俺たちは火を初めて使った動物の末裔である
俺たちは火を初めて使った動物の末裔である
自分が大学生の頃、東大駒場キャンパスの教養学部前期課程に5年もいる先輩がいた。実際は留年しても4年までしかいられないんだけど、大学の保健センターで鬱病の診断書をもらって1年休学したことにして(むしろ本人を見るとそう病なんだけどw)なんとか、後期課程に進学していった。そんな彼の進学先は東大浅野キャンパスにあった工学部原子力工学科だった。チェルノブイリ原発の事故があったこともあり、20年前の当時は超不人気学科であり、その後システム量子工学科と名前を変え、さらにシステム創成学科という学科に統合されたらしい。なんだか名称ロンダリングもここまで来たか、という感じだが。
ともかく彼が進学出来るほど不人気学科だった卒業生たちが今原子力発電所とかに関わっているのかと思うと、ちょっと微妙な気もするが、これから原子力関係の学科はもっともっと不人気になるだろう。最近は東京から逃げるなんてヒステリックな反応をしている人たちも多いけど、今の福島原発での措置にもっと不手際が発生して最悪の事態になっても東京に有意差のあるような健康被害を及ぼす放射性物質が飛んでくることはない。まあマスメディアが普段の何十倍とかあおるからビビる人がいるんだろうけど。ただし、福島原発の付近は当面高濃度の放射線物質で汚染され、ある程度処置をすれば人が住める環境まで復活すると思うが、死人が出た不動産物件に住みたがらないのと同じように誰も住みたがらない場所となるだろう。
そして付近で採れる農作物や魚介類は風評被害もあってどこも買ってくれなくなり、東京電力は膨大な補償金を支払うはめになるだろう。もちろん免責事項などあるが、世論がそれを許さない気がする。政治家は特別立法を行うだろうし、裁判所は法律を曲解してでも世論に味方する判決を出すだろう。そして原子力発電所の新規設置は日本では当分の間できなくなる。数十年のオーダーで無理だろう。現在稼働中の発電所も反対運動が激化して発電をストップせざるを得ないところまで追いこまれるかもしれない。
そうすれば、日本の原子力技術者は日本で細々と原発のメンテをするか、廃炉の処理に粛々と従事するしかなくなるだろう。プルサーマルなんかとてもできない状態だろう。つまり日本の原子力技術は死んでしまうだろう。技術の伝達というのは非常に重い課題で、私もロケットエンジン技術を研究する立場で技術の断絶が現場にもたらす影響の大きさを知っている。アメリカはスペースシャトル一本にしぼってきたために、代替の有人宇宙技術を持てないでいる。新しい原子力発電所が作られなくなることで原子力の技術は日本から失われてしまうのだ。
もちろん原発で被害にあった人たちや元々原発反対者はそんなものはなくなってしまって結構、大変良いことだと思うかもしれない。しかし、思い出してほしい。人間はなぜ人間たり得ているのかを。私たちは動物が怖がる火を自在に操ることに成功した。身体能力で勝る動物たちを屈服させることに成功した。ナマモノを火の力でタンパク質の立体構造を変えて美味しく殺菌して食べることに成功した。火は文明を発達させる源となったのだ。もちろん、火は危ないものだ。今でも使い方を誤ると大災害を起こしてしまう。しかし、我々の祖先は勇敢に立ち向かったのだ。「あんな危ないものに近づかないで!」とヒステリックに反応した仲間たちもいただろう。しかし結果として火を征服することに成功した。そんな偉大なる先祖達の末裔(まつえい)なのである。我々は。
先人達の尊い犠牲のもとに我々はある。日本では原子力発電の技術は失われてしまうかもしれないが、恐らく他の国でその技術は継承されるであろう。そして我々はいつの日は原子力を自在に安全に操ることに成功していると信じたい。今回の福島原発の教訓が未来に活かされることに期待をする。そして多くの子ども達、若者達が科学の知識を付け困難と新しい技術に立ち向かうことを切に願う。
執筆: この記事は堀江貴文さんのブログ『六本木で働いていた元社長のアメブロ』からご寄稿いただきました。
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