「好き」を仕事にして成功する人の4つの条件とは?
好きなことをして食べていきたい人は多い。読者の中には、転職して好きな業界で働きたいと考えている人も多いだろう。しかし、ビジネススキルはあるにもかかわらず、好きなことを仕事にした途端、行き詰ってしまうことが多いのもまた事実だ。
好きなことで食べていける人といけない人、何が違うのか。大手食品メーカーを退職し、オーガニックワインで輸入会社を起業し成功を収めた人物に話を聞いた。マヴィ株式会社 代表取締役 田村 安氏
1958年京都生まれ。新卒で大手食品メーカーに就職。ドイツ・フランスに10年間駐在する。退職後98年にオーガニックワイン直輸入の会社、マヴィ株式会社を設立。2005年には東京・赤坂にオーガニックワインショップ「マヴィ」をオープン。現在、都内に大手町店と新高円寺店の3店舗展開。フランス共和国の農事功労章シュヴァリエを受章。
東京・赤坂に「マヴィ」という日本初のオーガニックワイン専門の販売店がある。2005年にオープンして以来、取り扱うワインの質の良さから愛好家から高い評価を受けている店だ。オーナーは田村安さん。もともとは大手食品メーカーに勤務し、フランス料理の世界で醤油を認めさせるマーケティングの仕事をしていた。そんな田村さんに転機が訪れたのは、入社して15年ほど経ったころ。当時、駐在していたフランスでオーガニックワインを飲んだことだった。
「フランス料理界の重鎮たちが集う席で、たまたまブルゴーニュ州のサントネ村で造られたワインを口にしました。のどごしがとてもよく、するすると飲めてしまう。まるでロマネ・コンティのようでした。あまりにおいしいのでどんどん飲んでいたら10本空けていて。そのときはじめて、そのワインがオーガニックワインだと気づきました」
オーガニックワインとは、化学肥料も農薬も使用しない畑で造られたブドウを用い、製造過程にも味・香りの補正といった余計な添加をせず、酸化防止剤をごく微量しか使用しない(もしくは使用しない)ワインのこと。非常に手間がかかるが、土地、造り手、天候などの特徴を十分に生かしたオリジナリティあふれるワインができる。
今でこそオーガニックワインは注目されているが、田村さんが出会った94年当時は、環境立国であるドイツで少し騒がれ始めた程度で、ワインの本場フランスであっても知名度はほとんどなかった。しかし、このことがきっかけでオーガニックに興味を持った田村さんは、日本にオーガニックワインを紹介するビジネスを思いついたのだという。「もともとワインが好きということもあるのですが、それ以上にオーガニックワインの可能性にピンときました。これは絶対成長する産業だと。ちょうどフランス料理界で醤油を認めさせるというタスクを達成したこともあり、起業を決意しました」
もともとゼロから何かを作るのが好きな性格だという田村さん。前職の食品メーカーでも海外の輸入拠点となる事務所を一人で立ち上げて軌道に乗せてきた経験もあった。とはいえ、ワイン業界で働いた経験はない。不安はなかったのだろうか。
「できると思っていました。今思うと、ワイン業界のことを知らなかったからそう思えたんでしょうね(笑)。オーガニックワインと出会ってから2年後に退職し、一人でオーガニックワインの輸入会社を立ち上げました」
設立は98年。赤ワインの健康性が注目された「第6次ワインブーム」が終わった時期だ。市場には売れないワインがあふれ、まったくの逆風。しかもオーガニックワインという言葉さえ日本では知られていなかったため、最初は苦戦したという。
「まずは通信販売限定酒販免許を取得して、自分でワインを輸入して販売することから始めました。しばらくするとある外食チェーンが採用してくれて納入が始まり、軌道に乗りかけたのですが、その会社が買収されてしまって、こちらは倒産しかけた、なんてこともありましたね」
それでも口コミからマヴィのオーガニックワインのよさが広まり、田村さんが輸入したワインを扱ってくれる酒販店も少しずつ増えてきた。仕入れ先もフランス、スペインをはじめ、イタリア、ドイツと広範囲に。店舗も赤坂だけでなく、大手町、新高円寺と3店舗に拡大した。
