音楽CDが売れなくなった原因とテレビの衰退は関係があるのではないか

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空気を読まない中杜カズサ

今回は中杜カズサさんのブログ『空気を読まない中杜カズサ』からご寄稿いただきました。

音楽CDが売れなくなった原因とテレビの衰退は関係があるのではないか
先日、大手CDショップHMVの渋谷店が閉店となりました。

「“20年の殿堂”HMV渋谷がきょう閉店 深夜までライブ 『日本経済新聞』

この閉店の理由としては、やはりCDの売り上げが低下していることが一因としてあるでしょう。CDが売れない、というのはここ数年かなり耳にします。しかし、その理由はその発言がなされる立場によって様々です。とりわけレコード会社など販売側の方からは、「P2P(Peer to Peer)などでの違法ダウンロードが原因」という声がよくあがっています。

参考:「 音楽業界「CDが売れないのは割れが原因。ダウンロードも取り締まる法律を作るべき」」 2010年08月10日 『痛いニュース(ノ∀`) 』
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1523003.html

それに対して、「P2Pのせいにするな」とインターネットで反論されたりするのもお約束になりつつありますな。

・音楽CDが売れない原因は何か
さて、音楽CDの売り上げ減少は、本当にP2Pなどでの違法ダウンロードが原因なのか、それともそれはただの売れない原因をそこになすりつけているだけで、そこに原因はないのか。私が思うにこれはどちらも正解で、どちらも不正解だと思います。違法ダウンロードはたしかにあり、それが売り上げに全く影響を与えていないとは言えないでしょう。ただ、それに全部の原因があるわけではないと思えます。それは、音楽CDの売り上げ低下には、その他にも色々な要因があると思われるので。

よく言われているところだと、以下のような要素があるでしょう。
 - 曲の購買対象がインターネット配信&着うたに移ったせい
 - 買おうと思える程の魅力的な曲がなくなったせい
 - 他の娯楽(携帯など)が台頭し、金銭的、余暇時間がそちらに移った影響
 - 不況、すなわち若年層(とりわけ学生)の金銭不足の影響
 - CDレンタルによる影響 等々……

つまり流通(供給方法)の変化、娯楽の多様化、消費者の金銭的都合といったもの。さらにすでに音楽市場における供給側の数が20年前に比べて多くなり、飽和状態になっているという点もあるでしょう。だって、この20年間で市場に入ってきたアーティストの数の方が、抜けた数よりはるかに多いのですから(つか、多くの場合ある程度売れた歌い手は死なない限りはそのまま続けるような)。

ただ、あまり言われていないことで、実は音楽CD、場合によっては音楽配信などにおける売り上げを減らす大きな要因がもうひとつあると思うのです。とりわけそれは知名度の低い新人にとって。それは“音楽発信、紹介の場としてのテレビの衰退”。

・CDを買うための動機の必要
さて、人はどのようなプロセスを経てCDを購入するのでしょうか。多くの場合、全く知らないアーティストの曲を音楽も聴いたことがないのに買うというケースはないように思えます。

多くの場合は、その音楽を聴いて、もしくはそのアーティストの以前の曲を聴いて、それが気に入っているから買う、というパターンではないかと思われます。まあ自分はよく知らないゲームのサントラを買うことはしますが、これは“ゲーム音楽”というジャンルに対して買っている面がありますね。ですのであまりなじみのないメタルの、全く知らない曲をいきなり買う気にはそうそうならないでしょう(ジャケ買いという例外はあるかもしれませんが)。

つまり、多くの場合、そのCDを買うにあたっての“動機”が必要となるわけです。それがその曲を聴いてよかったとか、そのアーティストの前の曲が気に入ったとか。しかし、そのためにはそのアーティストのその曲、最低でもそれまでに出た曲を聴かせる必要があります。ただ、それはけっこう大変なことです。これは何にでも言えることですが、商品を売るためにはまずそれを売っているということを客にわからせなければ、そもそも売れる以前の問題です。

