真夏におでんを売るぞ売るぞ売るぞ

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G.A.W.

今回はnakamurabashiさんのブログ『G.A.W.』からご寄稿いただきました。

真夏におでんを売るぞ売るぞ売るぞ
真夏だってのにおでんのセールでした。いちおう本部の人たちが言うには「おでんっていうのは実はお惣菜(そうざい)の一種だから真夏でも売れる」とか「実は平均的におでんがいちばん売れてる地域は沖縄」とかいう理屈があって、暑くてもおでん売れるから、という理屈になるらしい。ほかにもオフィスは冷房効いてるからとか、夏向けの冷し麺(めん)とかの食材にはみんな飽きてるからとかいろいろ理由はあるらしい。

だけど真夏におでん食わねえよなあ、どう考えても。だって食ったら暑いじゃん。しかし、売るしかねえわけだ。

うちはもともとアホみたいにおでんを売る店だったのだが、実はここ1年くらいはあんまり数が伸びてない。売れないほうでは決してないけど、地区で10位以内ってほど売れてるわけでもない。そんな感じ。セールのときの伸びもそんなにない。

理由ははっきりしてて、単にオレのモチベーションが落ちたから。やー、だって疲れるし。このご時世に前年比伸ばしてるのなんてうちくらいなんだから、別にわざわざおでんやらなくてもいいでしょーみたいな。

いやー、長年この商売やってて持論みたいなのありまして、100%以上に努力しちゃだめっていうのがそれ。がんばってるうちに、いつのまにか120%が100%に
なるんだ、みたいな理屈あるけどさー、そんなんだるいわ。いや、なるんだろうけど。でもオレにいわすと常時80%をキープして“そこから絶対に落ちない”っていうことのほうがはるかに重要。で、ある週に120%がんばっちゃうと、相対的に次の週は70%とか、そういうところまで落ちちゃったりするわけ。そうすると実質的に客の目から見た場合“この店はレベル落とした”っていうことになるんだよね。毎日来る客を相手にしてる商売で、そっちのほうがずっとやばいでしょ。

そこでずーっと120%を続ければいい、という理屈は当然あるんだけども、まあ自分はいいよ。経営者だし。がんばり続けたっていいわね。でもバイトにまでそれを強要するのは不可能とはいわないけど、けっこう難しい。がんばり続ける店にするためには、それを強要するシステムが絶対に必要で、高負荷高収益高還元にしないと,、とうていもたない。きっちり還元できなかったら即ブラックの仲間入りですわ。

そんで、コンビニってビジネスモデルはどう考えたって収益がそうそう急に伸びたりはしない。がんばりには報償をったって、報償のぶんまで余計に利益稼げたりしないんだよね。

とまあ、このへんはオレの持論。別の人には別の考えかたがあるでしょう。

ただし、死ぬ気でがんばらなきゃいけないときもある。客と店の両方が“飽きた”と感じたとき。というより“飽きる兆候”が出てきたとき。うちの店のケースはまさにこれで、おでんを売ることに飽きてた。まずオレがな。

120%がんばること自体を否定するような考えかたもあるし、時給同じなのに、ある週だけがんばれっていうのはおかしいんじゃないか、という考えも当然ある。あっていい。だけど、ごく単純にいって“がんばって成果が出る”っていうのは楽しいことだ。それをやりがいの搾取と呼ぶのもいい。

だけどほっときゃどこまでもルーチンワークに陥りがちな商売において“変化”を与えるためには、どこかでお祭りをしなきゃいけない。とにかく「売ることは楽しいんだ」「この店すげえ」という意識をバイトがなくしたら、そこから先は転がるように落ちていく。自然に売上が伸びてる状況ならまだいい。“売上はすべてを癒す”だ。うちも全体で見ればそうだけど、おでんに限定して考えれば、決して楽観はしていられなかった。

そこで、おでんを大々的に売ることを考えた。今年1発目のセールだ。売るならド派手に売ってやれ。そして、ここが重要なんだけど、バイトをがんばらせるからには“絶対に成果を出さなきゃいけない”。がんばって成果が出ないとやる気なくなるからだ。だから、どんな無茶をしても売る必要があった。

ただし、今回は準備期間がまったくなかった。おでんに限らずだが、商品を売るためには事前の準備が重要だ。しかし今回は事情により、事前の準備に取れる時間が1日しかなかった。

ちなみに、おでんを売り込む王道っていうのは、もう完成してる。おそらくだけど、立地的にアホみたいに売れる大学前の店とかを別にして、売れる店はほとんど同じ方法を取っている。

まず、おでんの品質そのものを上げること。つまり、バイトのおでん管理技術を上げることだ。おでんってのは煮物なので管理に手間がかかる。そのノウハウをきっちり全員で共有して“いつでも同じ味”を実現することだ。

次にセールの周知徹底。店のなかではもちろん、やる店なら周辺地域へのポスティングもやる。地域にコネのあるオーナーなら予約を取りに行く。もちろん店のなかでも予約活動だ。おでんで予約とかありえないだろと思うかもしれないが、おでんが真夏でも売れるのは“それで晩飯の支度を1回休める”というのがあるから。となると、ある程度は予定が立ったほうが主婦にとってはありがたいわけで、そういう意味では予約には客にとってのメリットもある。

あと、バイトの人脈を使った予約獲得。予約商材全般でもそうだが、おでんでも同じことがいえる。

そして最後に、大胆な仕込み。たくさん作らないとおいしそうに見えない。たくさん作らないと豊量感が出ず、売れてる感じを演出できない。たくさんつくらないと、つゆの味もなかなか出ない。廃棄? なんすかそれ。作ったら売るんすよ。売れるの待ってるんじゃなくて、売るんすよ!

