池袋の路上にスナック、シャボン玉屋さん、ハンモック等の家具が出現!? 歩道活用の最先端「IKEBUKURO LIVING LOOP」8年で広がった街と人のつながりが素敵すぎる
JP池袋駅東口正面から南東に延びるグリーン大通りとその脇を入ったところにある南池袋公園で、2024年の11月1日から11月4日の3日間(当初は4日間の予定が、11月2日は雨天で中止)、「IKEBUKURO LIVING LOOP(イケブクロ・リビング・ループ」のスペシャルマーケットが開催されました。
2017年にスタートして8年。単なるイベントだけではない、日常的な活動の起点となる「ストリートファニチャー(木製などの屋外用家具)」やポップアップスタンド「STREET KIOSK(ストリート・キヨスク」の設置など、さまざまな形で広がりを見せています。運営者であるnestの宮田サラさん、キャスト(スタッフ)の西えみりさんにお話を聞きました。
コロナ禍を経て、全国で歩道を活用する取り組みが増えている
池袋駅前の様子(写真/桑田瑞穂)
「IKEBUKURO LIVING LOOP」の現在について紹介する前に、日本の“歩道利用”が今とても盛り上がっていることが背景にあることも、ぜひ触れておきたいと思います。
「IKEBUKURO LIVING LOOP」は2017年にスタートした取り組みですが、日本の歩道活用に注目が集まるようになったのはコロナ禍がきっかけ。
日本では道路の使用において厳しい制約があり、歩道を「通行」以外の目的で使用することはかなりハードルの高いことでした。ところが、コロナ禍を経て、他の人と適切な距離を保ちながら飲食をはじめとするさまざまな活動の楽しみ方として、屋外空間の活用が見直されてきました。歩道も例外ではなく、国は2020年5月末に「歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)」制度を創設しました。これは、通行以外の目的でも、道路を柔軟に利用できるようにしたものです。以来、全国の自治体で歩道を活用した新しい取り組みが展開されています。
2020年、賑わいのある道路空間をつくるために国は道路法の一部を改正して「歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)」制度を設けた(画像/国土交通省)
2022年には国が「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくり支援制度を開始。まちなかで交流・滞在空間を創出することを目的として、地域の取り組みに対し、国が法律・予算・税制をパッケージにして支援している(画像/国土交通省)
2017年にスタートしたIKEBUKURO LIVING LOOPは、これらの制度開始に先駆けて、歩道を活用して快適な空間をまちなかに生み出してきた取り組みと言って差し支えないでしょう。同イベントは、「訪れる人が、まるで自宅のリビングのようにくつろいだり、食事や会話を楽しむ風景を日常にしていきたい」という想いで開催したのが最初でした。
前回の2021年の記事では、2020年以降のコロナの影響でIKEBUKURO LIVING LOOPも開催ができなくなった時期があったことを紹介しました。コロナ前にマーケットに出店していた人たちの販路を少しでも支えるためにコロナ自粛中もオンラインマルシェやトークイベントなどを積極的にやり続けたことで、宮田さんたちは、コロナが落ち着いたタイミングで開催したマーケットの来場者の過ごし方から「IKEBUKURO LIVING LOOP」がまちに馴染んでいることを感じたそう。イベントだけではないプロジェクト全体に「IKEBUKURO LIVING LOOP」を位置付け、ストリートファニチャーを設置して屋外をリビングとして活用するなどの取り組みにつながったのです。
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コロナ明けの本領発揮となった、2024年のIKEBUKURO LIVING LOOPは?
