インフルエンザによる異常行動の恐怖
抗インフルエンザ薬ではなく、ウイルスそのものに原因がある
兵庫県の中学校で、男子生徒が校舎4階から転落して死亡しました。当初、いじめを苦にした自殺の可能性が浮上しましたが、市教委が設置した第三者による事故調査委員会は、転落の原因を「インフルエンザなどウイルス性疾患の脳症による異常行動が原因」と結論付けました。
インフルエンザは完治するまでに約1週間程度を要し、発症すれば高熱や頭痛、咳、全身の倦怠感、喉の痛みなど、重度の全身症状が表れます。近年、これらの症状の他に注目されているのが、異常行動です。これは、大人よりも子どもに多く見られるといわれています。この異常行動、ある時期まではインフルエンザにかかった際の抗インフルエンザ薬「タミフル」の服用によるものと考えられていましたが、現在ではインフルエンザウイルスそのものに原因があるのではという見解が強まっています。
それでは、何故このような異常行動が起きるのでしょうか。インフルエンザを発症した患者に、けいれん・意識障害・異常行動などの急速に進行する神経症状を引き起こす重篤な疾患を「インフルエンザ脳症」といいます。 その原因は解明されていませんが、以下のような仮説があります。
異常行動の約8割は発熱後2日以内に起きている
インフルエンザウイルスは、最初、鼻粘膜に感染、増殖して全身へ広がります。インフルエンザはその強い病原性のために免疫系を調節し、病原体を排除する物質であるサイトカインのネットワーク障害を引き起こします。結果、過剰免疫反応が生じ、脳内で「高サイトカイン脳症」という状態になり、免疫が正常に機能しなくなるため、けいれん・意識障害・異常行動などが見られるようになると言われています。
それでは、インフルエンザ脳症の予防法はあるのでしょうか。残念ながら、確実な予防法は存在しません。ただ、インフルエンザウイルスに対する免疫を高めるため、乳幼児期からの積極的なワクチン接種は必要です。 脳症の発症が1~5歳頃に多いことを考えれば、ある程度早い時期からの接種を意識してください。
抗インフルエンザ薬については、インフルエンザウイルスの増殖を抑える薬ですから、早めの治療ほど脳症になる確率は低くなるといわれています。 また、ウイルスの量が最大になる前、つまり症状が出てから48時間以内にこれらの薬剤を使って増殖を抑えれば、病気の期間を短くし、症状の悪化や脳症などの合併症を防ぐことができる可能性はあります。 しかし、脳症の進行は極めて早いため、既に脳症になり、けいれん・意識障害・異常行動などが見られるようになってからでは、効果は期待できないかもしれません。
国内のインフルエンザ感染者数は年間1千万人。このうち、異常行動が確認されるのは、ごくわずかです。ただ、異常行動の約8割は発熱後2日以内に起きており、インフルエンザと診断された未成年者に対しては、少なくとも2日間、1人にならないように配慮しましょう。保護者が目を離さないことが、最も重要なのかもしれません。
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