自分の望み通りに相手を動かす心理メール術
■行動を促すメールでは、読み手の感情に訴えかけよ!
世の中には2種類の人がいます。相手の心を動かすメールが書ける人と、相手の心を動かすメールが書けない人です。
たとえば、ある会社の社長に対して、営業マンAと営業マンBさんがアポ取りのメールを書いたとします。そのときに、営業マンAには「では会いましょう」と快諾の返信がきて、営業マンBには「忙しいのでまたの機会に」と断りの返信がくる。私たちの身の回りでは、そういうことが頻繁に起きています。当然、仕事で成果をあげ続けているのは営業マンAのほうです。
両者の違いはどこにあるのでしょうか? それは、読む人の心を動かす文面を紡げているかどうかです。人は「感情」を備えた生き物です。したがって、相手に何かしらの行動を望むのであれば、「感情」に訴えかける文面を紡ぐ必要があります。
■名著に学ぶ「人の名前」の重要性
自分の名前を覚えていて、それを呼んでくれるということは、まことに気分のいいもので、つまらぬお世辞よりもよほど効果がある。逆に、相手の名前を忘れたり、まちがえて書いたりすると、やっかいなことが起きる。
デール・カーネギー著『人を動かす』より
自己啓発作家のテール・カーネギーは、自身の著作のなかで、名前の重要性について、こう語っています。平たく言えば“人は自分の名前を呼ばれると嬉しい”ということです。なぜなら、自分を大切に扱ってくれている、と感じるからです。
逆に、相手から名前を呼ばれなかったり、名前を間違えられたりすると、「軽んじられた」と感じ、相手に好意を持てなくなったり、抗戦的な態度に出たりすることがあります。人は、それほど自分の名前を大事にしています。メールを書くときにも、この人間心理を押さえておく必要があります。大事なのは以下の2点です。
ポイント1:人の名前を間違えて書かない
ポイント2:積極的に人の名前を書く
ポイント1を意識するのは、マナーとしても当然でしょう。一方で、ポイント2を意識している人は意外に少ないかもしれません。メール冒頭の「宛名」以外にも、適宜、相手の名前を挟むことによって、相手が好意や好感を抱きやすくなります。
△ お会いできるのを楽しみにしております。
○ 二宮さんにお会いできるのを楽しみにしております。
このわずかな違いが、「相手の感情が動く or 相手の感情が動かない」の差を生み出すのです。
■依頼のメールでは、相手の自己重要感を満たすことに注力せよ
筆者のもとには、よく講演や研修の依頼メールが届きます。たとえば、次のようなメールです。
【依頼メールA】
弊社の社員向けに「文章作成」の研修を検討しております。
山口先生に講師をお願いしたく、ご連絡差し上げた次第です。
仕事の依頼ですので、ありがたいメールには違いありません。しかし、感情が揺さぶられるほど嬉しいかといえば、答えはノーです。では、次のようなメールであればどうでしょう。
【依頼メールB】
弊社の社員向けに「文章作成」の研修を検討しております。
いくつかの「文章の書き方本」に目を通しましたが、
山口先生のご著書がずば抜けて分かりやすく、
また、その的確なノウハウにたいへん感銘を受けました。
山口先生のノウハウこそが弊社社員に必要であると判断し、
ダメ元でご連絡差し上げた次第です。
先ほどよりも心に刺さる依頼メールです。「ずば抜けて分かりやすく」「たいへん感銘を受けました」というフレーズを目にして喜ばない著者がいるでしょうか。メールAとBは、同じ依頼メールですが、「なんとかして、この会社の力になりたい」と意気に感じるのはメールBです。
なかには、「『ダメ元』という言葉を使うのはマナー違反では?」とツッコミを入れたくなった人もいるでしょう。ごもっともな意見です。確かに「無理を承知で」などの言葉に置き換えれば、よりスマートだったかもしれません。
しかし、大事なのは相手の心が動くかどうかであり、依頼メールであれば、快諾がもらえるかどうかです。相手を動かすメールに求められるのは、表面的なマナーや日本語的な正しさではありません。相手の自己重要感を満たしたうえで、「嬉しい」「力になりたい」と感じてもらえる文面を心がけましょう。
■指示のメールは「ネガティブ表現」ではなく「ポジティブ表現」で書こう!
