最終電車は出てしまった――「電力自由化」「脱原発」の道が絶たれた今、次に向かって
出発してしまった最終列車に乗り込む方法はあるのか
電力自由化への最終列車は、出発してしまった。
日本の電力自由化、そして脱原発の可能性は、当面絶たれた。
……次の列車がいつ来るのかは、わからない。
東京電力関係者、株主、銀行、そして多くの国会議員が、息を潜めて成り行きを見守っていた法律が、先週成立しました。「東電救済法」こと「原子力損害賠償支援機構法」。この法律が成立したことにより、今後東京電力に大きな変化を望むことは非常に難しくなりました。脱原発にせよ、電力自由化にせよ、発送電分離にせよ、それをどうするかは東電に委ねられることになりました。
変化のための大前提が「東電解体」だった
それに賛成か反対かはともかく、「脱原発」や「電力自由化」などをおこなうためにはまず、東京電力に大きな変革を迫らなくてはなりませんでした。しかし東京電力がこれまでのままの状態ではこれまでと同じ繰り返しがおこなわれるだけ。変革をおこなうためには、東京電力の解体は必須です。それができなければ議論のテーブルにつくことすらできません。これまでどおりの経営陣に「これまでどおりのやり方でハイどうぞ」、と言えば当然ながらなんら変化は起きないでしょう。しかしその「そのままハイどうぞ」をやってしまったのが「東電救済法」です。
経営陣もほぼそのままで東電は救済されました。それで変化が起きない、というのは当たり前のことです。東電が生き物とするならばその脳にあたる部分がなんら変わっていないのですから、ほぼこれまでどおりのことが継続されることになるでしょう。つまり、「脱原発」や「電力自由化」をいくら外から唱えても、これからのエネルギーについてトコトン議論してもそれは机上のものにすぎず、自由競争がなければ特定の誰かが儲かるだけで、みんなのためにはなりません。このリアルな世界で実際に変化を起こすためには、まず東電自体をコントロールできる状態にしなければいけません。しかし、これまで原発をはじめとした大きな電力事業をやりとげ、例えば原発ひとつとっても国民の多くにそれがあってあたり前のことだと思わせることに成功してきた桁違いの巨大組織をコントロール下に置くのはやはり不可能だった、ということをこの法案があっさり成立してしまった、という結果が物語っています。
しかも、成立時点でこのことに気づいている人は意外と少なかったようです。……いや、実はかなりの数いたのですが、その事情がよくわかっている人達は息を潜めていました。問題意識を持つ人、事情がわかれば怒り出しそうな多くの人々が気づかないように、息を潜めていたのです。例えば東京電力の株主は93万人います。この方たちから見ると、この法律が成立せず東電が解体された場合、株の価値がなくなってしまう可能性があるのです。当然、息を潜めるでしょう。それは、良い悪いの問題ではなく、株主としては当然の考え方です。息を潜めていた人達の中には「銀行」もいました。銀行は、東京電力にたいへんな金額を貸しています。しかし、東京電力が解体されてしまうと、そのお金が取り返せなくなってしまいます。息を潜めることでやりすごせるのであればやり過ごしたいでしょう。ただ、きちんとやり過ごすためには、これまでとは違うルールをつくる必要があったのです。それがこの法律です。
東電は、原発事故によって福島の空と海と土地、そして住んでいる人達、さらにその周辺の方々に多くの被害を及ぼしつつあるのですから払うものは払わなくてはならない。そしてそれを払えないというのであれば、破綻処理をおこなって、国に支払いを肩代わりしてもらう、というのがこれまでの法にのっとった普通のやり方です。しかし、とりあえずこれまでのルールは横においといて、新しいルールをつくって東電を潰れない会社にして、足りない分はすべて国民に払ってもらおう、というのが東電救済法です。
裏大連立(民主・自民・公明は水面下で連立しています)
「株主」や「銀行」が息を潜めるのは、ある意味当然のことだと思います。だってこの法律が成立しないと資産を失ってしまうのですから。しかし、そんな中でも「国会議員」だけは声を上げなくてはいけなかったのではないかと思います。でも悲しいことに国会議員までもが息を潜めてしまった。それは、水面下で「民主党、自民党、公明党」が手を結び、修正協議をおこない、合意したからだと報道されています。実は民主党と自民党はこういう形で水面下では「大連立」をおこなっている状態です。おそらくこのような事例は今後もみられると思います。実際、この法案成立後急速にこれらの党の距離が縮まり、民主党がマニフェストを破ったりといったことが起き始めています。巨大利権を守るための密室での協議、水面下での大連立。これは「裏大連立」といってもよいでしょう。これらの連立関係によりがっちり合意ができているため、この法案が衆議院で議論された時間はたったの2時間半だったそうです。
河野太郎議員は成立後、8月8日の「TVのタックル」でこの法律への認識が甘かったという趣旨のコメントをしています。要するにこの種の問題に詳しいと言われる河野太郎議員でさえも騙されてしまうほど巧妙に話は進んだともいえるでしょう。 [リンク]
出発してしまった最終列車に乗り込む方法
電力改革はおこなわない、という方向でモノゴトが進み、もっとも大事な法律が先週成立してしまったことで、東電に変革を迫ることは事実上不可能になってしまいました。一度動き始めたこの事態を止めることはもうできないのでしょうか。これからいくつか方法は出てくると願いたいですが、今見えている有力な方法は、「改革派優位の人事を所轄官庁でおこなう」ということです。具体的に言えば、経産省の事務次官や原子力安全・保安院長という電力行政に関して強い権限を持ったポストが今空いてますが、きちんと改革を前向きに進めることができる人にそこへ入ってもらうということです。法律は成立してしまったので、これを変えることはたいへん難しい。しかし権限あるポストにきちんと改革をおこなうことができる人が入り、改革をおこなうように電力会社へ促すことによって、わたしたちに利益をもたらす変革を前に進めることが可能となると考えられます。きちんと改革を進める意思がある人がそのポストにつくことで、活発な議論が始まることでしょう。そしてそこから変化が始まる可能性があります。「適切なポストにわたしたちの利益を代表できる人についてもらう」今できるのはこれしかありません。順送り人事からは何も生まれません。
古賀茂明さんを経産省事務次官に
前回の記事でも紹介しましたが、古賀茂明さんを事務次官に、という内容の要望書を出す動きがあります。
(Twitter署名用アカウントは「凍結」されてしまった模様で、現在ギリギリまでFacebook署名がおこなわれております)
「古賀茂明氏を事務次官、児玉龍彦氏を保安院長に」Facebook署名の説明ページ
古賀茂明さんは、経産省の中では改革派で知られ、常に国民の利益を第一に考えて仕事をしてこられた方として有名です。ですが、東電改革論を原発事故後いちはやく公表したため、経産省から事実上「クビ宣言」をされて仕事も与えられず省内で幽閉状態です。しかし、そんな中でも先日海江田大臣と一対一での会談も果たし「私に、仕事をください」とおっしゃってました。この古賀さんが事務次官となれば、おそらく国民のためになる改革を行ってくれるものと思います。Twitter署名もおこなっているようですので、もしこの趣旨に賛同されるという場合は、上記ページから署名用のアカウントをフォローしてみるとよいかもしれません。
トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。
ウェブサイト: http://getnews.jp/
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