人気アニメ『紙兎ロペ』を福岡で制作する青池良輔ディレクターに聞く 福岡のクイリエイティブシーンがアツいってホント?

人気アニメ『紙兎ロペ』を福岡で制作する青池良輔監督に聞く 福岡のクイリエイティブシーンがアツいってホント?

フジテレビ系の『めざましテレビ』(5:25~8:00)で毎日放送されているショートアニメーション『紙兎ロペ』。数多くのグッズが販売され、企業とのタイアップでも目にする機会の多い人気作品ですが、このアニメは福岡市で制作されていることはご存じでしたか? 『紙兎ロペ』を制作するKITERETSUでディレクターを務める青池良輔氏は山口県出身。カナダのモントリオールで制作したFlashアニメ『CATMAN』で脚光を浴び、カナダで数多くの作品を手掛けた後、現在は福岡市に拠点を構えて『紙兎ロペ』を制作し続けています。青池氏はなぜ福岡を拠点に選んだのか、福岡はクリエーターにとってどんな魅力がある土地なのか。福岡に行って青池氏にインタビューしてきました。

福岡の8名のスタジオで制作

――まず、青池さんの現在のお仕事について教えてください。

青池:『めざましテレビ』内で平日、毎朝放送中のアニメ『紙兎ロペ』のディレクターをやっています。『紙兎ロペ』のプロジェクトチームは、作家が13名、アニメーターや背景制作などアニメーションの制作者が15名、そのほかデジタルコンテンツやグッズ、イベントの制作・運営、宣伝、それをまとめるプロデューサーやディレクターを含めて約45名が携わっています。福岡オフィスでは、脚本おこしからデザイン、アニメーションづけを8名のスタッフが担当しています。

――年間何本ぐらい制作するんですか?

青池:放送しているのが週に5本、年末年始は『めざましテレビ』がお休みなので放送はないですが、祝日は放送があるので年に250本、プラスタイアップの物も入れると年間280本ぐらいですね。

制作風景

――最初からこの規模でやっていたわけではないですよね?

青池:最初は映画館の幕間で上映したのですが、制作本数は月に1本とかだったので、1本あたり10名程度のスタッフで制作していました。そのあと、長編映画(2012年公開の『映画紙兎ロペ つか、夏休みラスイチってマジっすか!?』)を作るときにスタッフを増やして体制を固めていったという感じですね。

拠点をモントリオールから福岡へ

――青池さんはカナダのモントリオールで映像クリエーターとしてのキャリアをスタートして、日本に帰国する際、福岡を拠点にしたんですよね。どういう経緯で福岡に?

青池:もともと大阪芸術大学の映像学科を出て、カナダの映画会社の制作部で働いていたんです。その後独立してショートアニメーションを制作する会社を作りました。カナダの仕事もしていたんですけど、ネット経由で仕事を受けていたらだんだん日本の仕事ばかりになって。それでKITERETSUのプロデューサーから「日本ならどこでもいいから引っ越して来ませんか、一緒に仕事しましょう」というお話をいただいて。

じゃあ、と家族と相談して日本へ行きましょう、となったときに日本地図を広げて(笑)。第一条件に、東京は嫌だったんですよ。めっちゃ仕事づけになることは見えていたし、子供もいたので東京の環境はどうなのかなと不安もあって。それで日本の楽園を探してたんですよ。熱海とか沖縄とか調べて(笑)。

それで福岡はどうやろ、という話もあったときに福岡でセミナーの講師をやることがあって。福岡でセミナー終わってから、屋台で大工のおっちゃんらと飲んでたんですよ。当時、僕は「カナダに住んでるんですよ」と言うとほぼ100%、「うらやましい」とか「素敵ですね」と言われてたんですけど、その大工のおっちゃんには「なんちゃ知らんけど、兄ちゃん苦労しとっちゃね」と言われて。スゲえ感動して(笑)。「あれ、ちょっと福岡の人、優しいんじゃね?」と思って。

それで実家が山口で近い、食べ物もおいしい、東京までドアツードアで3時間半ぐらいで行ける、と総合的に考えると福岡がいいなと。福岡に来た当初は僕含め3人ぐらいで、ソーシャルゲームやキャラもののショートアニメーションを作っていましたね。

スタッフは福岡で採用

制作風景

――その後集めたスタッフの皆さんは福岡で採用したそうなのですが、どういう募集をかけて集まった人たちなんでしょう?

青池:専門学校の就職課の方の紹介、ハローワークの募集、『Twitter』で募集して来た人、友達……全員バラバラなんですよね。8人中、2人は東京から来た人です。少人数のチームなんで、一定水準の技術があるかどうかより、その人が事務所にハマるかどうか、とか性格重視で採用しているところはあるんですけど。

――みなさん、オフィスまでの通勤ってどれぐらいかかってるんですか?

