水・牛乳・野菜などの安全性について

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wikipedia:Kanamachi-water purification plant.JPGより

福島原発の事故に関連して水・牛乳・野菜など私たちが口にするものについての汚染問題が話題です。今回はその問題に関連する日本大学教授藤村靖之氏の原稿を転載させていただきます。できるだけ専門用語をつかわずにわかりやすく解説がおこなわれており、これから起こるであろうことについても触れられています。わたしたち人類が原発事故に直面するのは今回がはじめてではありませんから、原発事故が発生するとどういうことが起きるのかというのはある程度わかっていることです。この文書ではそのことについても簡単にですが触れられています。昨日、各地で水道水の摂取制限が開始されましたが、こういうことが起きるであろうことは予測できたことだといえます。藤村氏は40年原発に反対してきたそうですが、「事故が起きてしまったからには、気持ちを切り替えて、国民全員で長い年月を掛けてこの事態に立ち向かって行く……という覚悟が必要」と述べておられます。起きるであろうことは心構えをして慌てないようにしたいものです。記事の下部にコメント欄を設けておりますので、コメント等はそちらへお願いします。(ガジェット通信 深水英一郎)

全ての図表をご覧頂くには、こちらのガジェット通信本サイトをおたずねください。

●「水・牛乳・野菜などの安全性について」 3月20日 by 藤村靖之(非電化工房代表、日本大学教授)

3月19日に福島県の牛乳と茨城県の野菜から放射性物質が検出され、不安材料となっています。検出されたデーターは以下の通りでした。

茨城県の野菜から放射性物質が検出

表中の太字の数字は、厚生労働省が3月17日に発表した暫定基準値を上回るものです。
暫定基準値というのは、次の表の通りです。

厚生労働省 暫定基準値

2つの表を較べてみると、茨城県のほうれん草は、ほうれん草に適用される暫定基準値である2,000ベクレル/kg(放射性ヨウ素の場合)と500ベクレル/kg(放射性セシウムの場合)を6箇所で超えています。福島県の原乳については、1箇所で3回測定した値がすべて、牛乳に適用される暫定値である300ベクレル/kg(放射性ヨウ素の場合)を超えています。
 この暫定基準はICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に基づいています。ICRPの勧告は、放射性物質を含む水や野菜が、どれくらい体内に取り込まれ、臓器に蓄積されて放射線を出すか(これを体内被曝と言います)を計算した結果に基づいて定められたものです。ICRPの勧告は国際的に権威あるものとされ、各国の放射線防護基準の基本として採用されています。ECRP(ヨーロッパ放射線防護委員会)は、ICRPの基準値は体内被曝については甘いという意見を表明しています。他にもICRPの基準に疑問を呈する方もいらっしゃいますが、私はこの基準を目安にするのが今はベストと思います。

ICRPとは?
「国際放射線防護委員会」のこと。放射線防護の基準を勧告することを目的に1928年に国際放射線医学会議(ICR)で、国際X線・ラジウム防護委員会として発足。これを継承して1950年に設立された国際的な専門家の委員会。1956年以降は世界保健機構(WHO)の諮問機関として放射線防護に関する国際的な基準を勧告してきた。ICRPの勧告は国際的に権威あるものとされ、我が国をはじめ、各国の放射線防護基準の基本として採用されている。

このデーターの解説は後述しますが、今後はこのような話(茨城県沖の鰯からセシウムが200ベクレル/kgとか)が次々に報道され、新たな不安を招きます。こういう話を冷静に、正確に理解して、適切な行動をとっていただきたいと思います。理解の助けになるように、すこし解説しておきます。

福島原発の事故は現在も一進一退で、予断を許されない状況にあり、少なからぬ放射性物質を飛散し続けています。飛散した放射性物質(ほとんどの場合、微粒子として)は主に風に乗って周囲に運ばれます。時には上昇気流に乗って数千メートル上まで運ばれ、上空の風に乗って、千キロ先まで運ばれることもありますが、微々たる量です。ハワイで検出されたからと言って(未だ検出されていませんが)脅える必要はありません。
 風で運ばれた放射性物質の微粒子は、空中に浮遊したり、地上に落下したり、貯水地に落下して水道水に混じったり、野菜の上に落ちて付着したり、牧草に付着したり、その牧草を食べた牛を経由して牛乳に混じったり、海に降った放射性物質が、食物連鎖の結果として魚に蓄積されたりします。原発事故が起きれば当然こういうことは起こります。問題は、健康にどの程度の被害が生じるかという、正確な判断と適切な行動です。危険なのに安全と言いくるめるのは論外ですが、不必要に人を脅えさせることも褒められたことではないと思います。

