篠崎恵美(edenworks/bedrooms)インタビュー
数々のアーティストとのコラボレーション、百貨店でのディスプレイなどでも知られるフラワークリエイター、篠崎恵美。生き物である花の可能性を、独自の感性で広げ、物語を紡ぐ彼女に、花との出会いから創作への向き合い方を語ってもらった。
——篠崎さんは文化服飾学院出身なんですね。
篠崎「そうです。デザインを専攻していたんですが、今自分が打ち出したいものを洋服に落とし込んでも、デザインしてパターンを描いて布を選んで、という行程をやっていくと出来あがりに一ヶ月はかかるうえに、発表されるのが半年後になってしまう。その頃にはまた違うことを考えているので、タイムロスがあるのが自分には合わないなと。一度はアパレルに就職したんですが、半年ほど経ってそのタイムロスに違和感を覚えている時に、今はもうないんですが、三宿のGLOBEという花屋さんに『スタッフ募集』という張り紙があるのを見て、そのまま時給も聞かずに面接を受けました(笑)。お花は、市場に仕入れに行って、その日のうちにお客さんに届けるというスピード勝負みたいなところも合っていたんです。私、せっかちなんですよ(笑)」
——幼少時代など、花と多く触れあっていた原風景があるんですか?
篠崎「お母さんはすごくお花が好きで、家の至る所に庭で摘んだお花が飾ってありました。でもそれに興味を持ったこともないし、お花屋さんに行ったこともなかったんですけど、直感でした」
——最初に洋服に興味を持ったのも直感だったんですか?
篠崎「中学の頃は音楽がすごく好きで、吹奏楽部に入っていました。でも個人的にはプログレとか聴いていて」
——え、中学でプログレ!?
篠崎「仲のいい人達がロックが好きで、なんかちょっと変な方向に……(笑)。ミュージシャンがどうやってその音楽性になったのかを、本を読んだり、年上の先輩達に聞いて調べて、音楽とファッションがリンクしているとわかったんです。そこからファッションに興味を持ち始めました」
——ファッションで学んだことで今に活かされていることはありますか?
篠崎「色彩感覚や自由な発想ですね。反対の色などを組み合わせて調和させるのは結構難しいんですけど、そのバランスだったり」
——確かに独特で、すぐに篠崎さんのものだとわかりますよね。青系が多い印象ですが、お好きなんですか?
篠崎「青は好きです。その時によって好きな色も変わりますが、ブルーや紫系のものは絶対買ってしまいます。最近は赤も惹かれます。あと、まとめあげすぎず、自然に飛び出させるのがすごく好きで。躍動感、生きてるという感じが出るじゃないですか。そのせいか、野性味があるというのはよく言われますね。お花の世界はわりと伝統的というか、正解不正解みたいなのが結構あるんですが、師匠がいなかったこともあり、そういう枠もあまりないんです」
——篠崎さんはどうやって自分のスタイルを作ったんですか?
篠崎「私は完全に独学で、本で学んだり、GLOBEの庭で勝手に切り花や鉢植え、ガーデンデザインなどの実験をして作り上げていったタイプ。GLOBEはイギリス庭園をルーツにしていたので、働いていた6年半の間に、この年代の花器にはどのような花が合うかというのは学びましたね。あと、独立してからですが、一応国家試験を取って、半年間だけですけどお花の産地を知るために市場で夜中にバイトしました。師匠がいないからこそ、自分の作ったものがお客さんに出せる価値があるのかちゃんとわかりたかったんです。それがすごくいい経験になりました」
——独立をされたきっかけは?
