鉢呂経産相の辞任は記者クラブによる「言葉狩り」か? 失言報道の在り方を考える

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辞任会見で謝罪をする鉢呂氏

 鉢呂前経済産業相の舌禍による辞任劇から2日経った2011年9月12日、経済産業省では後任の枝野幸男前官房長官が就任会見をおこなっていた。今回の鉢呂氏から枝野氏への交代のきっかけとなったのは、鉢呂氏による福島原発視察後の「死の街」と「放射能をつけるという趣旨」の発言だ。これらの発言に対して一斉に批判的な報道をおこなったテレビ・新聞などの大手メディアだが、一部のインターネットユーザーとの間にはわずからならぬ温度差があった。

 鉢呂氏は、辞任会見で「死の街」発言には言及したものの、「放射能をつけるという趣旨」の発言については、「確信がない」「記憶していない」と言うにとどめ、具体的な内容を明らかしなかった。報道によると、この発言は大手メディアで組織される「記者クラブ」に所属する記者らとのオフレコ懇談会での発言であるという。

 この「オフレコ懇談会」、民主党の宮崎岳志衆議院議員によると「建前上、録音が許されていない」とされる。事実、この発言を報じたメディアによって、「ほら、放射能」「放射能つけた」「放射能をうつす」など、発言の表記に「ばらつき」が存在している。

 本当にこの発言はあったのか、真偽は定かではない。しかし、録音が存在しない密室空間での発言をきっかけに大臣辞任にまで至ってしまった今回の騒動。ただならぬ空気を感じ、疑問を呈するのは田中龍作氏だ。田中氏は、自身のブログで、「鉢呂経産相辞任 記者クラブに言葉狩りされて」というタイトルで、以下のように問題提起している。

「オフレコ懇は日本の記者クラブ特有のものだ。出席できるのは、クラブ詰の記者だけである。極端な話、記者全員が一致団結して大臣のコメントを捏造することさえ可能だ」

「大臣を辞任に追い込んだ記者クラブの面々は鼻高々だ。記者会見室には哄笑が響く。得意絶頂のあまりヤクザ言葉で鉢呂氏に答を迫る記者もいた」

■積極的に政局をつくりだすメディアの無責任

鉢呂氏の辞任会見を中継したニコニコ生放送での視聴者アンケート

 失言に対する報道姿勢に疑問を呈しているのは田中氏だけではない。原子力に詳しい環境エネルギー政策研究所・所長の飯田哲也氏は、自身のツイッターで今回の辞任劇を

「原発官僚や原子力ムラの後押しを受けた経産記者クラブが、一体となった揚げ足取りの蹴落としゲーム」

と表現。また、政治学を専門とする専修大学法学部・教授の岡田憲治氏は、同じく自身のツイッターで

「鉢呂経産大臣のこき降ろしが始まった。しかも、泣きたくなるほど低レベルな理由で。(中略)これじゃ、ガキの喧嘩だ」

と切り捨てた。

 彼らの発言に対して、決してインターネットユーザー全員が賛同をしているわけではない。しかし、大手メディアが報道している以上に、「違和感」を持つ人々がいることは確かだと言えるだろう。最後に、ニューズウィーク日本版編集主幹の竹田圭吾氏がフジテレビ系「Mr.サンデー」に出演した際に、今回の辞任劇について評した内容を紹介しよう。

「鉢呂さんは大臣になる前から福島に何度も入って子どもの低線量被ばくの問題など非常に厳しく意識していて、被災地のために最も直接行動していた国会議員のひとり。本来であれば、『死の街』にしたのは誰のせいかということを報道はきちんと検証しなければならない」

「決していい発言ではないが、こういうことをいちいち取り上げて、メディアのほうから積極的に政局をつくりだすというのは、新聞やテレビの報道の仕方が徹底的に無責任だと思う」

「被災地で困っている人のためには、政策をどんどん考えて実行していくことのほうが優先順位が高いし、これで任命責任だなんだと言っていれば、それでまた国会が空転してしまう」

 今一度、失言に対する報道姿勢についてメディアが、記者が、そして視聴者が、国民が考えるべきなのかもしれない。

 なお、ニコニコ生放送では、こうした「失言報道」をテーマとした特別番組「鉢呂大臣辞任は記者クラブの『言葉狩り』なのか?」を9月13日23時から放送する。出演は、東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏、衆議院議員・元NHK記者の柿沢未途氏、衆議院議員・元上毛新聞記者の宮崎岳志氏ら。今回の辞任劇は果たして「言葉狩り」なのか、視聴者とともに考える。

緊急特番!鉢呂大臣辞任は記者クラブの「言葉狩り」なのか?

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]鉢呂大臣辞任は記者クラブの「言葉狩り」なのか? – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv63596409?po=news&ref=news
・民主党・宮崎岳志衆議院議員 – 公式ツイッター
http://twitter.com/#!/MIYAZAKI_Takesh
・田中龍作ジャーナル
http://tanakaryusaku.jp/
・環境エネルギー政策研究所・飯田哲也所長 – 公式ツイッター
http://twitter.com/#!/iidatetsunari
・専修大学法学部・岡田憲治教授 – 公式ツイッター
http://twitter.com/#!/ganaha22
・ニューズウィーク日本版・竹田圭吾編集主幹 – 公式ツイッター
http://twitter.com/#!/KeigoTakeda

(丹羽一臣)

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