法律なんて変えちゃえばいいんですよ! ”規制バスター”原英史さんに規制との戦い方をきいてみた

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原英史さん

「法律なんて変えちゃえばいいんですよ」とこともなげに言う原英史(はらえいじ)さんは元官僚だ。現場を知り尽くした原さんは、これまでの規制への対応の方法には問題があると言う。原さんの話をきいていると、実に多くの不思議な規制、バカらしい規制が存在することがわかるのだが、それじゃぁどうしたらそんな”くだらない”規制を潰していくことができるんだろうか。

登場人物
=原英史さん(政策工房)
ふかみん=深水英一郎(ガジェット通信の中の人)

原さんプロフィール
原英史(はらえいじ) 1966年東京生まれ。東京大学法学部卒、米シカゴロースクール修了。89年通商産業省入省、07年から安倍晋三、福田康夫内閣で渡辺喜美・行政改革担当大臣の補佐官を務める。09年7月に退官後「政策工房」を設立。政策コンサルティングをスタート。近著に『官僚のレトリック』(新潮社) 10年10月、国際情報誌『SAPIO』にて連載開始。

【原さんのこれまで】

ふかみん:今日はお時間いただきましてありがとうございます。

原:こちらこそ、ありがとうございます。

ふかみん:まずは原さんのこれまでについて教えてください。

原:もともと私は通商産業省という役所に20年位いました。そこで政策の企画立案だとかをやってきまして、1年ぐらい前に辞めました。辞める直前は行政改革であるとか、公務員制度改革であるとか、そういうことに取り組んでました。辞めた後、政策工房というコンサルティングの会社を立ち上げ、政策づくりのお手伝いをやってます。お客さんは政党だったり民間団体だったりします。

ふかみん:そういう、政策コンサルティングの会社って今まで日本にあったんですか?

原:いやぁ、ないですね。

ふかみん:何か元となったモデルってあるんでしょうか?

原:そうですね、強いて言えば……アメリカには政策のシンクタンクがあり、政策づくりを競いあうような環境があるんですよ。その中で”良い政策”が勝ち残って最終的に議会で選ばれていくようになってるんです。日本の場合って、霞が関にある役所、官庁が独占的に政策をつくってるんです。政治家は官僚の手のひらの上で転がされ、国会も役人の根回しによって審議がなされるわけですから、結局霞が関でつくられる政策が最終的に内閣の決定となり国会で成立することになってしまうんです。

ふかみん:……てことは原さんはついこの間まで、政治家を手のひらの上で転がしてたわけですね。

原:そうですね(笑)。でもそれって、本当の意味での民主主義の世界じゃないですよね。

ふかみん:ふーむ。

原:国民が選んだ政治家が大きな方向性を示し物事を決めていくというのが本来の姿で、官僚の役割っていうのは色んなオプションを示したり、この選択をすればこういうことが起きる、という分析をすることであるはずなんですよ。でもその部分の仕事がいい加減になって、議員会館の国会議員がたくさんいるところを駆けずり回って根回ししてまわる、みたいなことがメインの仕事になっちゃってる。政策のオプションを提示しつつ、それぞれの政策にどういういい点と悪い点があるということを競いあう、”政策競争”がまったくなされていないんです。それって結局なんでかっていうと”霞が関”が政策づくりの独占企業だからなんですよ。だから「競争相手を作らなくちゃいけないんじゃないか」というのが私の考えなんです。

ふかみん:競争相手のひとつとしてまず最初に名乗りをあげた、と……。

原:そういうことです。

飄々とした原さん

【規制に挑む】

ふかみん:今回、小学館の雑誌『SAPIO』さんで新しく『おバカ規制の責任者でてこい!』という連載を開始されましたが、まず”規制”というものを最初の切り口にした、というのは何か狙いがあるんでしょうか?

原:行政の問題に斬り込むとき、「わかりやすいから」という理由でまず取り上げられがちなのが「無駄遣い」の問題なんですよね。例えば「飲み食いに使ってました」とか「マッサージ器を買ってました」とか、ワケのわかんない大きな建物をつくってしまった、とか……。

ふかみん:よく聞く話ですね。

原:でもその問題の根っこにあるのは何かっていうと、それは”制度”であったり”法律”であったり”規定”であったりするんです。個別の無駄遣いを取り上げるのはいいんだけど、それって”モグラ叩き”になっちゃう。

ふかみん:”モグラ叩き”ですか?

