岩盤規制は国家戦略特区で打破する! 「タクシー規制」で国と係争中のエムケイ株式会社代表取締役社長・青木氏を直撃インタビュー!

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法律で値上げを強制するタクシー規制。しかし司法の判断は「No!」

 今年から施行された「改正タクシー事業適正化・活性化特別措置法」(以下、「タクシー規制」と称す)は、需給調整の強化(特定地域における参入・増車の禁止、減車の強制)と、運賃規制の強化(特定地域等では運賃の幅を公定)を図るということが目的となっています。これは、既得権を持った極少数の人のためのもので、そういう団体に支えられた議員が法律を作り、役所は所管の業界を見て仕事をするという、まさに「鉄のトライアングルの典型」だと思います。大多数である一般消費者の利益をまったく無視した、あきらかにゆがめられた政策としか言いようがありません。

青木 おっしゃる通りです。まったく不条理な規制で、私たちも値上げを検討しないわけではなかったのですが、その通りにやろうとすると私たちのような安価な運賃のタクシー会社では一気に25%ほどの値上げになってしまうのです。こんな無謀な法律はありませんよ。消費増税では、経済動向を見ながら段階的に上げていこうとしている中で、「タクシーの運賃だけ一気に上げなさい」という理屈は通りません。
それに運賃規制によって値上げされる分はほぼストレートに消費者が負担するようになります。そのことを消費者の皆さんはほとんどご存知ではないのです。以前、一般の方々に対して2週間で約2万名のアンケート調査を行ったのですが、タクシー規制に賛成する人が3%、反対が59%。残りの38%はタクシー規制がわかならいという回答でした。どういうことが法律で決められているのかを消費者の皆さんはほとんどご存じないのではないでしょうか。

 消費者が法律や規制の内容を知ってもらわなければ何も解決しないと思います。

青木 京都では4月1日に消費税に合わせて10%程度の値上げを各社行いましたが、お客様は「消費税が上がったから運賃も上がったんでしょ?」という感覚しかないようでした。また、特に京都の4月は観光のトップシーズンですので、首都圏からいらっしゃる観光客にとっては、そもそも京都のタクシー料金は安いんですね。だから運賃が上がっていてもこの時期の需要は多く、値上げしたタクシー会社は好調だったと聞いています。
ところが、観光客が減少する夏になると、地元の人が通常使う需要しかありませんので、観光客がいなくなった分がそのまま減収となり、約2割の値上げをした会社もありますが、前年比を割っている会社もあるのではないかと言われています。

 タクシー規制が施行され、国土交通省下の各運輸局は、例えば大阪府内の初乗り運賃を660~680円にする(公定幅運賃)ように指導や是正勧告を行い、従わない業者には運賃変更命令や車両の使用停止処分を出し、それでも変更しないと事業許可を取り消すという強行姿勢を打ち出そうとしてきたわけですが、MKタクシーは福岡、大阪などでこれを争い、国に対して勝訴を勝ち取ったことは注目に値します。これ以外にも、タクシー規制関連では、管轄省である国土交通省が司法の場で負けていますが、ここまで行政の政策運営が否定され続けることは、過去にあまり例がないと思います。

青木 私たちも驚いています。特に経済的事案で国に勝訴するのは難しいと言われていました。
司法の判断は、公定幅運賃について基本的には容認していますが、その算定基準が曖昧なのが裁量権を逸脱しているという判断なのです。したがって、将来的には公定幅運賃は継続されて、現時点での公定幅(20円〜30円の差)が見直されるだけということになるかもしれません。そうなるとタクシーという事業体だけで経営を続けることは難しくなる可能性があります。

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成長を妨げる政策が、高齢化が進むタクシー業界に追い打ちをかける

 「運賃の公定化」自体が本当は問題ですね。また、もう一つの規制「増車の禁止・減車の強制」ですが、規制論者側の論理は、タクシー業界では供給過剰が起きているから減車が必要というのですが、実情はいかがでしょうか?

青木 まったく考えられないことです。タクシーの運転者がどんどん減っている現状で、「タクシーの供給過剰だ」なんて起きるはずはありません。
運転者である労働者を確保することは、タクシー業界では大きな問題になっています。若年層の運転者がほとんど増えていないんです。例えば大阪では2万6766人の運転者に乗務証が交付されていますが、30歳以下の運転手は83人しかいないんです。30歳代も535人しかいません。60歳代以上が約66%を占め、今後さらに高齢化は進みます。このような労働者不足にある中で、車の台数が増えて供給過剰になるということはあり得ないことです。

 国が行ったタクシー業界に対する政策は、農業と同じですね。「タクシーが供給過剰だから、供給量を制限し運賃を上げてタクシー産業を守ろう」ということなのでしょうが、運賃が高くなると乗るお客さんも減ってしまう。農業分野では、誤った政策が長年続けられてきた結果、担い手は高齢化・減少し、日本農業はもはや消滅の危機に近い状態です。タクシー産業も同じようなことになりかねません。

青木 そうなんです。「増車を禁止し、減車を強制する」という単純な話ではないのです。私たちタクシー会社の経営者は、車の増減をフレキシブルにできるような環境の基でこそ、健全な会社経営を行うことができるのであって、実態に則していない規制にとらわれていては、うまくいくはずがありません。

 90年代以降に一度規制緩和が行われ、タクシー業界もいろんな改革ができるようになりましたが、当時はどうだったのでしょう。

青木 当時は、私たちが驚くほど官僚の方たちの対応は柔軟でした。例えばMKタクシーが創業45周年を迎えた日から3日間、運賃を45%オフにしようと提案したのですが、「きっとだめだろう」と思っていたところ、あっさり「大丈夫ですよ」との回答だったのです。結構何でもやってくれました。

