ブルックリンに学ぶ[6] まちをたのしむ、公共空間の上手な使い方
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最終回の今回は、ニューヨークの人々がまちを楽しむ姿をご紹介します。今回の連載のキーワード「自由に暮らす」は他人と一緒の公共空間でも健在でした。●連載「ブルックリンに学ぶ 住まいとまちのつくり方」
5つあるニューヨークのエリアの中でもっとも人口の多いブルックリン(約250万人)。昨今さまざまなメディアでポートランドとともに注目を集めています。そんなブルックリンでは人々はどんな暮らしをしているのか? 住まいやまちづくりのヒントとなるような最新事情をお届けします。1.まちの空地を使いたおす。老若男女がゆっくり時間を過ごすマーケット
ニューヨークでは、土日問わずいろんな場所で「マーケット」が開かれています。その種類も食べ物からアンティーク、新鮮な食材までいろいろ。私も滞在中に3つのマーケットを覗いてみましたが、そのどれも友達グループの若者からファミリー、厳粛な雰囲気のおじいさんまで幅広い年代の人が思い思いの時間を過ごしているのが印象的でした。
最初に訪れたのは、海に面した広い一角に突然出現するフードマーケット「スモーガスバーグ」。マンハッタンが一望できる海岸に、50店ほどお店のブースが並び、あちこちからいい匂いが漂ってきます。午前中に訪れたにも関わらず、たくさんの人で溢れかえっていて人気のマーケットなのが一目瞭然。思い思いのブースに並んで出店者と会話しながら食事を楽しむ風景はやっぱり良いものです。
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【画像1】分厚い一枚肉のステーキを販売する”carnal”のお兄さん。むきむきのルックスがいかにもアメリカという風情。横でじっくり焼き上げる肉を待つ人々の行列が「肉食べたい」感を一層盛り上げる。スモーガスバーグにて(撮影:小野有理)
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【画像2】見たことの無いサイズのフレンチフライポテト。持っている手の大きさと入れ物のコーンの大きさを比較すると大きさが分かるかと。上にはチーズをたっぷりかけて。この日の行列の長さはここ一番。スモーガスバーグにて(撮影:小野有理)
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【画像3】列に並ぶ妻を待つパパ。彼のようにべビーカーを押す男性の姿がちらほら見えるのが印象的なフードマーケットだ。スモーガスバーグにて(撮影:小野有理)
スモーガスバーグでお腹を満たした後は、アンティークのマーケットへ。いつもは摩天楼の中にぽっかり空いた空地なんですが、そこに定期的にアンティークマーケットが出現。大小さまざまなテントが整然と並び、古色蒼然とした品々を売っている風景は、さながら大都会の中のキャラバン隊のような雰囲気を漂わせます。アンティークショップの人々がネット販売する前のものが手に入るとあって、こちらはスモーガスバーグよりも幅広い世代の人々が真剣な面持ちで、お財布と品物を見比べ行き来する姿が見られます。
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【画像4】摩天楼の一角で行われているアンティークマーケット。フードマーケットに負けず劣らずこちらも大にぎわいだ(撮影:小野有理)
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【画像5】古めかしい品が並ぶ。鹿の頭・角はもちろんホンモノ。中には「誰が買うんだろう?」と不思議になるような品もたくさん(撮影:小野有理)
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【画像6】入口のブース。ここで1ドル払って入場する。ペット連れやベビーカーを押しながらヴィンテージ家具を吟味する人もいて、みんな自由な時間を過ごしている(撮影:小野有理)
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【画像7】合間に訪れたアート蚤の市の入口。古ビル1階部分の壁を取り払った広い空間に、たくさんのアーティストやヴィンテージショップが所狭しと並ぶ。朝からお客さんもたくさん入っていた(撮影:小野有理)2.子どもも大人もみんなが楽しめる「フツー」の公園。多彩なアクティビティに目を見張る
