建築の聖地「メム メドウズ」を訪ねて[後編] 夏にはグランピングも

建築の聖地「メム メドウズ」を訪ねて[後編] 夏にはグランピングも

前編では“建築の聖地”として、メム メドウズにあるリノベーションした建物や実験住宅について紹介したが、後編ではこの施設で行われている活動に着目したい。昨年より新しい動きが起こり、人々が集う特別な場が生まれている。

地域に開かれた場に変わりつつあるメム メドウズ。ワークショップスタジオがオープン

メム メドウズがこれまでメインで取り組んできたプロジェクトは、今年で第6回目となる世界各国の大学が参加する「LIXIL国際大学建築コンペ」だ。コンファレンス・センターでは審査員によるシンポジウムが行われたり、最優秀賞を受賞した大学の学生らが、その建設で施工に立ち会うために数カ月間滞在することもある。

これまでこうした建築分野に携わる専門家を中心として使われてきた施設だったが、いま変化のときを迎えている。

その一つが、建築家の伊東豊雄さんが手掛けたワークショップスタジオ、スタジオ メムの完成だ。築40年以上経過した牧草保管用倉庫を当時の雰囲気そのままに、ワークショップを行う施設として改修。昨夏に完成し行われた記念イベントは、これからの建築を考えるための新しい教育の場として設立された伊東建築塾のワークショップだった。以後、定期的にこの塾のプログラムが行われ、今年の6月には、子どもに向けた家具づくりのワークショップも開かれた。4日間かけて子どもたちが椅子や机をつくり、完成した作品は、このスタジオのほか地元の道の駅にも設置。人々に利用されているという。【画像1】スタジオ メム。内部は広々とした空間となっており、多彩なイベントが開催できる。充実したキッチンの設備もあり、料理ワークショップが行われることも(画像提供/LIXIL住生活財団 (C)Kai Nakamura)

【画像1】スタジオ メム。内部は広々とした空間となっており、多彩なイベントが開催できる。充実したキッチンの設備もあり、料理ワークショップが行われることも(画像提供/LIXIL住生活財団 (C)Kai Nakamura)

日常では味わえない大自然の息吹を感じる、MEMU EARTH HOTEL

今年の8月から10月にかけて、この場で新たな取り組みも始まった。放送作家の小山薫堂さんが社長を務めるオレンジ・アンド・パートナーズの企画によるグランピングという贅沢なキャンプが楽しめるMEMU EARTH HOTELのオープンだ。3つの宿泊プランがあり、大型テントによる滞在のほか、「天井のないホテル」という牧草地のなかにベッドだけが置かれたプランもあるなど、地球との一体感を味わうためのアイデアがつまった場となった。また、ディナーにもこだわり、放牧豚として有名な「どろぶた」など地元食材をふんだんに使い、西麻布のレストランHOUSEのシェフが料理を監修。宿泊者自身が大自然のなかで調理に参加するというスタイルがとられた。【画像2】2016年、MEMU EARTH HOTELは3カ月限定でオープン。1日5組の受け入れで宿泊代金は大人3万2400円〜。来年の実施は検討中(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】2016年、MEMU EARTH HOTELは3カ月限定でオープン。1日5組の受け入れで宿泊代金は大人3万2400円〜。来年の実施は検討中(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

地元の高校生に向けて、実験住宅を活用した授業も実施

ワークショップスタジオのオープンとMEMU EARTH HOTELの取り組みに加え、地元の人々に向けた試みも始まっている。昨年9月に、地元の大樹高校の生徒と京都大学・神戸大学の学生との学習交流会が行われた。大学生と高校生がチームを組み、メム メドウズの実験住宅から各自で研究テーマを選び、調査を実施。その結果をプレゼンテーションするというプログラムだ。京都や神戸の大学生と接する機会がほとんどない地元の高校生にとって、大いに刺激を受ける交流会となったにちがいない。今年11月には、メム メドウズから調査の場所を大樹高校に移し、2つの大学とのコラボレーションが継続中だ。

さて、ここまでメム メドウズのさまざまな取り組みについて紹介してきたが、仮にわたしがこの施設を利用したいと思ったとき、どのようなアプローチがあるのだろう? 前編で紹介したように実験住宅などの見学は事前に財団に申し込めば可能だが、例えば施設を宿泊やイベントで利用することはできるのだろうか?【画像3】コンファレンス・センター2階の会議スペース。厩舎をリノベーションし100名以上参加のシンポジウムも可能。大樹町の人々が集会を行うケースもあるという(写真撮影/來嶋路子)

【画像3】コンファレンス・センター2階の会議スペース。厩舎をリノベーションし100名以上参加のシンポジウムも可能。大樹町の人々が集会を行うケースもあるという(写真撮影/來嶋路子)

LIXIL住生活財団に聞く! 新しいプロジェクトが展開する理由

この施設をもっと深く知りたいと思い、取材は東京にも及んだ。アポイントを取ったのは、LIXIL住生活財団の専務理事を務める高畑久明男さんだ。まず高畑さんにうかがったのは、メム メドウズでなぜ新たな試みがスタートしているのかという点だ。