① 説得力のない企画書はいりません。
② 説得力のある企画書を期待しています。
上司から届いたメールです。あなたがメール受信者なら、気持よく受け入れられるのは①と②のどちらでしょうか? おそらく②ではないでしょうか。①には「説得力のない」「いりません」などのネガティブな表現が使われています。人によっては、自分が責められている、あるいは、嫌味を言われている、と感じる人もいるでしょう。
一方、②は「説得力のある」「期待しています」などのポジティブ表現が使われています。部下を鼓舞、応援する姿勢が感じられます。同じ内容のメールでも、言い方を工夫するだけで、受ける印象が大きく変わるのです。
【ネガティブ表現で書かれたメールを受信した場合】
気分が沈む/モチベーションが下がる/テンションが下がる/嫌な気持ちになる/拒絶したくなる/悪意を抱く
【ポジティブ表現で書かれたメールを受信した場合】
気分がよくなる/モチベーションが上がる/テンションが上がる/嬉しい気持ちになる/受け入れたくなる/好意を抱く
“指示する”ということは、相手に何かしらの成果を出してもらいたいわけです。その目的を達成するためには、相手のモチベーションを損なうネガティブ表現ではなく、モチベーションを高めるポジティブ表現を使ったほうが賢明です。
くどいようですが、相手は感情をもった人間です。行動を促す目的のメールでは、その感情をコントロールする書き方が求められるのです。
■えっ、「よろしくお願い致します」は危険!?
多くの方は使っている「よろしくお願い致します」は、とても使い勝手のいい結び言葉です。しかし、「よろしくお願い致します」と書いておけば、万事安泰というわけではありません。
資料をお送り致します。お手数ですが、よろしくお願い致します。
もしも、相手に何かしらの行動を期待しているなら、「よろしくお願い致します」だけでは物足りません。相手の行動を促す言葉を書く必要があります。
資料をお送りいたします。お手数ですが、内容をご確認のうえ、ご返信いただければ幸いです。よろしくお願い致します。
このように、具体的に行動を促すことによって、相手も「しっかり資料を読もう」という気持ちになります。
× 忘年会を予定しております。よろしくお願い致します。
◯ 忘年会を予定しております。お手数ですが、明日の正午までに出欠のご返信をいただけますでしょうか。よろしくお願い致します。
× A案とB案を用意しました。よろしくお願い致します。
◯ A案とB案を用意しました。恐縮ですが、忌憚のないご意見、ご助言をいただければ幸いです。よろしくお願い致します。
もちろん、命令調や押し付けがましい言い回しはご法度です。はっきりと指示しながらも、言い回しはていねいでなければいけません。相手の行動を促すときは「明確さ」と「配慮」、この2つのバランスが求められます。
■メールに求められるのは「文章力」よりも「コミュニケーション力」
相手の心を動かすためのヒントをお伝えしてきました。実は、対面のコミュニケーションも、メールのコミュニケーションも、その本質に大差はありません。
ところが、メールになると、とたんに、味気ない、冷たい、物足りないコミュニケーションを図る人が少なくありません。おそらく、目の前に相手がいないことで気が緩むのでしょう。
しかし、メールを打つパソコンの向こう側には、そのメールを受け取る人が100%存在します。どうか、そのことを忘れないでください。メール受信者の顔を鮮明に思い浮かべながらメールの文面を紡げる人は、自分の望み通りに相手を動かすことができる人です。
著者:山口拓朗
『だから、読み手に伝わらない!(もう失敗しない文章コミュニケーションの技術)』著者。
伝える力【話す・書く】研究所主宰。「伝わる文章の書き方」や「メールコミュニケーション」「キャッチコピー作成」等の文章スキルをテーマに執筆・講演活動を行う。著書に、メールコミュニケーションの方法を紹介した『だから、読み手に伝わらない!(もう失敗しない文章コミュニケーションの技術)』(実務教育出版)のほかに、『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(日本実業出版社)『書かずに文章がうまくなるトレーニング』(サンマーク出版)『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)他がある。モットーは「伝わらない悲劇から抜けだそう!」。
山口拓朗公式サイト
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