それ以降もIKEBUKURO LIVING LOOPの活動は年々進化を遂げ、日常を取り戻した2024年は、本領を発揮するかのように無数の活動が同時多発的に動いています。規模の拡大だけではなく、日常的な活動の起点となる「ストリートファニチャー(木製などの屋外用家具)」やポップアップスタンド「STREET KIOSK」を設置したことで、商品・サービスを提供する側と購入する側の線引きはより曖昧になり、さらには購入や消費をともなわずに、集まる人たちが空間・時間を共有し、会話するような活動が生まれているようです。
ストリートファニチャーに設置した屋台で行われているSTREET KIOSKの風景(画像/nest)
南池袋公園の入口に設置されたIKEBUKURO LIVING LOOPのサイン(写真撮影/桑田瑞穂)
まず、毎年11月に開催してきたスペシャルマーケットでは、出店した店舗の数が4日間累計で243店舗に。販売している飲食物やグッズなどの購入をした人の数は、雨天で中止となった11月2日を除いた3日間でも9,674名、183店舗にのぼるそう。
グリーン大通りの北側は池袋周辺に店舗を構える人たちが集い、新しいストリートファニチャーが設置された「池袋人人横丁」、南側はマーケットの入口となる手づくり雑貨や飲食店などが並ぶ「sunlight」エリアと「循環」をテーマとしたお店などが集まる「forest」エリア、そして南池袋公園の芝生でくつろぐ人たちと全国のお店が集まる「park」エリアの4エリアで、さまざまな活動が展開されていました。
「池袋人人横丁」、「sunlight」エリア、「forest」エリア、「park」エリアの4エリアに4日間累計で243店舗が出店。多くの人が集まり、9,674名の人が購入を楽しんだ(画像/nest)
スペシャルマーケット当日、「park」エリアである南池袋公園の芝生でくつろぐ人たちの様子(写真撮影/桑田瑞穂)
2022年に始まった「STREET KIOSK」。消費活動だけでない楽しみ方とは?
たくさんの活動の中でも、1つの大きな目玉となるのが2022年に始まった「STREET KIOSK」です。実は、IKEBUKURO LIVING LOOPの取り組みがさまざまな展開を見せる中で課題となっていたのが、「ゴミの増加」でした。歩道にストリートファニチャー(木製などの屋外用家具)を置き、多くの人が路上でくつろげるようになった半面、そこで飲食などをして生じたゴミが置かれたままになる、という問題が発生したのです。
「ゴミの問題を解決しようとする時、最初に上がるアイデアの1つがゴミ箱というハード(モノ)の設置だと思います。けれども、ゴミ箱を設置すれば、その中に捨てられたゴミを回収する役割と手間が必要になります。また、捨てられる場所があることでゴミのさらなる増加にも繋がりかねません。それは人的・経済的な負担をともなうため、ハードに頼らない解決方法がないかと考えました」(宮田さん)
2021年頃から通りの南側に常設されているストリートファニチャー(画像/nest)
多くの人がくつろげる空間である一方、ゴミが放置される問題が生じた(写真撮影/桑田瑞穂)
「そこで思いついたのが『人の目』です。多くの人は他の人から見られていると、なかなか路上でゴミを捨てたり、放置したりすることはできないものです。『STREET KIOSK』として、飲食の販売などを行いながら、道行く方々とコミュニケーションを取れる案内所のような場所を設置する、小さな実験から始めてみました。すると、明らかにゴミが減る効果を実感できたので、最初の2022年は1カ月間だったものを、2023年は3カ月間、2024年は7カ月間と、毎年、期間を延ばして開設するようになりました」(宮田さん)
