ばあちゃんな、おれのこと、覚えてないんだよ

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ホームページを作る人のネタ帳

今回はYamadaさんのブログ『ホームページを作る人のネタ帳』からご寄稿いただきました。

ばあちゃんな、おれのこと、覚えてないんだよ
「ばあちゃんな、おれのこと、覚えてないんだよ」

高校3年。私が母親に言ったセリフだった。私のばあちゃんは痴呆症がすすみ、色々と問題がおきた。オヤジが死んで、大体1年くらいたった頃だった。

■春。ゆきどけ
ばあちゃんが死んだのは私が高校を卒業し、専門学校の入学式の前日だった。私はそれによって入学式を出ていない。元々ばあちゃんはずっと遠くで1人で暮らしていた。色々畑仕事とかしたりして、バイクも好きで、『カブ』に一緒に乗せてもらった事もあった。大腸ガンをわずらったが、若干人とは違うところから便がでるようになった事以外、完全にガンも克服するほど強い人だった。

しかし、年とともに少しずつ痴呆(ちほう)が進んでいった。そんなことはもちろん知らなかったわけで、あるとき近所に、といっても歩いて20秒の目と鼻の先の小さな家にばあちゃんが引っ越してきた。うちの母親がお世話をするということになったんだろうと今になって思う。引っ越してきて1年。私は高校3年になった。真夜中に電話がなる。

ばあちゃんからだった。

「外に沢山の人がいて部屋をのぞく!」

こうした電話がとにかく多かった。親父が死んだのが高校1年だったというのもあり、母親もこれには相当まいっている様子だった。恐らくだが、痴呆によって大変になるのは、本人よりも周りなんだろうと、その時感じていた。

■おい、あれ買ってこい
痴呆が進行していくと、記憶が飛び飛びになり、また、人の顔と思い出の記憶にズレが起こる。例えば母親の顔を見ても、母親として認識している時もあれば、ちょっと時間を空けると、別の人間の名前を呼んだり、まるでその別人に対して接客するような振る舞いを行う。私のことも、たまに別の人と間違って接することがあった。

今になってみれば恥ずかしい感情だが、その時は、母親も疲れきっていて「早く死ねばいいのに」と思ってしまっていた。そのうち徘徊(はいかい)なども始まり、いよいよ苦しい介護が必要になってきた。もちろん母親も仕事をしなければならないので、私も介護を手伝っていた。

高校3年もそろそろ終わりが近づいてきた時、ばあちゃんが、私のことをまた別人だと思ったのかわからないけど、私に買い物を頼んできた。

「おい、黒いカバンと、えんぴつとけしごむ買ってこい。カバンはなるべく若者が好きそうなのを買ってくるんだぞ」

なんのこっちゃ。昔はそんな口の聞き方を私にするようなばあちゃんではなかったので、多分だれかと勘違いしたのだろう。一応、母親に相談し、買ってきた。だれかに送るのかなとか、色々思ったけど、よくわからなかった。

「ばあちゃん、買って来たぞ」と言ってカバンを渡した。

するとばあちゃんは、半分泣きながら私に向かってこういった。

「なぁ聞いてくれよ。孫の△△が、高校卒業するんだとよ。卒業式まで生きれるかわからないからコレ、渡してやりてんだ。でもな、もうどうやって渡したらいいかわからないんだ。どこに住んでるんだっけなぁ」

△△、とは、私の下の名前だ。

おいコノヤロウ。今思い出してもやはり涙があふれてくる強烈な一言だった。
「ばあちゃんオレだよわからないの?」

何回か泣きながら言ったけど、結局私のことはわからなかったみたいだった。
親父のこと *1 もあって、ありがとう、ごめんねって何回も言った記憶がある。

*1:「親父よ。あんたは幸せだったのかい?」2008/06/20『ホームページを作る人のネタ帳』
http://e0166.blog89.fc2.com/blog-entry-493.html

色々あったけど、結局ばあちゃんはその数日後に入院し、亡くなった。

ずっとずっと小学校のころ、『カブ』に乗せてもらって、大好きだったおばあちゃん。何回かお盆休みや、夏休みの時に遊びに行って、色んな遊びを教えてくれた人だった。

でも、痴呆って結構壮絶なもんでね、本当に嫌いになったこともあったし、ヒドイ感情が芽生えることも多かった。

私はそうした憎しみだけをもって、最後を送ることにならずに済んだことに感謝している。最後にもらった黒いカバンと、鉛筆とけしごむは、専門学校に行くことが決まった祝いだったのか、それとも単に痴呆によって選んだものだったのかは、今はわからないが、本当にありがとうと最後に伝える事が出来た。

痴呆のばあちゃんも、ちゃんと私の事を思っていてくれたように、人生色々あるけど、だれかはきっとあなたの事をちゃんとみてるんじゃないかなって思う。

執筆: この記事は今回はYamadaさんのブログ『ホームページを作る人のネタ帳』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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