 チェルノブイリ事故のような「原発を運転中(つまり核分裂が起こっている最中)に原子炉が破壊され、大量の放射性物質が爆発的に飛散される」という最悪の状況に至る可能性はやや低くなってきましたが、事態が収束するまでには数日を要すると予想されます。今よりは悪化しないで収束するか、今より悪化した状態で収束するか、いずれにしてもやがて収束します。

 収束するまでは、放射性物質が撒き散らされ続けます。その間は距離が近く、風向きが風下方向(この場合は短期的な風向き)に多くの放射性物質の微粒子が運ばれ、空中に浮遊したり、雨に吸われて落下したり、自然に落下して土や野菜に付着したりします。何れにしても収束するまでの間は、飛散状況に応じて強い放射能が検出されます。この間は、室外にいると空気中に浮遊する放射性物質からの放射線を浴びる、いわゆる体外被曝と、空気と一緒に吸い込まれて肺や気管支に付着した放射性物質からの放射線を浴びる、いわゆる体内被曝が懸念されます。

 収束後(つまり、新たな放射性物質は原発から放散されなくなった後)には、地面などに堆積された放射性物質や空気中に再び浮遊した放射性物質からの体外被曝よりも、どちらかと言うと、水や牛乳や野菜などを介して体内に取り込まれた放射性物質からの放射線を内臓が浴びる体内被曝の方が懸念されます。
 今日現在は、収束前ですから、原発至近距離の人は体外被曝、原発から少し離れた距離の人は体内被曝が懸念材料となります。前回は、体外被曝について主にコメントしましたが、今回は体内被曝について解説します。
 
チェルノブイリ原発事故では、汚染された区域で多くの子供が甲状腺に異常を呈しました。これは汚染された地区では、放射性物質が付着した牧草を牛が食べ続けた結果、牛乳を介して子供の体内に放射性物質が大量に取り込まれたからでした。このように、放射性物質が体内に取り込まれて留まり、内臓に放射線を放射することを体内被曝と言います。

体内被曝の原因

 
体内被曝の原因となるのは、体内に取り込まれる、空気・水・牛乳・野菜・穀物・肉・魚などです。それらの媒介物質に含まれる放射性物質の種類と量によって、媒介物質の放射能の強さが決まります。放射能が強い物質からは強い放射線が放射されて被害をもたらします。放射能が弱い物質からは弱い放射能しか放射されず、被害はもたらされません。原発の事故が無くても、通常の食品から年間に0.3ミリシーベルト程度の体内被曝を受けているとされています。体内に放射性物質が少々取り込まれたからと言って驚くことではありません。
 
物質の放射能の強さは、ベクレルという単位で表現されます。

1ベクレル:固体や気体に放射能が含まれる量を表す単位で、1秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量が1ベクレル。 以前はベクレルではなくキューリーという単位が
使われた。1gのラジウム226の放射能の量は364億ベクレル。
1ベクレル=370億キューリー
1ベクレル/㎥:固体や液体や気体に含まれる放射能の濃度を表す単位で、1㎥当たり1ベクレルの放射能が含まれるのが1ベクレル/㎥。
1ベクレル/kg:固体や液体や気体に含まれる放射能の濃度を表す単位で、1kg当たり1ベクレルの放射能が含まれるのが1ベクレル/㎥。

例)水が10kg(=10リットル)あるとして、含まれる放射能の量(あるいは強さ)が50ベクレルの場合、放射能の濃度は5ベクレル/kg。この濃度の水30kg(=30リットル)の放射能の量(あるいは強さ)は150ベクレル

ベクレル/kgという形で使われるケースがもっとも多いでしょうが、ベクレル/k㎡などという単位もその内、出てくるでしょうから、混乱しないでください。原発事故が収束した後、その土地がどの程度放射能汚染されたかを表現する時には、ベクレル/k㎡という単位がよく使われます。これは1平方キロメートルの広さ当たりに蓄積された放射性物質の放射能の強さを意味します。この数字が大きいと、永住はできない……などの指標となります。原発事故が収束してから、暫く経ってからの話ですが。