篠崎「賃貸の問題でGLOBEの庭がなくなることになって、閉店を機に独立しました。私は寝るのがもったいないというタイプで、花屋さんと掛け持ちしてコンビニで早朝バイトをしてお金を貯めていて。そのお金で本物のイギリス庭園を見に行こうと思ったんです。それですぐにポンドに換えて、いざ行こうとなった時に、お店を辞めたことを心配してくれたいろんなお客さんが注文をくれて。それがずっと空くことなく、半年くらい経って、『あ、これは行けないな』と思って、ロンドン行きの資金からお金を引き出して車を購入しました。小さくてボロボロの、後ろに荷物を積めるような車なんですけどね。そこに花を積んで売るところから始まり、今に至っています」
——やはりイギリスがルーツなんですね。篠崎さんのお花を見ていて、イギリスの都市部から離れた所にある野性味があるお庭と通じるものがあると思っていたんです。
篠崎「嬉しい! すごくゴージャスな、花の造りが美しいものというよりは、野性の花畑を切り取って、都会にドンと持ってきたようなイメージが好きなんです。そこに私のデザインを加えるとしたら、自然の世界では出会わないであろう、植物を組み合わせて調和させるのが好きで。しきたりを重んじる人からしたらとんでもないことなんでしょうけど、運良く師匠がいなかったので、そういうことを言われずに自由にやっています」
——固定概念にとらわれない発想ですね。
篠崎「はい。産地だけでなく、ウェディングには、菊は使わないという縁起的や固定観念のようなものもお花の世界にはあるんです。でも菊は海外では日常的に飾られているもので、日本で仏花というイメージがついているだけで決して縁起が悪いわけではない。日本伝統の菊人形が元ネタで、菊の花畑をパターンとして服を作るというイメージで、いろんな場所にお花を活けて撮影しました。お花界のオルタナティヴでいたいんですよね。そうやって固定観念にとらわれず、いろんなシーンにお花を落とし込んでお花を見てもらいたいなと思っています」
————確かに、ヘアゴムや絵、音楽など、篠崎さんは飛び抜けてコラボレーションが多い。
篠崎「いろんなコラボレーションしてる理由は、元々音楽もファッションも好きで、それがMVや服などにも落とし込むことができて、全部の夢が叶った気がしています。bedroomは夢を叶える場所としてあるので、お花屋さんだけど、いろんなことが出来て楽しいです。花の可能性はすごいんですよ。お花はそこに一本生えているだけでも素晴らしいんです。お花達は森の中に生えていたら虫や動物しか見ないで終わるかもしれないですが、SNSなどで何千人、何百人の人に見てもらって、『きれいだね』と言ってもらうことも素晴らしいことだと思っています」
ーーお花を一つの生命として捉えていらっしゃるんですね。
篠崎「まさに。だからこそ、『きれいだね』と言ってもらった方がいいのかなと思って、この仕事をしようと決意しました」
——現在進行中のプロジェクトはありますか?
篠崎「いま、紙のお花を作ろうとしています。ウィンドウディスプレイでは、生花だとすぐダメになってしまうので造花になってしまうんですが、造花がどうしても嫌で。ちょっと前には、作曲家の小瀬村晶さん、写真家の新田君彦さんと一緒にDVDも作りました」
——そうした活動をしながら、週末はedenworks bedroomというお花屋さんを開いていて。先ほど夢を叶える場所とおっしゃっていましたが、花屋さんになりたかった異業種の方が店頭に立ったり、それも面白い試みですよね。
篠崎「お花のプロが作れないものだから、本当に素敵なんです。お客さんと話しながら、選んで、組み合わせたものは、プロが作ってなくてもその人のオリジナルで、そういうお花もいいと思うんです」
——bedroomは週末だけで、他はクリエイターとしてクライアントとのお仕事を中心とされているということですが、そちらはedenworksという名前になっています。この名前の由来は?
篠崎「エデンの園は、2人という世界最小のグループ。1人で仕事をしていたのがアシスタントが入って2人になった時、世界最小のグループで今までにない新しいクリエイションをするという意味で、この名前にしました。人数を増やして、目の行き届かないことをたくさんやることもしたくないので、後もなるべく最小の人数でやっていきたいと思っています」
——最後に、篠崎さんが思うお花の魅力を教えて下さい。
篠崎「同じ種類でも全く同じじゃない、生き物というところですかね。同じ種類でも咲き方や色合いが違うので、組み合わせ方も、同じものは二度と出来ない。そういう唯一無二な部分が楽しいです。その時の感情のまま形にして、それはもう二度と出来ないという。人間にもすごく近いと思います。bedroomのコンセプトも、人間が一日をスタートする時と終える時はベッドの上で、生まれた時と死ぬ時もベッドの上だから、始まるということは終わりがあるというのを、花が咲いた状態から枯れるまでで表現できればと思っていて。そういうコンセプトはありますが、お客さまとのコミュニケーションもあれば、花の個性も入ってくるので、みんなと瞬間的に対話しながら毎日衝動をもってライヴをやっている感じです。それが本当にワクワクするんです。『明日はどういうお花が出来るのかな?』という自分でも分からないのが楽しくて仕方ないですね」
篠崎恵美(edenworks/bedrooms)
2009年独立。ウィンドウや店舗の広告やカタログの大型セット、アーティスト写真やCDジャケット、ミュージックビデオやLIVEグッツ、スタイリストさんの衣装制作などにもお花を落とし込む。その他、ミュージシャンや作家さんの自邸、海外の個人邸のガーデンデザインから施工までも手がける。週末限定のフラワーショップ「edenworks bedroom」もオープン。
edenworks bedroom
東京都渋谷区元代々木町8-8 motoyoyogi leaf 2F
営業:土曜/日曜 13:00-20:00(*平日はoffice)
*不定休のため、いらしていただく前にweb/instagramをご確認ください。
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
ウェブサイト: http://www.neol.jp/
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