とまあここまでが事前にやっとくことになる。おでんの拡販は、店のオペレーション能力の総結集ということができるかと思う。

これらの条件のうち、店を出ての予約活動はアウトだ。オレは地元の人間ではないし、地域とのつきあいとかそういうの大嫌いだからやらない。それで売上落としてもやらない。店がつぶれるかもしれない、という危機になったらやるだろうが、そうならないように店を作ってるつもり。

また、バイトの人脈を使っての予約もやらない。なにを甘いことを、と言われそうだが、バイトにそういうことやらせんの嫌い。プライベートの時間に仕事のこと考えるのって最悪じゃないですか。やですよ。家に帰ってついったーで下品なことしゃべってるときにまで仕事のこと考えるの。まあ、世のなかにはそういうことが好きっていう人もいるから、そういう人にはお願いするけどさ。嫌いな人にはやらせない。

店での事前告知はやるんだが、今回はそれも無理。その状況で「売ろう」と思った。

ここまでが前置きだけど、以下に続く本文は、わりと平凡なことしか書いてない。どちらかというと、その平凡なことをやった過程のなかで気づいたこととかを書いていくことになる。

うちの店は伝統としておでんの管理レベルは高い。だからここは事前にクリア。どうやったら質の高いおでんを作れるか気になるコンビニ関係者は、本部の社員にでも聞いてください。てゆうかマニュアルどおり厳密に作れば品質は保証されるよね。全員にそれを周知徹底させる手段だけど、まずオーナーが死ぬほどおでん食え。店長でもいいが。そんで、バイトに死ぬほどおごれ。必要経費だと思って。必要経費ったって、具材の2個も食わせれば味はわかるわけで。まず“うちのおでんはおいしい”っていう自信をバイトに持たせること。これがないとおでんの拡販は絶対に成功しない。

次。店内での声かけや対面でのおすすめは、これも実は事前にクリアしてる。「やれ」っていえばやる土壌はできてるというか、ふだんからやってる。ちなみにバイトに声を出させる方法は、教育の初期段階で徹底的にやってるかどうかがすべてなので、いきなりがんばっても難しいです。

ミーティングは、オレは嫌いだからやらない。今回の場合、やってる時間もない。

声かけだけを頼りに売り込むか。それじゃ地区で1位はなかなか狙えない。なによりスタートダッシュがかからない。スタートでこけるとほんとみんなやる気なくす。

そこでオレがひねり出した手段が“店頭で呼び込みをする”というものだった。ただ店頭で呼び込みをやっても意味がない。駅前とかの人が多い場所ならまだ意味もあるだろうが、ここは住宅街、それも田舎だ。歩行者がまったく途切れるほどの田舎ではないが、人が列をなして歩くようなこともない。

それでもやる。やるにあたっては、店頭に客を引けるような商品をセットで置くことにした。なんぼなんでも「おでんいかっすかー」だけで寄ってきてくれるほど田舎の人っつっても純朴じゃない。そこで、日替わりで店頭に置くものをまず決めた。ちなみにそっちの売上は別に期待してなかったんだけど、あまりに珍しいことをやってるせいで、それらの商品もバカ売れした。

店頭に出て呼び込みをやるのはオレだ。ここで役割分担をはっきりさせた。つまり「オレは客を必ず呼び込む。だから店内で売り込むのは任せた」というように。プレッシャーをかけるというのとは違う。役割を明確にすることにより、チームでやってるっていう感じを高めるためだ。ついでにいうと“おでん奉行”みたいなのを一人用意して、おでんはそのバイトを中心に売る、という体制もかためた。これも売る店はおそらくやってると思うけどね。

実際にやってみた。歩行者が少ない。ヒマ。ヒマなのでやることない。やることないので、しかたないから、店の前の道路を通る車に片っ端から頭下げてみた。結論からいうとこれが意外なくらいに効果があった。最近は見かけないけど、ガソリンスタンドの前とかで旗振ってるのとか昔よくあったんだけど、あれ効果あるのね。

通過する車に頭を下げることになんの意味があるかというと、このへんの道路は生活道路で、車で通過する人間も潜在的にはうちの客だということだ。もちろんふだんの努力あっての賜物ではあるんだが「あの店ではなにかやっている」という印象を与えることそのものが大事、というわけだ。

