睡眠は「ツール」か「目的」か?理想のコントロール法を考える

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誰もが必ずとる行動のひとつ「睡眠」。

人間として生きる以上、睡眠は避けて通れません。

睡眠を十分とれなければ仕事のパフォーマンスは上がらないし、そもそも自分にとって最適な睡眠時間もよく分からないですよね。時には昼夜逆転してしまう人もいるのでは?

「どうせ眠るならば睡眠をツールと捉えれば良い」。そう語るのは、ユークロニア株式会社の代表であり、作業療法士の菅原洋平さん。

睡眠を活用して、自分のやりたいことができる生活を送るための秘訣をお聞きしました。「睡眠」というツールを日々活用したい人必見です!

「睡眠をマネジメントする」会社を立ち上げるまで

——菅原さんはどういった経緯で睡眠マネジメントに取り組むことになったのでしょうか?

大学の専攻が作業療法士なんですけども、勉強を進めていく中でフィジカルは単純だなと思ったんです。単純なものよりも、もう少し中身の見えないものを扱う方に興味が出まして、僕自身、脳の解剖もやっていたことと、心の病は脳疾患だということが分かってきた時期ということもあり、脳を勉強できる精神科からキャリアはスタートしています。

——起業に至ったのはなぜでしょう。

国立病院機構のてんかんセンターで仕事をしていた中で、患者さんの在院日数を分析していると、どういったタイプの人が長く入院しているのかが分かってきたんです。

それは、睡眠薬が処方されている人の在院日数が長く、回復が遅いということでした。さらに、どうやらよく寝させればよく回復するということも分かってきたのです。

医学っていうのは患者さん24時間のうち、対面している数分しか診れないんです。治療した後、その人がきちんと睡眠をとらなければ、その治療は活かされないということになります。

僕らがやるべきこととして、普段の治療を最も効率化させるためには、患者さんが確実に眠れるスケジュールを作ることなんじゃないか、ということが分かってきました。実際に睡眠スケジュール管理を導入していったら、お薬を使わなくても睡眠がとれ、回復が進むようになったのです。当時は「なんだこれは」みたいな感じで、病院の職員としては盲点でした。

病院の職員からすると、睡眠薬っていうのは下剤と一緒なんです。便秘ですって言ったら、「はい、下剤です」。眠れませんって言ったら、「はい、睡眠薬です」っていうぐらい、お薬を処方することでだけで対応しようとするんですよね。

だけど、患者さん主体で考えていくと、患者さんの脳や身体が回復していく時間帯を充実させようという発想が出てくるわけです。そういう観点から、そもそも私たちがしている治療法の見直しや、睡眠を法則化してことに取り組んでいきました。

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だけど、私が病院で勤めている限り、既に脳や身体に不調をきたしてしまっている人を常に相手にしなくてはなりません。

そうすると常に後手を踏んでしまうもどかしさがあり、なんとか先手が打てないかと考えるようになりました。

だから、それをひっくり返せばいいんじゃないかと思いつきました。日本医療の流れは診療して投薬、セルフケアして指導されるというものなんですが、そもそも僕がビジネスマンの現場である企業にいて、セルフケア術を医学的にサポートできれば、病院に来なくて済む人を増やせるんじゃないか、ということをベースプランに置きました。

セルフケアを最初に指導して、そこからはみ出た人を診療、投薬すれば医療費は減るはずです。そうしたビジネスプランを作って、起業しました。

企業における働き方全体を、生体リズムや人間の脳の仕組みに合わせて変えられれば、社員は出勤するだけでそ健康になれる仕組みになるだろうとという発想です。

そのために最初に取り組んだのが、睡眠マネジメントなのです。

睡眠本は売れないと言われる中、変な売れ方をした

——睡眠に関する本を多く出されています。いつごろからメディアへ出始めたのでしょうか?

菅原: 4年前に起業したとき、『あなたの人生を変える睡眠の法則』という本を書かせていただきました。

僕はビジネス書のつもりで書いたんですが、書店では健康本コーナーに置かれていたんです。当時は食事・睡眠・運動系の本がビジネス書の棚に入る枠が無かったんです。

厚木のとある書店さんと出版社さんとで売り方のディスカッションを重ねた結果、ビジネス書の棚に置いたら、一気に売れて。それから丸の内でも売れていきました。出版界では、睡眠本と禁煙本は売れないっていう伝説があったらしいんですが、ビジネス棚に睡眠本が置かれたら急に売れ出したっていうところから、メディアから注目を集めるようになりました。