「キャッシュアウトしない」と常に言い聞かせることが大事
現在でも経営は楽ではないと田村さんは言う。しかし、好きなことで起業し、事業を軌道に乗せるだけでも本当に大変なことである。みんながやりたいと思う業態なら、なおさらだ。「好きなこと」で食べていくために心掛けるべきこととは、どんなことだろうか。
「まずは、“将来、確実に伸びる”という確信があることです。会社を運営していくことはとても難しいことですから、将来、確実に需要が見込める市場じゃないと勝負になりません。仕事がら食品のマーケティングが専門でしたから、オーガニックワインが今後伸びることは直感でわかりました」
直感といっても、田村さんの場合は知識や経験に裏付けられたものだ。知識が多い分野では、直感は働きやすい。将来性があるビジネスがなかなか見つからない人は、自分の得意分野や知識があるジャンルでアンテナを張ってみるといいかもしれない。
2番目に心掛けるべきことは、「誰もやっていないこと」。
「私の場合は先取り過ぎて芽が出るまでに5年以上かかりましたが(笑)。それでも、競争相手が多い場所に参入するより、誰もやっていないことに注力した方がうまくいく可能性は高いと思います。資金がないなら、なおさらです」
そして3番目、それは「お金をかけないこと」だ。
「大手企業で新規事業を立ち上げていた時は、マスマーケティングのため、PRや広告代理店を使って随所にお金をかけていました。しかし、自分で起業するなら、宣伝にしろ、事務所の設備にしろ、いかなるところにもお金をかけないことが大事です。100をかけて100返ってきてもビジネスにはなりません。100をかけたら200のリターンが必要です。でも、現実は100で100のリターンを得るのさえ、とても難しいことです。だから最初から1しかかけない。そうすれば100のリターンしかなくとも事業は続けられます」
“キャッシュアウトしない”。この考え方が最初からできていないと失敗すると田村さんは言う。
「ワイン好きはグラスやお皿や調度品にお金をかけたくなりがちですが、ビジネスとしては我慢です。もう一つ大事なのは、“自分から売り込まない”こと。自分から売りこまないほうが人は信用する。もちろん、いい商品であることや志をきちんと伝える用意はしなくてはいけませんが、それができていれば、支援してくれる人は必ず出てきます」
好きなことで食べていくために、必要な条件は4つある。この条件がそろうまで、準備をし続けることが大事だ。逆に言うと、この条件をクリアしてでもやりたいという熱意が必要なのかもしれない。<“好きなこと”で食べていくための4つのポイント>
1.「伸びそう」だという確信があること
2.「誰もやっていない」こと
3.「お金をかけない」こと
4.「自分から」売り込まないこと名醸地ブルゴーニュ地方のサントネーやムルソー、シャサーニュモンラッシェなどに畑を持つシャペル氏。「マヴィ」で扱うオーガニックワインは、ブドウ造りからワインの製造まですべて自分たちで行うワイナリーで造られたもの。分業をしないので、ワインに作り手の個性が出る。ワインは通販でも購入可能。
www.mavie.co.jp
取材・文/高嶋ちほ子 写真/栗原克己
関連記事リンク(外部サイト)
昔はクールな二枚目だった!?ルー大柴がキャラをチェンジした意外な理由とは
【お仕事インタビュー】子どもに人気の職業『ディスパッチャー』とは!? 〜 フライトの安全と定時性・経済性を考える“地上のキャプテン”
「会社員であること」に縛られていないか?50歳で朝日新聞を辞めた“アフロ記者”が提言する「会社からの自立」
ビジネスパーソンのための、キャリアとビジネスのニュース・コラムサイト。 キャリア構築やスキルアップに役立つコンテンツを配信中!ビジネスパーソンの成長を応援します。
ウェブサイト: http://next.rikunabi.com/journal/
TwitterID: rikunabinext
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。