STREET KIOSKでは、コーヒーショップの人が出店をすることもあれば、消費活動によらないもの、例えば「編み物をする」「シャボン玉を吹く」など、地域の人が楽しみながら何かしらの活動をしています。マーケット開催中だけでなく、平日も含め8:00~21:00の間で、さまざまな店舗が出店。中には一人で近くに住む高齢女性が会話を楽しみに立ち寄ることもあるそう。宮田さんは「豊島区は東京23区で最も単身高齢者が多く住む場所。夜の時間は、帰宅するために足早に通り過ぎる人が多かった通りで、まちの人が集い、語り合う風景を生み出しながら、もしかすると孤立などの社会問題の解決にも繋がるかも、と期待できることが嬉しい」と微笑みながら語ります。
夜のSTREET KIOSKの一例。こちらは2022年の開始当時に26歳だった男女による、お客さんに悩みを聞いてもらう「逆スナック」開催中の様子(画像/nest)
数年前からマーケットに出店していた母親についてきていた子どもが、コーヒーショップにコーヒーの淹れ方を習い、STREET KIOSKでふるまうときもあるそう(画像/nest)
「シャボン玉休憩」をコンセプトにした「シャボン玉KIOSK」開催中の様子。ワンオペ育児中の母親が子どもを連れてきたり、清掃活動の後に一緒にコーヒーを飲む活動をするCCC(Cleanup & Coffee Club)の人が遊びに来たり人の輪が広がる(画像/nest)
エリアを広げて「池袋人人横丁」に。路上スナックや新たなストリートファニチャー
そして、2024年のもう一つの大きな目玉が、グリーン大通りの北側に広がった「池袋人人横丁」の取り組みです。宮田さんたちが「IKEBUKURO LIVING LOOPの『B面』」と表現するこの取り組みは「大人の文化祭」でもあり、「健全な猥雑性」を含んでいます。
2024年からグリーン大通りの北側のアップデートを目指して活用を始めた「池袋人人横丁」。写真は、スペシャルマーケット当日の本部の様子(写真撮影/桑田瑞穂)
「例えば、北池袋にあるコミュニティスペース『くすのき荘』が企画をして行っている『路上スナック』は、池袋の人たちが知り合いを募ってスナックを開催しています。周りの人たちがスナックのママになりそうな人たちに声をかけ、仲間になりたい人たちが自発的にチームになって展開されています。『人と会話すること』を楽しむ場所になりました」(西さん)
さらに、地元の建築家4名が場所に合うストリートファニチャーを設計し、10月11日から2025年3月31日までの予定で設置しています。「建築家が家具を設計するだけでなく、自身が出店もしてストリートファニチャーを設置した後の使い方まで実体験して試行錯誤している姿も魅力的」と宮田さんは嬉しそうです。
CaD・建築家の須藤剛さんがデザインしたストリートファニチャー。須藤さんたちは自身の設計したストリートファニチャーで、スペシャルマーケットの期間中、ホットドックやソーセージなどを提供する店を出し、使い勝手を確かめた(写真撮影/桑田瑞穂)
須藤さんがデザインしたストリートファニチャーで飲食を楽しむ家族連れ(写真撮影/桑田瑞穂)
公共空間である歩道にモノを設置したり、活用したり、公園を利用したりするには、行政(豊島区)との連携も欠かせません。実際に宮田さんたちは都市計画課、土木管理課、公園緑地課など、複数の課と何度も協議をしてきたそう。
「行政に、このような道路活用の取り組みを広げたいと言葉やプランだけで語っても、実現するまでには時間がかかります。そこで、民間の団体や企業が先導する形で『こんな通りになったらいいよね』をマーケットの中で実験的に体現し、そこで楽しむ人々の姿を実際に見せ続けてきたことで理解が広がっていたと思います。また、2021年にストリートファニチャーの実験的な設置が実現できていたことが、今回の設置の実現にも大きく影響しました」(宮田さん)
この取り組みには池袋周辺に本社や営業所を構える企業も積極的に協力してくれています。塗装会社が塗料を提供して地域の人たちと一緒にストリートファニチャーを塗装するワークショップを開催したり、都市緑化を行う会社が、植込みを新たにつくり替えて魅力的な空間にするなどの活動を実施しているそうです。
「循環」をテーマに再利用。普段からのつながりと信頼関係が本領を発揮する
