選挙直前!山田太郎参議院議員インタビュー(上) 「表現の自由を守る活動をしてきた人たちにリスクを取っている」

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2016年6月22日に公示される参議院選挙。人気満了にともない、定数242議席のうち半数の121議席が改選されます。
そんな中、2016年2月に表現の自由を守る党を作った山田太郎参議院議員も新党改革から全国比例区に出馬。当選を目指しています。
ここでは秋葉原に事務所を構えた山田議員にインタビュー。前半は表現の自由を守る取り組みを続けている経緯や、児童ポルノ法やヘイトスピーチ規制法の危険性について、お話を伺いました。

山田家は“コミケ一家”だった!?

--そもそも山田さんが参議院議員になられて、児童ポルノ禁止法や著作権関連の政策に取り組まれるきっかけについてからお伺いできればと思います。

山田太郎議員(以下、山田):わかりました。もともと経営者をやっていて、自分の会社(ネクステック)が、2007年に減損会計のルールが変わって債務超過に関して厳しくなったのです。それで利益が2割もある会社が大変なことになっていくんですね。その時に思ったのが「誰が何のために社会秩序を作っていくのだろう」ということです。(法律やルールを)作ろうとしている人も多分悪気はないと思うのですけれど、それによって傷ついたり影響を受ける人がいるということを間近に感じました。その中で、いろいろなパターンがあるけれど、表現といったものは大きいな、と思うようになりました。
もう一つ。自分の娘がもともとレイヤーなんです。

--コスプレをしている、と?

山田:かなりなレイヤーです、腐女子(笑)。国際展示場のイベントなんかにもブースを出していたりして、うちの奥さんもそれを手伝って連れて行ったりしたり、もともと「コミケ一家」みたいなところがあるんです。だから、この問題や彼ら彼女たちの不安感は前から知っていました。

「児童ポルノの問題は片付いていない」

--TPPの合意が進む中で、著作権の非申告化が二次創作に適用されない方向になったのは、山田議員のご尽力もあったと思いますが、児童ポルノ法も含めて、現状残されている懸念点について、ご見解をお願いします。

山田:まず、エロ・グロ・暴力の表現を取り締まりたいというのが児ポの本質なんです。一方、TPPの著作権非親告罪化は、二次創作やコピー文化を、権利を持ってる人たちがコントロールして取り締まりたいという話なので、系統がちょっと違います。
今回、TPPが批准された場合でも、著作権法上での扱いが日本では原則親告罪で、海賊版のみ非親告罪ということで整理されたので、これは大きい。もっと言ってしまうと、その権利をずっと守っていた親玉としてJASRACみたいな組織もありますが、ここまで今回の措置を認めたから、手打ちがかなりありました。だから、今後またそれが大きく引っくり返って、「やっぱり二次創作、けしからん」「パロディを潰せ」ということにはならないので、ひとつここは収まっているとは思っています。
しかし児ポ法の系譜、かつては全然OKだった『クレヨンしんちゃん』の「ぞ~うさん」だったり、そういったものすらダメっていうことは、やっぱり年々厳しくなってきている。どちらかというと実力を持っているのは、都道府県にある青少年健全育成条例。それらが、有害図書を1つ1つ指定されていくと、いわゆる自主規制も含めて進んでいく。やっぱり懸念点は、その親玉である青少年健全育成基本法が出てくるかどうかということにあるので、全然児ポの問題は片づいていない。問われたのは、児童ポルノ禁止法の中の、附則の検討というものを外すかどうかだけであって。それを外すのに前回成功しましたが、それはその時の事態が回避されただけであって、完全勝利したわけではない。負けなかっただけなんですね、だから今でも、いろいろ攻め込んできているし、まだ大懸念だらけ。特に親玉は青少年健全育成基本法だと思います。

--やはり商業同人問わずに萎縮効果はあると思います。都道府県レベルの健全指定条例で販売できなくなるというのが大きいですよね。そこをよりオープンな形にしていくためには、表現の自由をうたった憲法21条について、より考える必要性があると思うのですが。