厚木という場所が、通勤時間が長く、睡眠時間が少ない人が多い場所だっていうのが鍵だったらしいんです。

そういう事情のある人たちにとって、睡眠コントロール術は需要があるってことが分かるきっかけになりました。

睡眠は目的じゃなくてタイムマネジメント対象のひとつ

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——菅原さんは脳の専門ですよね。

菅原:そうですね。脳みそを扱う専門なので、睡眠の専門家ですかって言われるとちょっと違います。当時、睡眠の本といったら、レム睡眠とノンレム睡眠が主流でしたが、そのことには特に触れていません。書いているのは「朝から夕方までにやるべきこと」なのです。

つまり、睡眠をコントロールするっていうことは、タイムマネジメントの一環なんです。その発想がなぜか今までは無かったので、分かりやすく紹介しました。

「4・6・11の睡眠の法則」という、起床から4時間以内に光を見て、6時間後に目を閉じて、11時間後に姿勢を良くするってことをやっていけば睡眠は確実にコントロールできるっていう法則について書いています。

この「4・6・11の睡眠の法則」を企業が導入すると、事故が減ったりとか、遅刻が減るとか、残業が減るといった効果が表れ始めました。

睡眠コントロールは、脳や身体に不調をきたしている人だけでなく、健康な人にとっても役に立つんです。でも、人はなぜか病気になってからしかそういう情報を得ようとしません。それはすごくもったいないことだと思いますね。

これまで、医療関係者から発信される情報は専門的すぎて分かりづらかったものが多いと思いますが、僕の役割は、普通に生活している一般人の方々へ専門知識を分かりやすい形へ変換してお届けすることだと考えています。

——睡眠はタイムマネジメントの一環という言葉がグサッときました。

菅原:そういう考えは通常はしないかもしれませんね。

今では、睡眠外来に来る人は、「今週末ゴルフコンペだからどういうスケジュールでやったらいい?」っていう理由でいらっしゃったり、「海外出張に行くんだけど」とか、受験生が来たりとかそういう理由です。

睡眠っていうのはそもそも目的じゃないんです。ひとつのツールであるはずなんですけど、なぜかみんな目的だと思ってしまう。

●時間睡眠がいいだの、ショートスリーパーがなんだ。と、それは僕らには関係の無いことです。人は毎日寝ていることですし、それを少しでも変えられれば、本当に最小手数で最大の効果が出せるひとつのツールですよっていう位置づけをとにかく発信していっています。

そうしたら、パフォーマンスを上げるためには睡眠をコントロールするってことが重要だよねってことがだんだん言われ始めた。最近は反響の方向が変わってきたように感じますね。

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——睡眠は自分のパフォーマンスを出すために行うことだと

菅原:やりたいことをもっと充実させるためのツールですね。

やりたいことを実現するために、どんな能力が必要で、その能力が発揮されるのはどのタイミングで、というのが決まっているんだから、それに合わせて自分の体内時計をデザインしていけばいいのです。

そう考えていくと、眠れるのがいいとか、眠れないとダメだとかそういった話ではなくなりますし、悩む必要もありません。

企業で睡眠コントロールの研修をしていていると「眠りをテーマにすると、悪者が作られなくて良い」と人事の方からよく言われます。

例えば、遅刻してきたらこの人が悪いとか、教育が悪いとか、この人の親が悪いとか、それを指導した上司が悪いとか、必ず誰が、何が悪いってことを決めて、そういう人に研修を受けさせるのが企業の通例でした。

しかし睡眠は、役職の差も性別も関係無く、みんな動物として眠るのだから、そこをしっかりコントロールしましょうよ、といったことが伝わると、悪者探しをせずに対策を立てることができて、しかもすぐ効果が出て評価もやりやすい。そういう意味で、企業の健康経営を実現するには便利なツールなんです。誰も傷つかないしメンバーから社長まで全員を対象に取り組めることなんですよね。

あとがき

菅原さんの話は目から鱗が落ちるほど、人間であれば誰もが知りたい情報ばかりでした。菅原さんのインタビューをきっかけに、自分の睡眠への取り組みを変えてみたところ、ハッキリと仕事へ取り組む姿勢が変わり、タイムマネジメントをしやすくなっているのを実感します。

次回は、ビジネスパーソンとして睡眠をツールとして活用する実践的なお話をお届けします。

【菅原洋平 プロフィール】作業療法士。病気になる前に役に立ちたい!働く人たちの脳を活性化して病気を予防するビジネスプランを考案。2012年4月にユークロニア株式会社を設立。

取材・文・撮影:大野恭希(株式会社HF.M)

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