 役所の中でも「改革は必要」という人は数多くいます。しかし、そんな人たちでも、いざとなると議員や団体等の顔色をみて、改革反対の方を向いてしまう人が多いのです。だからと言って諦めるわけにはいきません。先ほどもタクシー業界は農業と同じだと言いましたが、本来はどちらも成長産業なのです。成長戦略の切り札として、安倍内閣は国家戦略特区という制度を用意しました。
農業について、政府は「潜在的に成長する産業である」と言い続けながら、長いこと実現できずにきましたが、今年、国家戦略特区として兵庫県養父市を選び、農業の本格的改革の一歩をスタートさせました。一方で政府は、2020年に向けて「観光産業を思い切り成長させよう」とも言っています。タクシー産業はその大きな核となっておかしくないはずです。
そこで、関西圏の国家戦略特区を使って展開していくことは、大きなチャンスになるのでないでしょうか。大阪府・市からは、国家戦略特区では運賃規制や減車強制などを適用除外し、その代りタクシーサービスの質を確保するための独自の規制を導入したいとの提案がなされています。具体的に、質を高めるためにどんな規制をやったらいいと思われますか?

青木 橋下大阪市長の発言からも国家戦略特区への期待は大いにあります。では、行政が何をしたらいいかというと、現在、運転車証の発行は運転車登録センターで行われていますが、たった2日間の講義を受けただけで運転者証が発行されます。そうではなくて、例えば当社がやっているように2週間の期間を設けて、運転技術はもちろん、接待マナーや地理教育などを受講しなければならないようにしたらいいんです。
さらに、運転者証の更新時においても研修を行い、その人の事故歴や苦情歴も検討材料にしていく。これによってまず適格者のハードルが上がり、運転者の質はかなり良くなります。

 不適格者を排除することは業界全体にとって重要なことですね。

青木 そして行政は、私も含め経営者を見て、育てて欲しいんです。これが行政の一番やるべきことだと思います。いいも悪いも、さまざまな経営者がいる中で、悪い経営者には事業免許を与えないで欲しい。
今、違法状態にあるタクシー会社はいくつもあると言われています。例えば道路運送法では運行管理者が必要事項の確認と指示を行い、点呼簿や業務日報に押印することが義務づけされていますが、まともにやっている会社は少ないと聞きます。また、運転者の1ヶ月の拘束時間は日勤者の場合が299時間、隔日勤務者の場合が262時間と決まっていますが、守られていないことがあります。
行政が責任をもって、このような不正をチェックし、経営スタイルや事故率、従業員の賃金の問題等を含めて5段階程度に評点化した方がいいと考えています。

 なるほど。運賃規制や減車強制よりも、行政の本来果たすべき役割が十分果たされていないですね。国家戦略特区では、ぜひこうした別の規制体系の実験をしてみるべきでしょう。
こうした正しい政策をとれば、タクシー産業は成長産業になれるのでないでしょうか。その道筋はどう描かれますか?

青木 当社の創業者が昭和50年代に提言した「都市交通改革」の考え方が理想的と考えています。

国家戦略特区でタクシー産業はもっと成長する

青木 昭和40年代、タクシー運賃は2年間隔で値上げしてきたという事実がありました。お客様が減らない高度経済成長期はよかったのですが、オイルショック後、低成長期になっても同じように値上げしてきた結果、実車率が下がってしまいました。このとき、京都大学の教授が「このままいくと将来的には富裕層しか乗らなくなり、タクシーが公共の交通機関ということではなくなってしまう。だから運賃は実社会に合った価格でなければならず、適正な運賃にしていくのが経営者の義務である」というようなことをおっしゃったんです。

 なるほど。

青木 さらに、モータリゼーションの発達で都市部では渋滞が起こっており、緩和するためにタクシーをどうするかという議論もありました。
京都では6000台ほどタクシーの需要があるのですが、これをお客様のストレスなくまかなうためには3万台ほど市中に必要なのです。しかし、これは荒唐無稽な話でして。
ではどうするか、面から面へと大量輸送が可能であるバス・電車と、ピンポイント送迎のタクシーがマッチングしなければならないのです。バスと電車とタクシーが連携・結合して、はじめて都市交通というのが成り立つわけです。
京都の場合は、市外周辺のバスや電車の赤字路線をオンデマンドのタクシーが走るという実証実験を、実は何度もやっているのです。
京都は碁盤の目をした街ですから、バスの環状路線をつくり、東西南北を往復させることで一回乗り換えたら京都市内をどこでも行けます。そして、ピンポイント送迎のタクシーで、交通移動弱者に対して目の前までお迎えして目の前までお送りするという組み合わせにします。
このことによって、どのような効果が期待できるかというと、自家用車の利用が減り、公共交通機関に劇的にシフトするでしょう。まさにユニバーサル交通ネットワークの概念である「いつでも、どこでも、誰でもが、気軽で安価で利用できる」の実現です。さらにタクシー業界では「安心して、気持ちよく」を付加することで、タクシー業界全体が潤っていくはずだ、という発想なんです。

 これはすごいですね。多くの都市でようやくこうした議論が始まったような課題について、御社では40年前からビジョンを描いていたわけです。
「都市交通改革」をベースとして、新しい交通網モデルを実現できれば、渋滞で悩んでいるアジア各国へ輸出することもできるでしょう。これこそ、成長戦略の目指す方向です。ぜひ国家戦略特区も使って実現させましょう。

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原英史

株式会社政策工房代表取締役、特定非営利活動法人「万年野党」理事。

ウェブサイト: http://yatoojp.com/

TwitterID: HaraEiji

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