続いて、ニューヨークでいいなぁと思ったのは公園の使い方です。セントラルパークはじめ大都会でも大きな公園がちょこちょこあるニューヨーク。高層ビル群の向こうから軽快なjazzが聞こえ、何だろうとフラフラ近づくと高い木々が揺れる大きな公園に出くわしました。抜けるような晴天の下、隣人がみな太陽につられて一斉に出て来たような盛況ぶりで、ベンチは友人や恋人と語らう人々で埋め尽くされています。ベンチがなくても芝生に寝っころがったりボール遊びしたりランニングしたり、好きな場所で好きな時間を過ごしています。
その公園では実に多くのアクティビティが行われていました。公園の入口ではチェステーブルを挟み大人/子ども、知り合いかどうかなど関係なくチェスに熱中する静かな時間が。見物人はどちらの味方なのか、時折「ホゥ」など合いの手を打っています。おじさんに挑む金髪の小さな男の子の毅然とした表情に、思わずチェスのルールも分からぬものの見物しちゃいます。彼らの隣ではセミプロ級のヒップホップダンサーが真剣に踊っていたり。

【画像8】真剣におじさんとチェスを闘う男の子。二人とも軽口も叩かず静かにコマを進めている姿が印象的。にぎやかな公園の中でここだけ静かな、でも頭脳の火花が散らされているような背筋がしゃきっとする空間だった(撮影:小野有理)
他にもjazzバンドやギター、トランペットをとっても上手に奏でる人が公園のほんわか休日気分を盛り上げます。器用な手つきで次々と2mもある巨大なシャボン玉を生み出すおばさんは、歓声を上げてシャボン玉を追いかける子どもに囲まれています。30羽を超える鳩が餌をついばむ姿に違和感を覚えてまじまじ見ると、すべてフェルト生地のつくり物。傍らでは全身黒とグレーの衣装に身を固めた「マダム・ピジョン(鳩おばさん)」が黙々とつくっていました。
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【画像9】ベンチに座らずとも、ふかふかで気持ちのよい芝生に寝っころがる人々(撮影:小野有理)
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【画像10】プロだろうなと思えるjazzバンド(本当はどうかは分かりません)。とっても上手で音楽に合わせておばあさんと子どもが踊っていたり(撮影:小野有理)
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【画像11】帰る際にもういちど画像10のバンドを見に行くと、ドラム席には男の子が夢中になってドラムを叩いていた。それにあわせてベースを弾こうとしていたお兄さんは多分、初対面。でも一緒に音楽を奏でる姿勢を周りものんびり眺めてヤジを飛ばしたり(撮影:小野有理)
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【画像12】遠くから見るとまるで本物の鳩の置物?作品。フェルトでつくられていてあたたかみがあり表情豊か。私が写真を撮っているとおじさんがお気に入りの一羽を探して早速購入(撮影:小野有理)
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【画像13】道路に10mほどの大きな絵を描いているアーティスト。チョークでので最初に描いた部分は人に踏まれたりして薄くなったり、子どもたちがわざと踏んで遊んだり。それでも一向気に留めず黙々と描き続ける(撮影:小野有理)
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【画像14】シャボン玉おばさんに群がる子どもたち。シャボン玉を追いかけ触ってつぶしてその液を頭からかぶって大はしゃぎ。おばさん自身が大笑いしながらシャボン玉をつくっていて、子どもだけじゃなく自分も楽しんでるんだなぁとよく分かる(撮影:小野有理)
日本の公園ではボール遊びや歓声を上げて走り回るのがダメ、芝生は立ち入り禁止など、できないことが多すぎて、時々公園に行くものの景色を眺めてじっとする他ないような気がしますが、ここはそんな看板は一切無し。それでもみんなマナーを守ってお互い譲り合いながら、それぞれの時間を大切にしています。
