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“ヒ素生物”の衝撃

有機化学美術館・分館

今回は佐藤健太郎さんのブログ『有機化学美術館・分館』からご寄稿いただきました。

“ヒ素生物”の衝撃
先日は、『NASA』から“宇宙生物学上の発見に関する会見”が行われるということで大いに盛り上がりました。筆者も「ついにどこかで宇宙生命がとっつかまったか」と期待したのですが、実際はカリフォルニアの塩湖で見つかった新種の細菌の話でした。「なんだよ期待させやがって」と一瞬思ったんですが、よく聞けばやはりすごい話で、この細菌はなんと毒性元素として知られるヒ素を体内に取り込み、DNAに組み込んで生活しているというのです。これはまあ宇宙人発見とはいわないものの、どう見ても世紀の大発見としか言いようがありません。さらにいろいろ聞くにつけ、この細菌は実に「ななななんじゃこりゃ」的な代物であるようです(論文はこちら *1 )。

*1:「A Bacterium That Can Grow by Using Arsenic Instead of Phosphorus」 『science』
http://www.sciencemag.org/content/early/2010/12/01/science.1197258.abstract

“ヒ素生物”の衝撃

問題の細菌『GFAJ-1』

『GFAJ-1』と名付けられたこの細菌(こんなカメラの型番みたいなのではなく、もっとすてきな名前を考えてやってほしいですが)が見つかったのはカリフォルニア州のモノ湖で、強アルカリ性で塩分が濃く、ヒ素を大量に含んでいる湖だそうです。いかにも生き物向きでない場所ですが、こういうところに育つ奴ほど変ちくりんなのがいるので、生物学者はこういうところをよく調べます。で、今回はそうした変態ぞろいの“極限環境微生物”のなかでも、超大物を引っかけることに成功したわけです。

ヒ素というのは原子番号33、周期表ではリンの真下に当たり、当然化学的性質もよく似ています。ヒ素を取り込む生物は今回が初めてではなく、海藻などがヒ素を取り込み、化合物を作っていることが知られています(こちら *2 )。しかし今回の『GFAJ-1』では、DNAに含まれるリンがこのヒ素に置き換わっていたのです。その他、判明したことの詳細についてはこちらのブログ *3 が詳しいのでご覧ください。

*2:「有機化合物と周期表(1) 」『東京化成工業株式会社』 – 化学よもやま話
http://www.tokyokasei.co.jp/tcimail/chemicals-clip/76uk5d0000006jyp.html

*3:「<速報>リンの代わりにヒ素をDNA中に取り込む微生物が見つかった」『I’m not a scientist.』
http://d.hatena.ne.jp/popeetheclown/20101202/1291319775

“ヒ素生物”の衝撃

本来リン原子であるべきところ(黄緑色)にヒ素原子が入っている

「なんだ、似たものに置き換わっているならたいしたことないじゃないか」と言われそうですが、そうはいきません。生命の根幹を成す元素はC, H, N, O, S, Pの6つと信じられており、DNA・RNA・タンパク質・脂質・糖などのほとんどはこの6元素からできています。ちょっと末端に変な物が入り込んでいたというのではなく、堂々と生命システムのど真ん中に異物が割り込んでいたというのは、やはり生命観をひっくり返しかねないできごとといえます。

ある有名な生化学者は「生化学を学んでおけば、他の惑星に行った時にも役立つだろう」という意味のことを発言しています。DNAやタンパク質などから成る生命システムは進化の必然でたどりつく普遍的なものであり、他の星でも我々と同じような生命ができあがっているはずだ、と彼は考えていたのでしょう。少なくともその一部は今回の発見で崩され、生命にはもっと多様な可能性がありうると考えられる、重要な証拠になったわけです。『NASA』のいう“宇宙生物学上の発見”というのは、こうした意味合いを含めてのものでしょう。

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