思いやりの心を思い出させてくれる仏教法話
熱心な仏教徒というわけではなくとも、お墓参りに行った際にお寺の住職さんと会話したり、説法を聞いたりすると、なんとなく気持ちが落ち着いたり、楽になるものです。
穏やかな話し方をする人が多いですし、何気ない会話の中にも仏教の教えが踏襲されていたりするのも、心を和らげてくれる要因かもしれません。
『一日一善』(日本文学館/刊)は、福聚山觀音寺の住職である中村太釈さんが日常生活の経験談を交えつつ、仏教の道について教えてくれる一冊。本書を読むと、まるでお坊さんの法話が一冊にまとまったような印象を受けます。
■重度のリウマチ患者が病院の希望に
中村さんが知人のお見舞いで病院に行った時のこと。
病院の入院病棟は基本的に静かなものですが、一室だけ笑い声が聞こえる、活気のある病室があったそうです。
きょとんとする中村さんに看護師さんが教えてくれたところによると、この部屋に入院している中本さんは重度のリウマチをはじめ複数の病気に冒されて、自力では起き上がることができない状態。そんな中本さんですが、悲壮感はまったくなく、いつも明るく周りの患者を楽しませ、それが患者たちの救いとなっているのだとか。
時には慰め、一緒に笑い、他の患者たちの入院生活が少しでも快適であるように中本さんはつとめ、自分より先に退院する人にも嫌味一つ言わず、心から喜んであげるのだそうです。
この中本さんの話を引き合いに、中村さんはお釈迦様の話をします。
お釈迦様が80歳の生涯を終える時、弟子たちにこんなことを言い残しました。
「自分の心に灯をともせ」
中本さんは自分の心にともった灯で、他の人を照らして明るくしてあげるような人です。
自分が苦しくても、心の灯を絶やさず、人への思いやりを忘れない。こんな人になりたいものですね。
本書は、こんな調子で淡々と中村さんが目にしたものと、仏教法話が綴られていきます。どの話も特別な仕掛けや山場が用意されているわけではないため、人によっては抑揚がなく、退屈な話に思えるかもしれません。しかし、どこか心が温まると同時に、自分を客観的に見つめ直す、いいきっかけになるはず。
お寺の縁側でお坊さんとお話をする気分で一読してみてはいかがでしょうか。
(新刊JP編集部)
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