ゆえに広報展開というのが重要になるわけですが、音楽の場合また特殊な状況であるのです。というのは、音楽を文字で説明するのは非常に難しいから。一応ゲーム音楽ライターの端くれな私ですが、自分がいいと思う音楽でも、どのような表現で伝えればいいのかというのはかなり悩むことがあります。だって、文字で書いてもその音のイメージが読み手にとって同じとは限らず、うまく伝わるかわからないので。

つか、音楽の表現の多用さに比べて、文字がなかなか追いつかないのですよね(これは私の文章力の問題もあるでしょうが)。ゆえにいろいろ試行錯誤しています(ちなみにポピュラー音楽の紹介などで、音楽には触れず、そのアーティストの紹介などで占められている場合もけっこうありますな)。

・放送によってなされていた受動的な音楽視聴
でも、音楽の良さを伝える一番の方法があります。それは音楽を流すこと。単純すぎますが、これが一番確実なのです。音楽のプロモーションでは、その一部を流すことを割とやりますね。ただ、これもただ流せる状況にすれば聴いてくれるとは限りません。

気になっているアーティストならともかく、全く知らない人の曲を聴きにいくというのは、音楽(もしくはそのジャンル)に強い興味がある人じゃない限り、おおくはないでしょう。なぜなら、自分になじみのない曲を聴くっていうのは、割とパワーがいることだと思うのですよね。それを聴くよりは、気に入った昔の曲を聴いたほうが心地いいし疲れない、という人も割といるのではないかと。

関連:「自分にとって新たな音楽を聴くのは気力がいるという話」2010年02月18日『ゲームミュージックなブログ』
http://gamemusic.blog50.fc2.com/blog-entry-1022.html

新しい人の場合、たとえ無料で公開しても、なかなか聴きに来ないという現状があるでしょう。つまり、能動的になりにくい。ならユーザーに聴かせるためにはどうしたらいいか。

それは強制的に聴かせる状況におけばいいのです。とはいっても、縛り付けてヘッドホンを無理矢理つけて寝ずに聴かせるというような拷問をするわけではありません(それは洗脳だし)。受動的な状況にすればいいのです。そしてそれができるのがテレビ、ラジオといった放送。

テレビやラジオは受動的要素が強いメディアです。つまり“何かを見る”ためにテレビを付けたら、その目的のものが見られますが、それ以外のものも強制的に与えられます(あと、最近は特に見るものがなくてもつけっぱなしという人も多いのではないかと。大黒摩季の『ら・ら・ら』にも寂しいからテレビやマスコミつけてるっていう歌詞があったなあ)。

その最たるものがコマーシャル。そのほかテレビ番組内の宣伝とかもそうですね。つまり、ユーザーが望んでいないにもかかわらず、情報が流れてくるわけです。となると、音楽も入ってきます。しかもそれはその視聴者にとって無名な人であろうとも。で、そこで多くの人に気に入られれば、CDや携帯などで音楽が売れるといった流れにもなるでしょう。

むしろ、今までのヒット曲の流れはそのパターンが多かったのではないでしょうか。特に80年代から90年代のあたりのヒット曲はテレビとのタイアップ、例えば月9(ゲツク) などドラマの主題歌などが多く、ダブルやトリプルミリオンになっていました。

コマーシャルの曲がそのままオリコン上位になることも多かったですね(まあタイアップにはその曲のよしあし以外にも売れる要素はありますが)。それ以外にも、コマーシャルがかなり流されたものや多く紹介されたものもその効果が出て、ヒット曲となるものもあったように思います(もちろん曲がアレで、プロモに金かけたわりに売れなかったものも多数存在するでしょうが。というかそっちの方が多いでしょうけど)。

このように受動的媒体としてのテレビやラジオといった“放送”は、音楽のアピールにとってうってつけの場所だったわけです。いや、むしろ音楽CD市場が、放送に最適化しながら成長してきたのかもしれません。