原:例えば「雇用促進事業団」なんてのがあって、昔あちこちに施設をつくっていたわけです。それが問題だということで止めさせて、施設なども売却してしまったわけだけれども、結局その「雇用促進事業団」の後継組織であった「雇用・能力開発機構」っていうところがまた問題を起こしている。「私のしごと館」というのを京都につくって、最近大問題となりました。これまた無駄な施設をつくる、というそういったことを繰り返しているわけです。看板だけすげ替えても同じ中身が残っているんであれば、問題は解決していないんです。変えていくべきなのは”仕組み”であり”制度”の部分なんです。

ふかみん:根底の仕組み自体が変わってないから、表面の部分を変えてもまた出てくる、ってことですね。まさに”モグラ叩き”だ。

原:そういう意味でも、”規制”とか”制度”の部分をもっと掘り下げてやったほうがいいですよ、ということなのです。

ふかみん:掘り下げつつ、さらにそこを変えていこう、という動きもあるんですよね?

原:そうなんです。もちろん現場の方々は、「変な”規制”があって、おかしいんですよ」という話を色々とご存知なんです。でもそれがどのような形で世の中に出て行くかというと、「要望」ということになっちゃうんですよね。

ふかみん:「要望」ですか。

原:「こういうおかしな規制があるんで、直していただけないでしょうか?」と行政機関に申し出て直してくださいよ、と言うわけなんだけど、省庁など行政機関の担当者は「これはこう決まっているもんだからダメ」ということでつっぱねておしまいになる。これが今まで繰り返されてきたパターンなんです。でもそれでは解決しない――これは私がどういうことをやりたいかという事にも関わってくるんですが、要望するんじゃなくて、さらに一歩踏み込んで欲しい。もし、おかしな規制やおかしな制度がみつかったとしたら、その先にある法律の条文を変えるように動いて欲しい。「法律の条文でここを変えれば解決しますよ」という提案をしたいんです。

ふかみん:え? 法律を変える? そんなことできるんですか。

原:いろんな規制って結局、法律であったり、その下の政令であったり、さらにその下のさまざまな役所が決める省令であったり、さらにその下のレベルの単なるお手紙だったり、そういった”紙”で総て決められてるんです。そもそも「この規制がおかしい」といったときに、外から見てるとどこがおかしくて、どの条文を変えるべきなのかというのは、なかなかわかりにくいものなんですけれども、できないわけじゃないんです。できるんです。どこに問題があるのか突き詰め、問題をみつけ、それを直す、っていうのをやっちゃえばいいんです。

ふかみん:ほー。でも直すってどうやったら…

原:法律に関する今の日本の仕組みって、実は役人が法案をつくって、根回しをかけて、国会で成立させる、ということになっちゃってるんですけれども、もともと国会議員がつくるもんなんですよ。国会議員は本来そういうことができる。

ふかみん:確か教科書にはそう書いてありましたね……。

原:なので、法律を直したかったら国会議員のところに持っていっちゃえばいいんです。

ふかみん:役人を中抜きしちゃうんですか。 でもそんなお上にたてつくようなことしたらヤバそうな気が……

原:いやいや、それが本来のルールなんですから。

ふかみん:役人以外の人がそんな風に法律をつくってもっていった、という前例はあるんですか?

原:議員立法ってのがありますよね。

誰でも法律をつくることができる?

【誰でも法律をつくることができる、その方法】

原:すごく例は少ないんですけど、なかったわけじゃないんです。例えば田中角栄さん。昔、自分で法律をつくって、通してたんですよ。

ふかみん:そうなんですか!

原:そういうことをやっていた人は確かにいるわけです。そして、それは国会議員の人たちの本来の仕事なわけで、「もっと、仕事をやりませんか」という働きかけも含めて、やっていきたいな、ということを考えています。

ふかみん:役人の人たちをすっとばして、直接議員に働きかけ法律を変え、規制をなくす、ということを実現していくんですね。これが本当にできたら素晴らしいですね。

原:『SAPIO』という雑誌で規制に関する連載をはじめていまして、そこで採り上げた規制に関する問題に関しても「ここをこう変えればいいのに」という目星はつけてあるんですよ。誌面にそこまで書ききれてないんですが。

ふかみん:原さんの頭の中には「ここをこう変えればいい」というのができてるんですね!

原:そうなんですよ。

(つづく)

”規制”に関するみなさんからの質問に原さんが答えてくれるそうです! 質問はこちらからどうぞ。


原さんの連載「おバカ規制の責任者出てこい!」は国際情報誌『SAPIO』に掲載されています。こちらもチェックしてみてくださいね。

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深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

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