実は「池袋人人横丁」に新たに設置されたファニチャーには西池袋にある立教小学校の建て替えで廃材となった体育館の床材などが使われています。これは2024年のIKEBUKURO LIVING LOOPのテーマのひとつとして「循環」を掲げていることにもつながります。
2024年度のテーマは「循環」。体育館の床材を活用し、バスケットコートの線や色をそのまま生かしたデザインとなっている(画像/nest)
アウトドアブランドの「パタゴニア」は、布をリユースするワークショップを開催(写真撮影/桑田瑞穂)
2022年までのマーケットで野菜を販売していた農家が2023年のスペシャルマーケットでコンポスト(生ゴミなどの有機物を微生物の働きで発酵・分解して堆肥にすること、そのための容器)を設置したところ、パエリアを販売するお店から出る貝殻を砕いて肥料に変えました。それを見た豆乳販売店が「マーケットを楽しんで終わりではなく、その先のゴミが増える問題も改善したい」と関心のある人たちに声をかけて、2024年5月のマーケットから「循環」をテーマにした取り組みが始まりました。
パエリア店の前に置かれた生ゴミ専用のゴミ箱。集めてコンポストに入れて肥料にし、畑で野菜を育てる際などに使われる(写真撮影/桑田瑞穂)
また2024年からマーケット中は「リユースカップ」を用意してレンタル登録をした人に貸し出し。飲み物を買う人に提供する際のカップを捨てるのではなく洗って再利用する、という行動を促しています。ポイントは、「楽しむ」仕掛けを用意すること。ただ、リユースカップを普通に水道で洗うのではなく「洗浄ステーション」と呼ばれる洗い場には、プロが使うようなハンディタイプの高圧洗浄機を用意し、ピストルのように「ジャッ」と高圧の水を噴射させて楽しみながら洗うことができます。
リユースを前提としてレンタル提供する「リユースカップ」(写真撮影/桑田瑞穂)
参加者は購入した飲み物を飲み終わったら、エリア内に2カ所ある「洗浄ステーション」でカップを洗ったり、給水もできる(写真撮影/桑田瑞穂)
さらに驚くのは、雨天で中止となった11月2日のこと。遠方から出店する予定だった店舗の材料が無駄になること(フードロス)を防ぐために、急遽、池袋周辺に店舗がある人たちが遠方からの出店者を自分の店に受け入れて、池袋周辺の4カ所で振り替え出店を行ったそう。雨の中、どの店もかなりにぎわっていたそうです。
西さんは「雨天という人の力ではコントロールできない突然のハプニングに対しても、出店するお店同士が自発的に協力してすぐに受け入れ体制が整うことも、普段からのつながりと信頼関係の賜物だな、と感動した」と振り返ります。
一方で、これからの課題は「道を育てていく」こと。ファニチャーも新しく植えた植物も使い続けるためには人の手が必要です。街の人たちにも協力してもらったり、一緒になって育てていくため、サポーターを募集したり、クラウドファンディングを実施してお金を集めたり、水やりのサポート運営に関わる方を増やしていくそうです。
ストリートファニチャーの周りの植栽を地域の人たちと植え替えしたときの様子(画像/nest)
前回、2021年に取材した時もIKEBUKURO LIVING LOOPを運営する人たちからは「提供する側/購入する側の線引きを曖昧にしたい」との思いが語られました。まさにここでは、事業として出店する人、出店しながら人の輪を広げたい人、面白そうだから何かやってみたい人と、いろんな人たちの関わり方のグラデーションを見ることができます。「自分たちでまちをもっと面白くできるんじゃないかというシビックプライドを醸成したり、頼ったり頼られたりのいい意味での依存先や関係をいかに築いていけるか、これからもチャレンジし続けたい」と明るく語る宮田さんたち。
そして、関わるみんながまちで楽しみながら人と人との関係をつくり、その関係性を面白がって誰かとシェアして勝手に広がっていく様子こそ、歩道活用の最先端と言えるのではないでしょうか。
●取材協力
・IKEBUKURO LIVING LOOP
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