思いました。
渡辺「各々が自分のプレイに好きな音楽だったり、いろんなものの影響をちゃんとプレイに落とし込めるようになったと思っていて。ロックっぽいことをやろうとしてやるのって、ロックから離れて行く気がして。ロックというか、自分の好きなものから離れていく気がして。今、僕ら、自然に好きなことができてるから、『自然にロックやってます』というか。見栄を張ってとかじゃなくて、自分のそのままの『俺はこれが好きや』というのを生活の一部のように出せているアルバムができました」
——アルバム・リリースのない間、正直、little voiceとしてNHKの番組に出てるのを観ていたたまれない時とかもあったんですよ。
一同「(笑)」
——皆さん自身はどうだったのかなと。今回“涙のふたり”が収録されていて、ももちろん浮いてないんですよね。
渡辺「朝ドラで曲を作ったのは、むしろ面白がってやっていて。もちろんそうじゃないとやらないというか。それを作る時にも意識してたのは、黒猫としてずっとやっていける曲を作るということ。朝ドラは曲を作るきっかけに過ぎなくて、朝ドラのために曲を作るという意識は一個もなかったんですよ。僕が作りたい、『こういう感じの曲をずっと歌っていたいな』と思う曲が、たまたまドラマの雰囲気にも合っちゃったぐらいの感じで作っていたつもりだったんで」
澤「でも、あれがあったことによって、幅を見せやすくなったっていうのはありますね(笑)。ああいう極端な状況があったからこそ、例えばそのあとの“グッバイ”が来ても、『ああ、はいはい』みたいな感じではあったと思うんです。馴染みというか、慣らしみたいなもんで。前に出したんがベストアルバムで、その中に“サニー”って新曲が含まれてるんですけど、あの時はどっちかというと、とことんシンプルにして原点回帰するという、ある種、そういうところもあって。で、そこからレーベルが新しくなる過程で、黒猫としてのリリースがある前にlittle voiceがあったことで柔軟になった感じはありますよね。それはバンドとしてというよりは、どっちかというとバンドの側(ガワ)っていうか、黒猫チェルシーというものの側の面でですけど」
岡本「そもそも、高校生の時に、高校生同士のトーナメントみたいなんに僕らが出た時もそうだったけど、なんか僕らみたいなバンドがそんなことをやるとか、ロックバンドがこんなことをやっちゃうこととか面白いなと思うし、朝ドラに出るのもそういう環境があることがすげえと思って、自分的には面白がってできましたけどね」
——そうなんですね。岡本さんと宮田さんが蜜のサポートをしているライヴを見たんですけど、その時に本当にこの人たちはミュージシャンなんだなと確認して。
渡辺「結構この4年半、特に各々の修行みたいな期間になりましたね。だから、さっき言った自分のプレイに好きな感覚を落とし込むみたいなことも、そういう各々のサポートの活動だったり、もしかしたらそうやって朝ドラに出て、なんかやってるということも、自分にとっては表出というか、表現するのに影響があったんですよ。そういう意味でも大事な時間になったなぁと思いますね。『そうした』って感じもあるんですけど」
——修行期間にした?
渡辺「うん。リリースが決まってないとか、次がなかなか出せないっていう期間、『じゃあ、何する?』という時に、もちろんライヴっていうことになるんだけど、ただ数をいっぱいやればいいのかというとそういうことでもない。そこで各々の活動が大事になってきたなという感じですね」
—今はニューアルバムが出て、曲を知った上でライヴに来てくれる人も多いと思いますが、新曲に関してはどういう反応ですか?