カントの言葉に「互いに自由を妨げない範囲において、我が自由を拡張すること、これが自由の法則である」とありますが、自由に過ごすときにこそ他者に迷惑をかけないよう人それぞれ自分で判断した「配慮」が必要だなと実感。ルールに縛られそれに頼り過ぎると、そんな配慮に鈍感になってしまうのかもと、この自由な公園の片隅で感じました。3.公共空間は「まちの楽しみ」を増やす場所
最後にマーケットや公園以外で公共空間を上手く使っている例を少しご紹介します。まずは「ハイライン」を。ご存じの方も多いでしょうが、もともとはマンハッタンの中心部を走っていた貨物列車の線路。廃線になり放置されていましたが、誰もが自由に楽しめる遊歩道へ市が再生させた事例です。マンハッタンの主要スポットを貫いていることもあり、観光客も多く訪れいつ行ってもにぎわっています。地上から2-3階部分くらいの高さを走る遊歩道なので、まちを違った視点で楽しめ、長い距離でも歩いていて楽しい場所です。まちの楽しみを新しく増やした好例です。
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【画像15】言わずと知れた「ハイライン」。昔、貨物列車が走っていたレールを遊歩道に再生させた。マンハッタンの主要スポットを貫いていることもあり、観光客も多くいつ行ってもにぎわっている(撮影:小野有理)
ニューヨーク市が率先して市民が楽しむ場所をつくっているように、まちには皆で楽しめる空間があちこちにあります。それらを見ていると「シェア(みんなで共有する)」と「(まちの)余白」がキーワードのように思えます。例えばビジネス街の路上にはオーガニックジュースのスタンドや洋服の販売ワゴンが定期的に出現してとっても人気。スーツ姿の人々が闊歩する街に彩りを添えています。これは市民の共有物である公共道路を、出店者も購入者もうれしいかたちで共有し合った新たなかたち。
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【画像16】ビジネス街で見つけたnomad wagon。ホットドッグなどのお店かな?と思って回り込んでみると、シンプルで可愛いオーガニックな洋服の販売ワゴンだった。スーツを着込んだ女性が入ってシャツなどを買っていて、休日の洋服なのかなぁと彼女の生活に思いを馳せる(撮影:小野有理)
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【画像17】こちらは移動型のジューススタンド。無添加で身体に良さそうなジュースを販売していて、ビジネス街のオアシスのような雰囲気(撮影:小野有理)
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【画像18】書店の一角に並ぶzine(個人や有志グループが作成した手づくりの冊子)。書店の流通を離れた書籍も書店の中に立派なスペースを設けて置かれている(撮影:小野有理)
マーケットや公園、道路はもちろん書店の角の小スペースを同人誌のクリエイターがシェアする仕組みなど、ニューヨークでは「自分のもの」と「誰かのもの」という場所の境界線がユルくなって来ている気がします。
よくよく考えれば「みんなの」場所(=公共空間)が多い方が個人の使える空間が広がるわけで、どのようにも使えるというフレキシビリティある「みんなの」場所が、まちを活き活きするには必要だと実感。漫画ドラえもんの中ののび太やジャイアンが毎日集まる空き地がまさしくそんな場所で、あの空き地のような空間を今のニューヨークでは一生懸命つくろうとしているんだと感じた旅行でした。
ニューヨークは何度か訪れているのですが、その度にその変化に驚かされます(東京もそんな街なのでしょうが)。今回は旅行者だからこそ気づけるようなちょっとしたポイントを連載といして紹介してみました。
旅程を通して気づいたことは、気持ちよく住むための努力を惜しまない姿勢です。「気持ちよく」とは便利とか簡単というかたちではなく、自分がどんな住み方・暮らし方が良いのかちゃんと考えた結果、それぞれが導き出した結論なんだと思います。日々の生活に流されて、自分のしたい暮らしって何だろうと立ち止まって考えることを忘れがちな日本での暮らしを省みるきっかけになりました。皆さんも機会があれば、ぜひ。
元記事URL http://suumo.jp/journal/2015/09/17/97650/
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