対立を組織活性化のエネルギーに変える「コンフリクト・マネジメント」とは?
『不機嫌な職場』という本が以前、ベストセラーになりました。日頃から感情的な対立が見られるようなギスギスした雰囲気の職場では、目覚ましい成果を上げたり画期的な発想を生みだすことは難しいでしょう。こうした職場では業務以外のところに余計な神経を使わなければならず、成果を出す以前の段階で疲弊してしまうからです。
こうした対立や衝突、葛藤を逆にチャンスととらえ、組織活性化に役立てようとする考え方が「コンフリクト・マネジメント」です。 コンフリクト・マネジメントの考え方と手法についてご紹介します。
コンフリクト・マネジメントの基本
まずコンフリクト・マネジメントの基本的な考え方を説明します。
●コンフリクト・マネジメントとは?
「コンフリクト」とは「競合」「対立」「衝突」「葛藤」という意味です。日本では昔から「和を以て貴しとなす」の精神が受け継がれ、言いたいことがあったとしても場の空気を読んで自分を抑え、波風を立てないようにする傾向があると言われています。
しかし、コンフリクト・マネジメントは、そうした一見ネガティブなものと捉えられがちな対立や衝突を戦略的に活用して、組織変革や強化に役立てようとする手法です。
コンフリクトの原因はさまざまです。例えばスピードの速い変化を求められたとします。その変化を脅威に感じて抵抗する人たちと、変化を推進する人たちの間で対立が起きやすくなります。また、年功序列制度の見直し、成果主義の浸透、職場のダイバーシティ化などの影響で、目標数値の設定や目標の達成度、自分に対する評価などをめぐって意見の対立が生じることもあります。
こうしたコンフリクトを生む要素をまとめると、次の3つになります。
「上司と部下」「クライアントと営業」など立場や役割の違いから生まれる「条件の対立」 戦略や方針に対する思考、価値観の違いなどから生まれる「認知の対立」 「条件の対立」と「認知の対立」が継続することによって生まれる「感情の対立」
「条件」や「認知」の対立は「タスク・コンフリクト」と呼ばれ、立場の違う人同士が仕事の方針などをめぐって、「こうすべきだ」「いや、そうではなくて…」などと対立するものです。これに対して、タスク・コンフリクトをこじらせた「感情の対立」は「リレーションシップ・コンフリクト」と呼ばれ、相手に対する「嫌い」「腹が立つ」という感情面での対立です。「感情の対立」までエスカレートしていると、解決が困難になる場合があるので、「感情の対立」に至る前にうまくコンフリクト・マネジメントを行うことが大切だと言われています。
●コンフリクト・マネジメントがもたらす4つのメリット
「コンフリクト=良くないもの」として捉えられがちですが、正確にマネジメントすることで、以下4つのメリットをもたらすことができます。
1)組織に変革をもたらす
「タスク・コンフリクト」が起こるのは、組織が変革を推進している証。逆に言えば、コンフリクトが起きないこと自体、それは大した変革ではないということです。コンフリクト・マネジメントを行うことで、感情的な対立を起こさず、組織に変革をもたらすことができます。
2)率直な意見を言い合える環境ができる
コンフリクトの当事者同士が本質かつ率直な意見交換を行うことで、意見を述べやすい環境をつくり、職場を活性化させることに役立ちます。コンフリクトがうまく解消できれば、双方の関係を以前より強固なものにすることも可能です。ここでも、人格否定や悪口などの「感情の対立」へとエスカレートさせないことがポイントです。
3)意思決定の質を高められる
自分の意見を言語化することにより、自分が何に対して不安や怒りを感じているのか、あらためて頭の整理をすることができます。同様に相手の真意を理解することで、論点が明確になり、意思決定の質を高めることができます。
4)新たな学び、気づき、アイデアが生まれる
コンフリクトによってお互いが相手の視点や意見から学んだり、逆に相手の矛盾点を指摘し合うことで議論が練られ、自分一人では気づけなかった新たな考え方やアイデアが生まれやすくなります。そのことで双方が共に成長し、組織にもプラスの影響を与えることができるでしょう。
コンフリクトの対処法と解決の手順
コンフリクトに正しく対処してWin-Winの関係へと導く手法とはどのようなものなのでしょうか。
●コンフリクト発生時の5つの対処法
1)競争
権力や圧力を利用し、自分の意見を強制する方法です。相手の意見を受け入れないため、Win-Loseの関係となります。
2)受容
相手の意見や要求を優先して、それに従うことです。自分の意見が受け入れられないため、Lose- Winの関係となります。
3)妥協
双方の意見から妥協点を探ることです。ただし、このケースではどちらの要求水準も下がるため、双方にとって満足のいく結果にはなりません。
4)回避
双方が解決を回避し、先延ばしする方法です。いわば双方が現実逃避することであり、Lose-Loseになる可能性が高くなります。
5)協調