山田:もちろんそうです。ですが、憲法を盾に取っても解釈の問題。まず二次元と三次元は違うというところをより徹底すべきです。反対したい人の多くは、特に三次元の実在の子どもに対しての犯罪の原因だと考えている。それが二次元と三次元の話がグチャグチャになっているんですね。私も児童養護をやっている立場でもあるし、性虐待はとんでもない話だから、きちっと取り締まって、起こらないように未然に防止するけれど、二次元は全然違う話だということを、まず最初にやるべきだと思っているんです。
あと二次元についても、刑法175における「猥褻」というレベルと、「ポルノ」でも特に「児童ポルノ」と言われる境目があります。露骨に性器みたいなものが表現されているものは、よろしくないということはわかりますが、「三号ポルノ」と言われる、肌が少し露出しているだけで、それに当たるのか、当たらないのか。さらに児童に見えるのか、見えないのか。そういうことに関してはすごくグレーですよね。そこは何がよくて何が悪いのか、議論があってもいいと思っています。

--まず議論の整理が必要だということですね。

山田:いずれにしても、結果としての表現に責任は生じるが、だからといってどんな表現もしてはならないということはない、ということです。なぜかというと、相手に対してどのような影響を与えたのかどうかが大事な問題。極端な話、個人が自分しか見ないものでエログロのものを描いたとしても、それは趣味嗜好で内心の自由なので、他人がそれを見せつけられたり、不愉快な思いをするならば別だけど、そういう意味では、どんなものをこの国では表現しても、許されるべきだと思っています。
例えば、ナイフだっていろんな使い方をするけれども、人殺しに使っちゃったら、極端な話、それに責任があると言っているのと同じですよね。だからといって、危ないからナイフを全部、どんな場合においても取り締まっちゃえと。あるいはナイフは切れないようにしましょうか、何センチ以下にしようじゃないかとか、どんどんそういう話になっていくと、ナイフそのものがなくなっちゃう。表現って、そういうものだと思うんですよね。表現は常に相手に対して発露するわけだから、行きすぎれば傷つけることがあるのは当然なんですよ。だから「じゃあ、ダメだ」「これとあれはダメだ」と言ってしまうと、線引きが不明確になれば、しゃべれなくなっちゃいますよね、と。
だから、刑法175との関係もあるし、表現は発露と影響というものも分けて考えなきゃいけないし、そういうことを議論として前に進めて、多くの人が構造的にこの問題を議論できるようにする必要があるのかなと思います。

「オリンピックに向けた表現規制の動きは出てくるでしょう」

--コミケに限りませんが、2020年の東京オリンピックでビックサイトが使えないといった、影響についてもお伺いできればと思います。

山田:オリンピックの影響は2つあると思います。1つは場所の問題。もう1つはエロ漫画製造国というように言われたくないということで、2020年に向けて厳しく取り締まられるような方向しようとしている人は多いし、頑張ってそうしないようにしないといけないと思っています。
まず場所の問題に関しては、ビッグサイトが使えないのは2020年だけ。で、いろいろな移行措置を取っているので、どれぐらい影響があるかは今後、横の会場を使えるようにしたという話もあって、それによってもよくわかりません。ただ、コミケに関しては2020年だけ引っ越すか違う形でやったくらいで終わるほどやわじゃないと思いますよ。
私は展示場の議員連盟の仕事もしていますが、世界的に日本は展示場が足りない国だと言われています。パシフィコ横浜にしても幕張メッセにしても、日本の展示場は規模も小さいです。だから別に推進しているのは、羽田に展示場を作ることです。香港やフランクフルトには、空港の近くに巨大展示場があります。
だから、これはビッグサイトだけの問題じゃなく、総合的にそういう展示会が日本でも開けるようにしましょうという議論があるのかな、と思っています。

--場所については分かりました。オリンピックに向けた表現の規制の動きに関してはいかがでしょう。

山田:これからオリンピックに向けてもう一度、エロ・グロ・暴力といったものを排除したい、漫画はその製造装置だみたいな、規制しようという方向性は、たぶん議論が出てくるでしょう。で、青少年健全育成基本法がくすぶっているから、それとセットになってやろうとしてるんじゃないですかねと。オリンピックの影響はそちらの方が大きいと思います。