・インターネットの普及と受動的音楽試聴時間の低下
しかし、2000年前後から携帯電話含むインターネットが普及してきました。もちろんこれにより全くテレビを見なくなったというわけではありませんが、余暇の時間をインターネットや携帯電話にとられることになったというのは確かでしょう。特にCDの購買対象になる若年層(F1、M1)は、それが顕著だったのではないかと。となると、今まで音楽を聴いたり情報を仕入れてきた先が減ることになります。それがCD、それに音楽全体の売り上げ低下につながったのではないでしょうか。それ以前に出ていた歌い手はそれまでの知名度があるでしょうが、それ以降に出た新人は特にその影響を受けたのではないかと。

でも、音楽の情報を伝えるものはインターネットもある、というかそっちの方がはるかに豊富、と思われるでしょうが、インターネットの場合はそのコンテンツにたどりつくまでにクリックなり検索なり自分の意思における行動が必要となります。つまり、放送が受動的だとすると、インターネットは能動的要素が高いと言えるでしょう。さらに、他の商品よりも音楽の場合インターネットにおけるアピールがしづらいというのがあります。それは前述のように、文字媒体では音楽の魅力を伝えにくいということ。ゆえにインターネットにおける広報手段として有用である『Twitter』などのクチコミができにくいと。

そんなわけで、その歌い手を知らない人にその人の情報を伝えるということは、放送が有力な情報電波手段だった時代に比べて難しくなったのではないでしょうか。そしてCDの売り上げが下がったというのは、「自分の既存の音楽視聴範囲外における音楽への関心を引く方法が減った」ゆえなのではないかと。昔、最近のアーティストを知らないというと、オッサン扱いされたものですけど、ここ数年の新人を知らない人は 10代、20代でも割と多くなっているのではないでしょうか。

現在、音楽CDが売れているのは、アイドル系やアニメ系ということをよく聞きます。これは固定ファンがいるということが主な要因だと思いますが、同時にこれらはまだ購買層がその情報を発信するテレビに対しての注目度が高い(アイドルならその人たちが出る番組、アニメなら言わずもがなその本編)ということも一因としてあるのではないかと。

・インターネット時代における音楽を聴かせる(紹介する)方法
となると、今後テレビが衰退していくとすると、ますます受動的に音楽を聴ける要素がなくなっていき、新人にとってはかなり広報的につらいことになるとも言えます(知名度のある人でも、その販売がされると伝わらなければ同じですが)。

ならどうするか。これはやはり、新しい人の曲でも聴いてもらえる体勢を整える手段が必要ではないでしょうか。とはいえ、趣味が細分化してしまった現在では、昔みたいにテレビが中央集権的に注目を集める時代はないでしょう。しかし、インターネットの利用者でも、音楽を聴いてもらえる仕組みはあるはずです。

たとえばあるサイトに行き、コンテンツを楽しむ時に音楽が流れるとか(まあそのまま強制的に流されるとウザいだけかもしれませんが)。ただ、現行では、インターネット上で音楽を、とりわけ著作権団体に管理委託されている音楽を合法的に流すのはかなり手間、それにお金がかかります。そのへんを権利者が望めば自由度が高くできる仕組みとかができればよいと思うのですが。

それと、最近注目しているのが、『iPhone』アプリの『MusicID』*1 というもの。これはそのへんで流れている音楽を聴かせると、その曲名やアルバムを表示するというものです(ゲーム音楽もそこそこ出てきて、意外と認識率が高い)。これをうまく使えば、“受動的な音楽試聴”を構築でき、ひいては売り上げにつながる可能性もあるのではないかと。
*1:『Apple iTunes』「iTunesプレビュー:MusicID」
http://itunes.apple.com/jp/app/musicid/id358838909?mt=8&ign-mpt=uo%3D6

今までの音楽市場というのは、テレビなど放送に最適化される形で発展してきたと思います。ですが、これからインターネットなどの通信は欠かせない時代となっており、そちらに最適化する音楽市場の構築が必要、というか急務ではないでしょうか。まあもしかしたらそれはとっくに気付かれていていたのに、打つ手を間違えたがゆえの結果が今の状況なのかもしれませんが。

執筆: この記事は中杜カズサさんのブログ『空気を読まない中杜カズサ』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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