澤「最近“Dark Night, Spot Light”って曲をやり始めてるんですけど、思った以上に反応がいいですね。なんやろな? やっぱりライヴになると、当たり前の話なんですけど、完全に……4人、黒猫チェルシーの……音って言ったらいいのかな。もちろん、レコーディングしてるものも黒猫チェルシーの音なんですけど、でもそこにはイメージしてるもの、例えば80年代のディスコチューンとか、まぁちょっとそういうイメージの断片みたいなのがあって、いろんなアイデアの中から曲は作ってて、それを一つ一つ録音していって完成させるっていうことがレコーディングやとして、でも4人だけで演奏するとなると、もう何を演奏してもライヴの中の大事な黒猫の曲という風になっていって。で、観てる人もそういう気分ですんなり入ってきてくれてるのは、言葉で『あの曲良かったです』とかそういうことじゃなくて感じますね」
—“Dark Night, Spot Light”は黒猫が演奏すると本気のディスコになるじゃないですか(笑)? 生演奏の。
一同「ははは」
澤「そう(笑)。ほんと、そういう意味で言うと今回のアルバムはほんとにね、作ってみて改めて思ったんですけど、すごく真っ当なんですね。真っ当と言うか、俺らがディスコチューンやるとマジすぎる(笑)。でもその辺は絶対に大事なところだとは思ってるんです。“飲みに行こう”とか“ロックバラード”もそうですし。俺らは別に古い音楽を体現してるんじゃなくて、単純に自分たちの好きなもの、影響を受けたものを黒猫チェルシーというものを通して、どうやったら楽しめるか、楽しいと思ってくれるんだろかを考えてやってるんですけど、わりと懐古的に取られることも多くて。そこはやっぱり、自分らがほんとに好きだからそうなってるということだと思うんですよね」
渡辺「でもそこにちょっと悔しさはあるんですよ。こう、『渋いね』とか『古い音楽好きなんだね』みたいに言われるのが。古い音楽も今の音楽も、いい音楽だったり好きな音楽を探してるだけであって。今、2017年にプレイしてる者としては、新しくいたいというか。そこはなんやろ、次の課題かもしれないですけど」
岡本「多分、基礎が古いんで」
一同「ははは」
岡本「あのー、ほんとに狙っていかないとそうならないんだと思います」
——(笑)。高校生の時から10年、もういろんな経験をしすぎてるんじゃないかという気もするけれど。
澤「そうですね。『10年かぁ』って感じですね。デビュー当時、先輩たちが『あっという間だよ』とか言ってたことがちょっとだけわかってきたというか。だからこそひとつ一つ、丁寧に一生懸命作らないと、ダメなんだなと。それと同時に人生っていうのもあっという間なんだろうなというのはね、思うんで」
——宮田さんはいかがですか?すごくマイペースな感じに見えるけど。
宮田「そうっすね(笑)」
——(笑)。
宮田「僕はあんまり時代とか考えてないですけどね」
——宮田さんは大学院が終わったら音楽専業になるんですか?
宮田「まぁ、給料もらってるっていう意味ではそうですかね(笑)」
渡辺「俺と一緒とは言わないけど、岳ちゃんも個としての創作は続けてほしいというか」
——漆をやってるんですよね。これまで学生として取られてた時間がどうなって行くのかなって。
宮田「20歳のころに思ってたほど、そんなにもう人生でいっぱいできないなと。なんで、今まではなんでもできると思ってたんですけど、もうあと一個か二個ぐらいしかできないなと思ってるんで。だから自分の気持ちいいことをやろうと思ってますけどね(笑)」
——バンドの力学というか、メンバー同士のバランスとかは変わってないですか?
岡本「いやー、でもちゃんと話せるようになってきてます。すごく変わってきてます」
——前は話さなくて済んでいたということ?
岡本「いやー、仲悪かったんじゃないですか」
——いつ頃が一番悪かった?
澤「いや、初期の頃もそうですし、『猫パック2』の“東京”って曲の頃やったり、色々ありますね。仲が悪いというか、その頃はバンド自体に苛立ってたから。黒猫チェルシーってもの自体への、どうしていきたいのかということに対して。パンクバンドとしてはじめて、でも続けていうとなるといろんなことやりたくなるじゃないですか。そこでブレてる感じにすごく苛立ちを感じてて。自分に対してだったり、黒猫に対してすごくイライラしてるのに、バンドとしてのレールは続いて行く中で『何をするんや?』ってなると、なんかこう、とにかくやめたかったですよね。もう、終わらせた方がいいんじゃないかと思ったことはありましたね」
——今もやりたいことは色々あるけど、ブレがなくなった。
澤「最近はもう、出したらすぐに次のこと考えてる状態で。出してそれに腰を下ろしちゃうと『うーん』ってなってくるんで。ずっと準備運動してる感じじゃないと血の巡りが悪くなってくるんで。だからそういう意味で言うと、リリースをコンスタントにできる状況というのは血の巡りをよくするような要因でもあるし、アルバムを作り終える頃には次のこと考えてるというのが、健康的なんじゃないかなと」
——考えてます?
渡辺「あ、今、もう次のやつ?考えてます?(澤に)」
澤「うん」
——常に動いてるから一撃を出せるという状態であるということですね。それにしても渡辺さんはドラマでもよく見かけるんですが。
渡辺「ああ、そうですか?」
——だいぶ前ですけど「ロンググッドバイ」は渡辺さんが一番ハマってたと思います。渡辺さんの存在感はリアリティありました(笑)。
渡辺「あれ、もう4年前です。嬉しいですね。実は脚本の渡辺あやさんにもーー僕、すごいちょい役やったんですけど、俺が一番良かったって言ってくれはって」
——映画も撮ってたりするし、アウトプットが音楽以外のとこにもあるのはどうなんですか?
