放射性物質「3月15日に福島原発より大量放出。以降、大気への大量放出は起きていない」早野龍五教授が最近の測定とシミュレーションで結論

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3月15日朝7時の福島第一原発

(写真は3月15日朝7時の福島第一原発ライブカメラの様子。左側、煙が出ているのがわかる。写真は鮮明化してあります)

「福島第一原発から、今も大気中への放射性物質の放出はおこなわれているのだろうか」「放射性物質が大気中へ出ているとしたら、どこへどれくらい流れているのだろうか」――福島原発周辺で生活している人であれば誰しも気になるところだと思います。現時点で収集できるデータを元に、東京大学大学院理学系研究科の早野龍五教授が「3月15日の朝、福島第一原発から大量放出」があったものの、「その後現在に至るまで原発から大気への大量放出は起きていない(海は別の話として)。」という結論をツイッターで発表されました。

以下、早野教授の連続ツイート(ツイッターでの投稿)を記者が関連図表などを挿入して整理したものです。

尚、この記事はたくさんのリンクと図表があるため、配信先ではすべて閲覧できません。申し訳ありませんが、続きはガジェット通信サーバー上の記事でご覧ください。

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3月15日に何が起きたか。福島原発北西部の高い放射線レベルの原因は? 最近の測定とシミュレーションで明らかになったことを連続ツィートします(早野の私見)。

●まず結論
3月15日の朝、福島第一原発から大量放出があり、放射性物質を含む空気塊が南下。午後にこれが福島中通りを北上して宮城県境に滞留し、降雨で落下。その後空気塊は太平洋上へ。
その後現在に至るまで原発から大気への大量放出は起きていない(海は別の話として)。

●測定値とシミュレーション
3月15日朝に福島第一原発から放出された放射性物質を含む空気塊がどのように動くか、シミュレーションが行われました。添付図を御覧下さい。詳しくは(PDF文書:福島県周辺放射線率データとシミュレーションの比較)。

測定値とシミュレーションの比較からわかること沢山

●シミュレーションを見ると
原発北西部の放射線レベルが高いのは、原発から出た放射性物質が直接北西に飛散したのではなく、関東上空を経由して福島中通りを北上し、3月15日夕刻の雨で地上に落下したのだと推測されます。やはり、シミュレーションは大事です。

●3月15日だけなのか?
福島県の放射線レベル (図:福島の放射線レベル) が3月15日に急増し、3月16日以降単調に減っていることから、3月15日の重要性は明らかです。

福島県の放射線レベル、3月15日以降

日本分析センター(千葉)のデータ (図:日本分析センターにおける空間放射線率の測定結果) を見ると、3月16日を最後に原子炉からの直接放出の証拠であるXe-133(編註:キセノン133、半減期約5日)がほとんど見えません。このことからも、3月15日の放出の理解が重要であることが分かります。

日本分析センター(千葉)のデータ

●雨の重要性
(図:日本分析センターにおける空間放射線率の測定結果) から、
1) 雨が降ると放射線量が増加すること
2) それとともに空間線量へのセシウムの寄与がヨウ素の寄与に対して増えること
が分かります。雨の重要性は (図:3/21-23の降雨以降、首都圏大気中には、放射性物質はほとんど無い) でも述べました。

3/21-23の降雨以降、首都圏大気中には、放射性物質はほとんど無い

●福島の大気
福島市では3月25日に雨が降りましたが、(図:福島の放射線レベル) を見ても放射線量の目立った増加は見られない。空中に舞っている放射性物質は少ないのです。

●大事なこと
一口に福島県と言っても、放射性物質の分布は大きく異なります。今後の積分線量や農作物への影響を理解するには、3月15日に放出された放射性物質が、どこにどれだけ落ちたかをしっかり測定・理解することが大事です。(海の問題はこれとは別に考える必要あり)

●最後に
以上乞御批判。「放射線量モニターデータまとめページ」 のボランティア、特に理研の磯部さん、気象学会理事長通達 にもかかわらず、シミュレーションをしてくださった XYZ さんの貢献に感謝。
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※以上、東京大学大学院理学系研究科、早野龍五教授のツイートより転載。そのまま引用ではなく、文意を変えない程度の表記の修正、句読点の調整、編註の挿入および図表の挿入をおこないました。太字も記者によるものです。詳しくは早野教授のツイートか、公認Togetterをt直接ご覧ください。

●困難な状況下でのシミュレーション

早野教授のツイートを拝見していると、データの収集に関してご苦労されているのがわかります。以下のようなツイートを見るにつけ、東電・保安院・政府と専門家の連携についても考えさせられます。

(まともに動いているセンサーと,そうでないセンサーがあるので,センサーデータだけで何かを判断すると危ない.もっとデータは総合的に見なければ.)

(3号機 DW CAMSが3/25にガクッと下がった時には,ベントが行われた?)

(データを見る.あれこれ見る.いろんな人が測ったデータを多角的に見る.すべてを統一的に騙すようにデータを捏造することなんて出来ません.しっかり見ていれば,嘘があったとしても,いずれバレます.)

【安全・保安院 原発モニタリングデータ更新】4/2 線量測定のみ.前日まで掲載されていた核種ごとの測定データが,今日のものには全く載っていない.

震災の影響や原発になかなか近づけない状況下でデータ収集がそもそも困難であることと、発表されているデータのフォーマットが揃っていなかったり、間違いがあったりといったこともあるようです。さらに3月18日には日本気象学会理事長から「不確実性を伴う情報を提供を自粛しなさい」、また「情報発信は一元化しなさい」という内容の通達が出るなどもあり、専門家の間でも現時点でできる範囲でのシミュレーションとその分析結果の発表がやりづらいといった声も挙がるようになってきていました。しかし当然のことながら調査研究やその発表は自由におこなわれるべきで、「情報発信の一元化」を迫るその態度はおかしいと言わざるを得ません。

このような環境下、現時点で収集できるデータをもとにおこなわれたのが、昨晩のこの連続ツイートです。早野教授のツイートはやや専門的ではありますが、平易な言葉が使われているため、最新の情報が欲しい場合はおすすめです。もし興味あればツイッターでフォローしてみてはいかがでしょうか。

参考)
●早野龍五氏のホームページ
http://nucl.phys.s.u-tokyo.ac.jp/hayano/jp/index.html

●福島県周辺放射線率データとシミュレーションの比較
http://ribf.riken.jp/~isobe/mon/sim/comp.pdf

●日本分析センター「放射能測定結果について」(試料採取場所:日本分析センター千葉本部,3月14日~)
http://www.jcac.or.jp/lib/senryo_lib/taiki_kouka.pdf

●放射線量モニターデータまとめページ
https://sites.google.com/site/radmonitor311/home

気象学会理事長通達
http://wwwsoc.nii.ac.jp/msj/others/News/message_110318.pdf

責任放棄?日本気象学会理事長コメントから見る「放射性物質の拡散予測が出てこない理由」
https://getnews.jp/archives/108316

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深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

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