双方の意見や利益を尊重し、お互いがWin-Winとなる解決を目指す前向きな方法です。
●コンフリクト解決の手順
協調によってWin-Winの関係へと導くための手順は以下の通りです。
1)一致点と相違点の把握
最初に双方の意見を全て出し合い、一致点と対立の原因となっている相違点を洗い出します。
2)コンフリクトの原因を明確化
浮き彫りになった相違点から論点を整理、明確化し、コンフリクトの原因を突き止めます。
3)どうすればWin-Winの解決ができるかを双方が考える
第三者の視点で原因を客観的に捉えるよう努め、「自分たちはどの方向を向いて仕事をしているのか」を再確認します。その上で「自分たちの立場や言い分にこだわりすぎていないか」「お互いが納得できる形で歩み寄れる方法はないか」「どうすれば創造的な解決策を見いだせるか」など双方が解決策のアイデア出しを行います。そこで合意した点を実行に移すことで、双方が納得する形で着地させることができるでしょう。
コンフリクト・マネジメントの導入ステップ
実際にコンフリクト・マネジメントを組織に導入するためのステップをご紹介します。
1)コンフリクトの重要性・メリットを共有する
コンフリクトがもともと好きだという人は少数派でしょう。しかし、コンフリクトを回避していると、組織内に火種がくすぶったままの不健全な状態が続くことになり、「感情の対立」が起きやすくなります。そうならないためには、「変革のためにはコンフリクトが必要であり、それをWin-Winというポジティブな形で乗り越えることで組織が強固になる」という認識を全員で共有することから始まります。
2)「誰が」ではなく「何が」正しいかを考える
部下が意見を言うと、上司が頭ごなしに否定したり無視するのではなく、フラットな立場で率直な意見交換ができる雰囲気をつくる必要があります。その上で、組織の共通目標は何かを双方が確認し合い、「どちらが正しいか?」ではなく、「何が正しいのか?」という視点で相手の意見を尊重しながら解決策を模索します。
3)上司が積極的にコンフリクトを許容する
上司の立場として、「自分のチーム内にコンフリクトが起きていることを他の部署に知られたくない」という心理が働きがちです。しかし、新たな考え方を導入・浸透させるには、上司から率先して行うことが重要です。他の部署との関係や上司と部下との関係性だけでなく、部下同士でもコンフリクトが発生することを許容しマネジメントすることで、率直かつ本質的なコミュニケーションに基づいて協調的に問題を解決するという組織文化が定着します。
●コンフリクト・マネジメントの事例(開発部門vs運用部門)
社内で開発から運用まで行うシステム会社の事例を挙げます。
開発部門で完成したシステムはマニュアルを作成して、運用部門へと引き継がれ、日次・週次・月次のオペレーションを滞りなく実行する必要があります。
しかし、ある時点から運用上でのオペレーション障害が多発し、運用部門は営業部門や開発部門からクレームを受けました。コンフリクトの内容は、開発部門が「正確にマニュアルが作られているのだから、それを指示通りに実行してほしい」という意見であり、運用部門は「次々と新しいシステムが引き継がれるため、オペレーションが増え続けて対処できない」というものでした。
例えば、運用部門が「受容」の対処をした場合、「運用人数を増員する」「残業を増やす」という方法となります。しかし、単純な人員増加や残業の増加はコスト増につながり、運用部門の評価だけが下がる結果となって、運用部門だけが損をしてしまいます。
そこで、コンフリクト・マネジメントの考え方に基づいて双方の意見を洗い出すと、「増え続けるオペレーション」「老朽化したマニュアル」「自動化できるオペレーションを手動対応している」という原因が浮かび上がってきました。
開発部門と「協調」しながら、「運用現場から見て、継続して実行できるオペレーションは自動化し、手動オペレーション数を減らす」「すでに古くなったマニュアルを最新状態へと改修することで、運用コストを削減する」という方針が決まり、実行。その結果、余ったコストをさらなる開発や運用の改善へと利用することが可能になり、双方にとってWin-Winの結果へと導くことができたそうです。
これは、コンフリクト・マネジメントが上手く機能した好例です。
コンフリクト・マネジメントで、対立を変革へのパワーに変える
職場のグローバル化、ダイバーシティ化の過程で、コンフリクトが発生することがあるかもしれません。そこで、コンフリクトを見て見ぬふりするのか、双方が良い方向へ進むための良い材料とするかによって職場の雰囲気やストレス量が変わり、ひいてはアウトプットの質に大きな影響を与えるのは確実です。対立を正しく解決する「コンフリクト・マネジメント」の考え方を学んで実行し、対立を組織活性化のエネルギーへと変えることが求められています。
【参考】
『異質な力を引き出す 対立のススメ』(日本能率協会マネジメントセンター)
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