効果があったとはっきりわかったのは3日目くらい。客数が1割増えた。ちょっと誤差の範囲では済まされない増えかただ。それでこの伏線がセール終盤になってから爆発する。

店内の飾りつけは、時間がなかったこともあって、とにかく目立てばなんでもいい、ということにした。通常の売場の維持管理はうちの奥さまに完全に任せきりにして、そこではイベントらしきことはなにもやらない。ふだん派手な陳列だとか展開を担当してるオレは、そのぶんをすべておでんの飾りつけに注力した格好だ。活用したのは本部資材だけ。コピーしまくって店内のあちこちにはりまくった。店頭も同じ。おでんののぼりを並べまくった。ようは“なんかやってる”そのことが“おでん”であると客がわかること、それだけわかればいい、という前提で、店のすべてをおでん仕様にした。ほかのこととのバランスを考えなければあんがいできる。

店内でのセールストークはさほどの工夫はしてない。店でいちばんセールストークが達者なのはオレだが、そのオレが店内にいない。そこで以下のことを徹底した。

まず、レジの前、おでんの前を通過する客には必ず「おでんいかっすかー」の声をかけること。

レジ前の客がおでんに注目したらすぐに容器を手にすること。

対面でのセールストークは、断られたらば「○曜日までやってます」の一言を必ずつけくわえること。

味見を10分に1回はすること。味見しながらのセールストークは、おでんに対する店の自信を客にアピールできる。

以上が買わせるまでの工夫。

次に、販売時の工夫。

売るときは大きい容器を最初から持つこと。可能な限り小さい容器は使わせない。ちなみにうちはセルフ販売はやらない。おでんを崩されるのがいやなのもそうだけど、セルフだと販売数は伸びづらいから。

おでんが5個になったらすぐに次の容器を出すこと。このことによって数はけっこう伸びる。

さらに、各バイトがおすすめアイテムを持つこと。これ定番だけどね。70円均一みたいなセールだと定価が高いほどお得になる。なので、定価が高いアイテムのなかから各バイトおすすめのアイテムを最低3種類は持ってもらう。意欲的なバイトには価格を暗記してもらう。客の注文は、だいたいの場合「大根と、はんぺんと、しらたきと、たまごとー」のあたりで1回止まる。その止まったときにどれだけおすすめできるかどうかで、客あたりの買う個数が伸びるか伸びないかが決まってくる。

そんで、つゆは8割くらい入れる。断られない限り。まあ知ってる人は知ってるだろうが、つゆの回転がよければよいほど、つゆの鮮度が上がり、味を維持できる。

まあこんな感じ。結果の数字は公表しないけど、地区1位は取った。

店頭での呼び込みの効果は終盤になっておそろしいほどにあらわれた。過去にも何度も地区1位は取ってるんだけど、単日での販売数の最高記録を8月中旬に叩き出すという異様な結果になった。あそこまで当たるとは思ってなかった。

というわけで、今回のまとめというか問題点。

店頭での呼び込みの効果がはたして永続的なものか、ということ。これ、やればやるほど客は慣れる。いっそのこと店頭を常時商品であふれるような状態にしておけばいいんだが、そんでおそらくそれは効果があるんだが(じゃなきゃスーパーはそんなことしてない)コンビニという業態でそこまでがんばる理由はあるのか。それともこのへんはもう個店対応ってやつで、業態とか無視してその店で効果があることどんどんやってくべきなのか。あと、あたりまえだけど人件費が余分にかかる。

効果としては、まあ期待してたとおり。店員ががんばれば売れる、という事実をわかってもらったこと。あと店の数字というものにバイトが興味を持ったこと。自分が日常的にやってる仕事は無意味ではないんだ、ということをバイトにわかってもらうのはけっこう難しい。売れて引っ込んだ商品を前に出すことに意味があるかどうかは、口で説明してもなかなかわかってもらえないからだ。すべての仕事がつながっている、意味があるんだということを理解すると、仕事が退屈じゃなくなる。そんでそれは経験を通じて知ってもらうほかない。

そんでオレの最後の持論。仕事が退屈なのは絶対だめ。退屈に感じさせたら、それは現場責任者の責任。現場の責任者の仕事は、バイトに対するサービス業。これはバイト主体の仕事なら、どこでも通用する鉄則だと思ってる。うん。オレにはES(Employee Satisfaction:従業員満足)しかないの。実は。CS(Customer satisfaction:顧客満足)の部分は全部“オペレーション”っていうかたちでコーティング。それでいいと思ってる。それ以上のものなんて、レベルの高い店を作るっていう意志さえあれば勝手についてくるもんだと思ってるし。

ちなみに今回のセールでいちばん消耗したのはまちがいなくオレ。成功の秘訣(ひけつ)って最終的にはこれだと思う。そんで、これだけ書いておいてなんだけど、やっぱ8月におでん売り込むのおかしいだろ……。

執筆: この記事はnakamurabashiさんのブログ『G.A.W.』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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