 ほうれん草の話に戻ります。3月19日に茨城県で検出された最高値は放射性ヨウ素については15,000ベクレル/kgでした。つまり、このほうれん草を1kg食べると15,000ベクレルの放射性ヨウ素を体内に取り込むという意味です。一方、暫定基準値の2000ベクレル/kgは、この強さのほうれん草を一生食べ続けると放射線被曝障害が出る可能性が有る・・・という基準で設定されています。
15,000ベクレル/kgは基準の7.5倍です。仮に一生を75年とすると、このほうれん草を10年食べ続けると放射線被曝障害が出る可能性が有る……という計算になります。ですから、こういう放射能の強さが長期間続くとすれば、食べることも出荷することも控えた方が良さそうです。ただし、放射性ヨウ素は半減期が8.0日(ヨウ素131の場合)と短く、80日もすれば無害化しますから、こういう放射能の強さが続くとは考えにくい。つまり、神経質になるほどの値ではなさそうです。むしろセシウムの方が半減期が30年(セシウム137の場合)と長いので、気になります。検出されたセシウムの最高値は約500ベクレル/kgで、暫定基準値200ベクレル/kgの2.5倍です。仮に一生を75年とすると、この放射能レベルのほうれん草を30年食べ続けると放射線被曝障害が出る可能性が有る・・・という計算になります。ですから、こういう放射能の強さが長く続くとすれば、食べることも出荷することも控えた方が良さそうです。しかし、神経質になるほどの値ではありません。
 福島で検出された牛乳の値は放射性ヨウ素の場合は約15,000ベクレル/kgで、暫定基準値300ベクレル/kgの50倍でした。仮に一生を75年とすると、この放射能レベルの牛乳を1.5年飲み続けると放射線被曝障害が出る可能性が有る・・・という計算になります。ですから、こういう放射能の強さが長く続くとすれば、食べることも出荷することも控えた方が良さそうです。しかし、ほうれん草の場合と同じように、ヨウ素は速やかに放射性を失いますので、こういう放射能レベルが長く続くとは考えられません。やはり、気になるのはセシウムの方です。福島県で検出された牛乳のセシウムの放射能レベルは18.4ベクレル/kgで、暫定基準値200ベクレル/kgの10分の1以下ですから、問題は無さそうです。

 いずれにしても、今現在は、放射性物質が原発から強く放出され続けている状態です。原発から近い所で、あるいはやや離れた風下で、この程度の放射能レベルが検出されるのは想定の範囲内です。脅えるような数字ではありません。茨城県の人や栃木県の人が慌てて退去するような数字ではないと思います。言わずもがなのことですが、退去する人には夫々の事情が有って、心は残して体だけを一時的に移したのでしょうから、退去した人とも心を一つにして立ち向かいたいものです。

 原発事故はやがて収束し(つまり原発からの放射性物質の飛散が止まり)、放射能汚染がほぼ安定し、そして徐々に拡大します。ほぼ安定した時点(1カ月後くらい)での放射能汚染レベルの分布が正確に測定されて発表されますから、その数字に基づいて方針を定めればいいと思います。
 

原発事故が進行中で予断を許されない今の時点で言うことではないかもしれませんが、事故の収束後も、遠くの県の水道水や鶏卵や海のプランクトンから放射能が検出されたり、永住できなくなる地域が指定されたり……といった様々な事態が次から次に現れてきます。原発事故というのはそういうことなのだと思います。だからこそ、多くの人が強く原発に反対してきました。僕も40年反対してきました。しかし、事故が起きてしまったからには、気持ちを切り替えて、国民全員で長い年月を掛けてこの事態に立ち向かって行く……という覚悟が必要なのだと思います。

 昨日、アースデイ那須2011の実行委員会が開かれました。「那須を砦に」……と、全員の意見が一致しました。「砦」の意味は、こうです。今、お隣の福島県で原発事故が起き、退去を余儀なくされた人が大勢いらっしゃいます。那須町は栃木県の最北に位置します。そして、少なくとも今現在は退避しなければいけないような場所ではありません。つまり、那須町は福島県の人にとっては、もっとも近い安全な場所です。だから退避場所としてはもっとも適した所とも言えます。その那須町の住民が冷静さを保ち、退避者を迎え入れて差し上げたり、更に遠くへ移動する方のお手伝いをして差し上げることができれば、雪崩を打ってパニックになるような、残念な事態を防ぐ効果があるかもしれない……そういう意味の「砦」です。退避してこられる人を排除する砦ではありません。
 
那須町役場は原発事故の後、いち早く退避場所を用意しました。町長も職員も本当に優しい態度で退避者に接していらっしゃいました。大勢のボランティアも協力して退避者を支えています。住宅や別荘を退避者に提供する方も大勢いらっしゃいます。例えば、福島文隆さんと隣人のグループだけでも既に50人の退避者を受け入れています。栃木県の受け入れ窓口は那須町の2箇所だけに設置されていますが、この窓口と那須町住民との連携も生まれています。退避者への食事や寝具を提供する那須町住民が大勢いらっしゃるので、食糧が余ったりさえしています。僕は那須町の住民であることが誇らしい気持ちに今なっています。


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