「これまで中心だったのは建築コンペでしたが、もっと地域の人々との接点を持ちたいと考え、伊東豊雄さんにワークショップスタジオづくりをお願いしました」

スタジオ メムに充実したキッチン設備をもうけたのも、漁業、農業、酪農が盛んな大樹町の豊かな食材を活かす場となればという考えがあったのだという。また、今年はMEMU EARTH HOTELがこの敷地で開催され、テレビや新聞でも話題となったが、財団としては、さらに一般の人々に、この施設を知ってもらいたいという想いをもっているそうだ。【画像4】財団があるのはLIXIL WINGビル(東京・江東区)。ここには、住生活文化にかかわる技術や歴史を紹介するLIXIL資料館(要事前予約)がありメム メドウズを紹介するコーナーも。建築コンペ第6回の最優秀賞となったデンマーク王立芸術アカデミーによる、INFINITE FIELDのモックアップも展示されており、高畑さんが解説をしてくれた(写真撮影/來嶋路子)

【画像4】財団があるのはLIXIL WINGビル(東京・江東区)。ここには、住生活文化にかかわる技術や歴史を紹介するLIXIL資料館(要事前予約)がありメム メドウズを紹介するコーナーも。建築コンペ第6回の最優秀賞となったデンマーク王立芸術アカデミーによる、INFINITE FIELDのモックアップも展示されており、高畑さんが解説をしてくれた(写真撮影/來嶋路子)

メム メドウズでイベント開催も可能!? 活用方法を考えてみる

高畑さんに各施設の利用料金について伺ってみると、取材でわたしが宿泊させてもらった宿泊室は1泊5000円(4〜11月)。ホテルではなく、あくまで研修施設であるため食事などのサービスはないが、当財団のイベントや建築分野の専門家による研修などの利用を考え宿泊も可能となっている。また、会議スペースは1日5000円。スタジオ メムは1日1万円。公益法人が管理する施設のため利用料は実費のみ。ホームページにある問い合わせフォームから申し込みが可能という。

スペースの広さと設備の充実ぶりを考えると驚くほどリーズナブルな価格。この場所が利用できると知って、思わずイベント開催に挑戦したいと夢がふくらんだ。わたしは祖父祖母たちの暮らしの知恵である保存食に興味をもっており、みそづくりの小さな会を友人たちと開いたこともある。こうした知恵を、みんなともっとシェアするために、大樹町でとれた食材を使った保存食づくりのワークショップができたら面白いんじゃないかと考えた。【画像5】わたしが宿泊をした部屋。木の肌合いを活かした落ち着いた空間で、アメニティも完備されている(写真撮影/來嶋路子)

【画像5】わたしが宿泊をした部屋。木の肌合いを活かした落ち着いた空間で、アメニティも完備されている(写真撮影/來嶋路子)

メム メドウズには宿泊がオススメ。長く滞在すればするほど感動が味わえる

もし、これからメム メドウズに行こうという人にオススメしたいのは、宿泊をすること。わたしが、最も印象的だったのは、満天の星と朝焼けの空をわたっていく白鳥の姿だった。夜から朝へ空が次第に明るくなっていくのを見て、同じ北海道に住んでいても、風景はこんなにも違うものかと驚いた。

メム メドウズをたっぷり堪能したら、大樹町のほかのエリアに足を延ばそう。今回取材に同行してくれた地域おこし協力隊の中神さんのイチ押しは、晩成温泉。海辺に建てられた施設で全国でも珍しいヨード泉だ。お湯は茶色で身体がとても温まる。

このほか、大樹町は30年前から「宇宙のまちづくり」構想をかかげ、JAXAや大学企業が航空宇宙関連の実験を行っている。近年では、実業家の堀江貴文さんが出資する小型ロケットの研究・開発を行うインターステラテクノロジズが話題となっている。メム メドウズを見たあとで航空公園に立ち寄ったとき、建築に加えて宇宙の実験が、日々ここで行われているのだと思うと、大樹町という街にさらなる興味がわいた。建築と宇宙、ともにスケールの大きなものがあるこの地から、未来のわたしたちの暮らしをつくる新たな発想が生まれてくるのかもしれない。そんな予感を感じる旅となった。【画像6】大樹町の宇宙関連施設。多目的航空公園には滑走路や特徴的な屋根の飛行船格納庫などがあり、JAXAや大学などが航空宇宙関連の実験を行っている(写真撮影/來嶋路子)

【画像6】大樹町の宇宙関連施設。多目的航空公園には滑走路や特徴的な屋根の飛行船格納庫などがあり、JAXAや大学などが航空宇宙関連の実験を行っている(写真撮影/來嶋路子)

●前編

建築の聖地「メム メドウズ」を訪ねて[前編] 実験住宅を楽しむ●取材協力

・LIXIL住生活財団
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