スタッフの皆さんと

青池:8人中1人が電車通勤で15分ぐらい。ほかの人は自転車で15分の人や40分の人、歩いて15分の人……平均15分ぐらいですかね。僕は歩いて3分(笑)。

クリエーターにとっての福岡の魅力とは

――クリエーターの方にとって福岡ってどうですか? 住み心地とか仕事のしやすさとか。

青池:僕もよく「なんで福岡?」と聞かれるんですけど、忙しくないかというと忙しいんですよ。でも東京のプロデューサーやスポンサーの仕事が中心になるんですけど、そういうときに、距離があるから考える時間があるじゃないですか。東京だと1時間電車に乗って打ち合わせに行って、打ち合わせを2時間して、となると思うんですけど、福岡だと集中できる時間はある。

福岡市が「コンパクトシティ福岡」と言っているとおり、中心に出るまで近いし、さっきの話のように通勤に時間がかからない。それだけでもだいぶ違うと思いますね。

青池氏の作業デスク

僕の場合はこの距離と時間と、空間。福岡って高い建物がないので空間が広いでしょ。空が抜けてるんですよ。それでも気持ちがずいぶん違うんじゃないかなと。食べ物とお酒もおいしいですし(笑)。

あと人の価値観がやや古いので、落ち着くというか懐かしい感じ。あまりギスギスしてないのもいいですね。こんなこと言うと反感買うかもしれないですけど、モノづくりをしている人たちが、ちょっと背伸びしてるんですよ。「もうちょっと頑張らんといかんのやないかな」というのがうすーく漂ってる。実は東京に憧れてて、東京でも通用するぐらい頑張ってて、いつの間にかスゴいことになってる人がそこそこいて。

クリエーターが集まる街に期待

――福岡市は県外からのクリエーターの誘致に力を入れていると思うのですが、そういう空気は感じますか?

青池:「いっぱい来たらええのに」とはみんなで言ってますね。よくも悪くも福岡はクリエーターが過ごしやすい場所だから、めちゃめちゃハングリーな若者にあまり出会えないというか。どんどん外から入ってくると底上げになるじゃないですか。レベルファイブの面接で落とされてうちの会社に来てくれるとか(笑)。外からクリエーターが集まることに脅威は感じていないんじゃないですかね。仕事が増えるんだろうな、という期待感はある。

――福岡でこれから働こうと考えているクリエーターに、福岡のクリエイティブやエンターテインメント関連の情報を提供する『# FUKUOKA(ハッシュ福岡)』というニュースサイトもありますよね。

# FUKUOKA
http://hash.city.fukuoka.lg.jp/

青池:情報を発信するところとしてはいいと思いますね、取り組んでる感がある。福岡の外の人は、もっとベタなことが聞きたいかもしれないですね。家賃はいくらなの、とか幼稚園はあるの、とか。僕もそういう情報が知りたかったので。

『# FUKUOKA』に代表の木綿達史さんのインタビューが載っている、東京オリンピック招致VTRで有名な“KOO-KI(空気)”はこのオフィスのすぐ近くですね。ほかにも歩いて3分で『妖怪ウォッチ』のレベルファイブがある、歩いて3分でCGアニメ『Peeping Life』を作っている森りょういちさんがいる、という感じでけっこうクリエーターが密集しています。

――クリエーター同士の横のつながりってあるんですか?

青池:『海猿』とか『S -最後の警官-』の原作者の小森陽一さんは大学の先輩でよく飲みに連れて行ってもらってますし、森りょういちさんはすぐ近所の友達で、タイミング合えば飲もう、という感じです。みんな忙しいのは忙しいですけど、「飲もう」というときに自転車や徒歩ですぐ集まれるのは福岡のいいところですね。

――福岡のクリエイティブシーン、アツそうですねえ。

青池:『妖怪ウォッチ』とかめっちゃ流行ってるじゃないですか。そう言うと人のフンドシになっちゃうけど(笑)、みんなアツさを感じてると思いますよ。

――ありがとうございました!

福岡のクリエーターの皆さん

余談ですが、取材の後に青池氏と飲んでいたら、木綿氏をはじめKOO-KIの皆さんやクリエーターさんたちとバッタリ。福岡のクリエイティブシーンの“濃さ”と“アツさ”を実感しました。こんな福岡の地で仕事をしてみたいクリエーターは、まず『# FUKUOKA』で情報を集めてみては。

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shnsk

宮原俊介(エグゼクティブマネージャー) 酒と音楽とプロレスを愛する、未来検索ブラジルのコンテンツプロデューサー。2010年3月~2019年11月まで2代目編集長、2019年12月~2024年3月に編集主幹を務め現職。ゲームコミュニティ『モゲラ』も担当してます

ウェブサイト: http://mogera.jp/

TwitterID: shnskm

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