ヘイトスピーチ規制法に反対した理由

-山田議員はヘイトスピーチ規制法にも反対されました。そのお考えについてもお聞かせ頂ければと。

山田:これには「お前は人権とかわかっているのか」とさんざん言われたのですけれど、まずちゃんと整理しなくちゃいけないと思っています。もちろんヘイトスピーチそのものはやらせるべきでないと思います。でも何がヘイトなのか、あの法律では曖昧模糊としてしまって、何がしたいのかわからないものになってしまっている。ヘイトスピーチを「いい」と推進しているわけでなく、その中に含まれているものが、政府などが恣意的に運用してしまえば、逆に政府批判ができなくなる可能性もあります。先ほども話しましたが、「しゃべっちゃいけない」ということではなく、しゃべったことによって与えた影響についての罪を問うべき。表現の発露のところで線を引くと、誰かが判断するわけなので、もっと言うと検閲にあたるのでは、ということになります。自分の内心で思ったりすることだけで法律が入ってくるとしたら、逆に怖い社会になっちゃうよね、と。

--お話をお伺いして、個人の信条まで規制される社会はディストピア的で怖いな、と改めて思いました。
山田:どんな法律でも、社会秩序系と個人法益を守るものが必ずあります。立法府においてこれらはまったく違うものだし、議員は意識してきちっと議論をやるべきだと思っているんです。それで、個人は弱いから、それを守る法律は作らないとダメです。個人は弱いから。ですが、社会法益という秩序をつくるということは、トレードオフだから別の誰かが傷ついたりするんですよ。それをフェアに見てみたり、その反対の影響を評価するべきだと思うんですよね。
今出ている、例えば朝鮮人へのヘイトスピーチはこの法律で防げたとしても、その他のことが逆に言えなくなっちゃったとか、そういうことがあったらどうなのかと。例えば沖縄の問題で、「アメリカ軍出てこい」「鬼畜米英」という類のこともヘイトであると取られかねないわけで、なんでもかんでも全部ダメですよということではないと思うんです。

「表現の自由」に関心がある人の“数”が問われる

--そんな中で、表現の自由を守る党をお作りになられた意味は大きいと思います。

山田:もちろん、選挙には勝つつもりでおります。でも、結果はどうあれ今回私は皆さんに対しても表現の自由を守る活動をしてきた人たちに対してもリスクを取っていると思っているんです。仮に負けるとしても、大惨敗したらダメなんですよ。負けるなら、惜しいところで負けないと。「こんなに表現の自由に関心がある人がいるんだ」と、皆が焦っちゃうくらいの。もちろん「表現の自由を守ることを支持したいけど、山田さんは嫌いだ」っていうのはしょうがないですよ(笑)。でも、相当な数は結果を出さないと、今回大きく評価をされてしまいます。

--票数が少ないと「規制を進めても構わない」と捉えられてしまうということですね。

山田:そうです。安倍政権と対峙していて、緊張関係はあったと思っています。(私に)気を遣っているよね、正直言って。今回すごくチャンスなのは、18歳選挙権が決まって、政権与党の自民党のすごさでもあるんだけれど、彼らは20年から30年先は見てますよ。つまりインターネットや、漫画、アニメやゲームで育った子たちが有権者として大人になって、強い立場に立ったときに、若いときに嫌な思いをさせられたということで、全員が敵にまわるということは避けたいという中でやってる感は強いですね。
これまでは自分のような議員はいなくてスルーしていたのだけれど、(表現の自由について)言われた時に、無視できない。だけどそれが大したことがなくて政治的に結集できないという結果が出てしまうと、「これはヤバい」と思っています。もはやこれは、自分だけの選挙じゃないという責任感も持ってやっていますので。
どんな立場であったとしても、今回の選挙で全国比例にこだわったのはそのこともあります。選挙区では意味がないんですよ、この運動は。日本人で選挙権のある人がどれだけ(表現の自由のもと)結集できるのかが問われているのであって、自分が(議員を)続けるということだけの選挙ではないと考えています。

(後編 https://getnews.jp/archives/1479281 [リンク] に続く)

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ふじいりょう

乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営し、社会・カルチャー・ネット情報など幅広いテーマを縦横無尽に執筆する傍ら、ライターとしても様々なメディアで活動中。好物はホットケーキと女性ファッション誌。

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