トム・ハンクス&アーロン・エッカートが『ハドソン川の奇跡』を語る「俳優の仕事でも大切なのは直感」
2009年のニューヨークで起こり、奇跡的な生還劇として世界に広く報道された航空機事故の裏側を、クリント・イーストウッド監督が映画化した『ハドソン川の奇跡』。イーストウッド監督と初タッグとなるトム・ハンクスを主演に迎え、「155人の命を救い、容疑者になった男」の真実を描きます。
今回、ガジェット通信ではサレンバーガー機長を演じた主演のトム・ハンクスと、ジェフ副機長役のアーロン・エッカートにインタビューを敢行。作品の魅力から役者という仕事について等、色々とお話を伺いました。
『ハドソン川の奇跡』ストーリー
2009年1月15日、乗客乗員155人を乗せた航空機がマンハッタンの上空850メートルでコントロールを失う。機長のチェズレイ・サレンバーガーは必死に機体を制御し、ハドソン川に着水させることに成功。その後も浸水する機体から乗客の誘導を指揮し、全員が事故から生還する。機長は一躍、国民的英雄として称賛されるが、その判断が正しかったのか、国家運輸安全委員会の厳しい追及が行われる。
ーまず、お伺いしたいのですが、お2人は2009人にこの事件が起きた時、どの様に受け止めていらっしゃいましたか?
トム・ハンクス:テレビで映像を見て、ちょっとこれはおかしいぞと思いました。だってハドソン川の上に飛行機が浮かんでいるんですから。その時は見ている事が信じられない気持ちでいっぱいでした。またテロの攻撃があったのかと思いました、でもそうでは無かったんです。逆に素晴らしい一日となりました。
アーロン・エッカート:私もテレビで観ました。皆さんがウィングの上に立って、とても寒そうにしていて。あり得ない事が起きていると最初に感じた事を記憶しています。でもその後テレビのテロップで全員が無事だと流れ、アメリカ中がお祝いでしたし、アメリカだけでは無く世界中で大騒ぎだったと思いますよ。
ー主人公のサリー機長はもちろん、サリー機長を信じ続けたジェフ副機長も、とても辛く大変な想いをしたと思います。アーロン・エッカートさんはこの役柄をどう演じようと思いましたか?
アーロン・エッカート:ジェフ本人とお話をしました。素晴らしい脚本と素晴らしい監督、素晴らしいスタッフに囲まれていた御陰で演じる事が出来たのだけど、自分の準備としてはパイロットの仕事について調べ、自分でも飛んでみました。ジェフは安全委員会の厳しい質問に合いながらも、自信を持っていたと思いますよ。心の中には「正しい」という気持ちがあったと思います。
ートム・ハンクスさんはいかがですか?
トム・ハンクス:サリーはキャリアの中でパイロットをし続けてきた。この(サリーの)行動というのは自分の心の中に従ったものだと思う。直感です。108秒という時間の中で何をやるべきかを、長年のキャリアで培った直感で選択する事が出来たんですね。サリーとジェフは、経験に基づいて「正しいことをやった」と確信していた。その時に起こった感情では無くて、プロセスをしっかりと説明してくれたよ。
ーハドソン川の奇跡を起こしたのは、まさに人間の経験と直感であり、様々な物が機械化・自動化している現代人は特に感動を覚えるのでは無いかとも感じました。
トム・ハンクス:機械やコンピューターがある事によって僕達の生活がよくなった事は確かだよね。映画作りにおいても、CGや機械がある事によって僕達は実際に宙づりにされずに済む。便利になった事は認めます。でも、機械がやれる事って限られていますよね。エキスパートが判断する、という事は機械には出来ない。コックピットにパイロットがいなかったらどうですか? コンピュターを信じられるでしょうか? 映画の様に鳥がエンジンをアタックしたとしたら、正常な判断を下せるでしょうか? 機械によって99%は出来ます、でも人間はやっぱり最後の1%を大切にしているんです。
アーロン・エッカート:テクノロジーは驚く様な進化をしているし、僕達も影響を受けています。でも感情など機械が出来ない事もたくさんあります。トムが言った様に、この出来事では人間が判断を下したんだ。
ー映画の中で、サリーは何かを考える時に走ったり、ジェフは緊迫した審議会でもジョークを言ったりと、「追いつめられた時」にキャラクターが濃く出るなと思いました。お2人はピンチの時に何をしますか?
トム・ハンクス:昼寝します!
アーロン・エッカート:(笑)
トム・ハンクス:でも、実際に脚本を読んでサリーがどの様な精神状態にいたのか、どの様な気持ちでいたのかを知って驚いたんだ。非常に強いストレスがあった。2人は“ハドソン川の奇跡”の後もしばらく立ち直る事が出来なかった。自分の仕事を完璧やったにもかかわらず、彼らは自分の仕事を失うかもしれないという負担を受けたんだ。この映画では、どのように着水したかも描かれるけれど、彼らがどのような精神的負担を受けたのかも描かれる。それがこの映画の素晴らしさだと思っているよ。
ーそんな様々な出来事が起った実際の事件を96分という作品にまとめあげた監督の手腕は脱帽でした……。イーストウッド監督とお仕事をされていかがでしたか?
トム・ハンクス:彼はまさにボスだね。アメリカの歴史のなかで、『許されざる者』や『ミスティック・リバー』など洗練された素晴らしい映画を撮ってきた。現場では「ここはこうして、ああやって」なんていう話をあまりしないんだ。サラリと「どうぞ」と言われるから、とにかく僕たちはやるしかない。だからクリントの現場は、まったく時間が無駄にならない。映画作りにおいて時間が経つことによってメンタルやエネルギー、集中力が浪費されることがあるけれど、そんなことが全くない。何十本でも彼と映画を作りたいね。
アーロン・エッカート:彼は本当にまるで「楽にやっている」様に映画を撮るんだ。クルーとの関係が本当に素晴らしいんだ。今までずっと、作品に関わってきた人々と家族のようになって撮影をしている。誰でもそこに加われば家族の一員として迎えられるので、ものすごく仕事がしやすいんだ。イーストウッド監督は業界の中でとても尊敬されている、アイコン的な存在。僕にとってもヒーローさ。尊敬する俳優・監督だから、誰もが「最高の事をやりたい」と思って準備をして現場にやってくるんだ。
ー最後に。お2人は様々な作品に出演されていますが、作品選びの決め手というのはどの様な所にあるのでしょうか?
アーロン・エッカート:出演する映画選びというのは、監督、共演者、スタジオ、色々な要素があるかもしれないが、僕の場合は「自分がその役を演じている姿が想像出来たら」引き受ける事にしているよ。
トム・ハンクス:僕が一番大切にしているのは「テーマ」さ。作品のテーマがやるべき物か、歴史的な記録的な物でも、ノンフィクションでも、脚本を見た時に素晴らしい、もしくは知らなかったと思わなければ面白く無い。そして、小説としてはよくても映画としては面白くない事もあります、これを決めるのはやっぱり“直感”ですね。
ー今日は楽しいお話をどうもありがとうございました!
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。