渡辺「自分はそういうやつなんやなって、そこでバランスとってんだなというのが体でわかるようになってきました。『やりたい』とか『やってみよう』という感覚ではもはやなくて、音楽、バンドありきで、外で受ける影響というか、そこで発散することで自分を保ってるんやなという気はしてますね。ただ役者の仕事ってオファーが来ないとやれないじゃないですか(笑)。不思議なんですけど、来なかったら来ないでいいという感覚もあるんです。やりたいというよりは、オファーをいただいてやれそうやったらやるというか。演技したいという欲よりも、とにかく映像が好きで、映画の現場を見たいというのが強いですね。映像の現場の空気に触れたいって感じです。最近思ったんですよ、演技がそんなに好きなわけではないと(笑)」
——違う現場に行ってるせいかわからないですけど、渡辺さんが書く言葉はだいぶ変わったじゃないですか。
渡辺「はい」
——架空の存在とか、ものすごいブチ切れてる人は出て来なくなって。
渡辺「ああ……さっきの『自然にロックする』って感じじゃないですけど、わりと自分の心に近い歌が描きたい気分ですね。でもなんやろ? それでも今回も自分というより、自分の好きなやつみたいな。“恋するハイウェイ”とか“飲みに行こう”とかも、自分より、ちょっと離れてる気もしてるんですよね。それを……あんまり意識させずに聴かせられたらいいなって思ってます」
——バンドとして止まらずに行くって、自信を持ち過ぎたらあれですけど、自信がないとできないことですね。
渡辺「や、むしろなんとなくの自信はあるんですけど、圧倒的な自信を持ってやらないとというのはありますね。有無を言わせない。反面的な気持ちも必要だと思うんです。『いやー、まだまだあかんな』という気持ちと圧倒的な自信の両方を持ってたいと思いますね。ふわっとした自信はいらないと思ってます」
photo Hiroki Wada(TRON)
interview&text Yuka Ishizumi
direction&edit Ryoko Kuwahara
黒猫チェルシー
『LIFE IS A MIRACLE』
初回限定盤(CD+DVD)
通常盤(CD)
発売中
(SONY)
■収録曲
M-1 M-1589
M-2 スター・トレイン
M-3 Dark Night, Spot Light
M-4 涙のふたり ※NHK連続テレビ小説「まれ」劇中歌
M-5 恋するハイウェイ
M-6 グッバイ
M-7 また会おう ※NHK連続テレビ小説「まれ」劇中歌
M-8 LIFE IS A MIRACLE
M-9 青のララバイ ※テレビ東京系アニメーション「NARUTO-ナルト-疾風伝」EDテーマ
M-10 ロックバラード
M-11 飲みに行こう
M-12 海沿いの街 ※映画「新宿スワンⅡ」挿入歌
M-13 ボーナストラック(初回生産限定盤のみ収録)
「抱きしめさせて~THE HEAD WINDS ver.~ / 黒猫チェルシー with チャラン・ポ・ランタン・もも」
※TBSドラマ「毒島ゆり子のせきらら日記」劇中歌
【初回生産限定盤DVD】
[LIFE IS A MIRACLE short Movies]
Ep.1「海沿いの街」
Ep.2「Dark Night,Spot Light」
Ep.3「LIFE IS A MIRACLE」
Ep.4「飲みに行こう」
Making Movie
[Music Video]
「涙のふたり」
「グッバイ」Making
「グッバイ」
「青のララバイ」Making
「青のララバイ」
黒猫チェルシー
渡辺大知(Vo.)澤竜次(Gt.)宮田岳(Ba.)岡本啓佑(Dr.)。2007年に地元神戸にて結成。2010年「猫Pack」でメジャーデビュー。
以降、精力的にLIVEを各地で行い、大きく支持を広げる。
2014年には初のベストアルバム「Cans Of Freak Hits」をリリース。2015年8月には渡辺大知(二木高志役)が出演した、NHKドラマ「まれ」から飛び出したバンド【little voice(リトルボイス)】としても、シングル発表&全国ツアーを敢行。各地SOLD OUTになるなど、大きな反響を呼ぶ。2016年2月にレーベル移籍後初となるシングル“グッバイ”をリリース、全国7都市ツアーを敢行。さらに6月にはシングル“青のララバイ”を発売。2017年2月22日に待望のニューアルバム「LIFE IS A MIRACLE」をリリース。その後、4月より全国10ヶ所を巡るアルバムツアーも決定している。
渡辺大知は俳優として、TBSドラマ「毒島ゆり子のせきらら日記」( 幅美登里役)、又吉原作の話題のドラマ「火花」 第1,2,4話( 小野寺役)に出演<全世界190ヶ国配信>、その後、舞台「かもめ」at東京芸術劇場にも出演するなど活躍の場を広げている。
http://www.kuronekochelsea.jp
http://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/kuronekochelsea/lifeisamiracle/
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
ウェブサイト: http://www.neol.jp/
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