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いまさら人に聞けない小保方晴子のSTAP細胞Nature論文と捏造問題の詳細 その1 TCR再構成と電気泳動実験(金融日記)

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今回は藤沢数希さんのブログ『金融日記』からご寄稿いただきました。
※すべての画像が表示されない場合は、http://getnews.jp/archives/548690をごらんください。
※この記事は2014年03月22日に書かれたものです。

いまさら人に聞けない小保方晴子のSTAP細胞Nature論文と捏造問題の詳細 その1 TCR再構成と電気泳動実験(金融日記)

さて、我らのアイドル小保方晴子さん(以下、オボちゃん)は、2014年1月29日にSTAP細胞という、新しい万能細胞を作る方法を発見したと大々的に発表しました。

「「STAP細胞」「新型万能細胞」を開発した小保方晴子リーダーは「女子力」も高かった」 『YouTube』




(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://youtu.be/lziqbqQu7C0

「体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見」 2014年01月29日 『理化学研究所』
http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140130_1/

「Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency」 2013年12月20日 『nature』
http://www.nature.com/nature/journal/v505/n7485/full/nature12968.html

STAP細胞というのが何かわからない方は、10分で読めますので、もう一度僕のブログを読み込んで下さい。ES細胞、クローン、クローンES細胞、iPS細胞の歴史を、今回の事件に絡めて、これだけわかりやすくまとめている記事を僕は他に知りません。分子生物学の専門家の方もよくまとまっていると言っていました。

「いまさら人に聞けないSTAP細胞と細胞生物学の基礎」 2014年03月16日 『金融日記』
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/52004024.html

しかし、このNature論文発表後、世界中の同じ分野の研究機関が同じ方法でSTAP細胞を作ろうとしましたが作れませんでした。また、国内外の様々な研究者が、論文の矛盾点を指摘しはじめました。

それで捏造疑惑が巻き起こり、もともと若い女がすごい発見をしたということで、嫉妬心を燃やしていた国内外の研究者がものすごい勢いでオボちゃんのNature論文や、過去の博士論文のあら探しをしました。また、科学の素養がない識者の方々も、さまざまな感情から、オボちゃんをボコボコに叩き始めました。そして、これが結果的にはマスコミが有名人を持ち上げてから叩くという、ジェットコースター的なエンタメとなり、誰もがこの問題に興味を示し、みんなでオボちゃんを叩くという、国民的なイベントになりました。

嫉妬心にもいいものと悪いものがあります。仮にそれが嫉妬心がきっかけであったとしても、オボちゃんの論文のあら探しが、ものすごいスピードでネット上で行われたことは、科学の発展という点ではすばらしいことだったと思います。こうして間違った理論がデバッグされ、科学は進歩して行くのです。

もちろん、科学コミュニティの信頼を守るためには、捏造が発覚したら、悪いことをした人に何らかのペナルティを与える必要があります。そういう意味でも、研究者がオボちゃんをボコボコに叩く正当性は大いにあります。

しかし、文系学者の方々が瑣末なコピペ問題を、鬼の首でも取ったかのように、執拗にボコボコに叩き続けるのには他の理由があります。*1それは、彼らが、今回の捏造疑惑で、そこしか理解できなかったからです(苦笑)。コピペなら、確かに彼らでもよく理解できます。なので、そこだけ得意気な顔して、ボコボコと叩くわけです。

*1:「博士論文のコピペ問題に関する議論を聞いていて、やっぱり文系学者って本当に頭悪いんだなって思った」 2014年03月20日 『金融日記』
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/52004530.html

さて、これから数回に分けて、オボちゃんの論文を読み解きながら、一体どこに間違いがあり、どんな捏造があり、何が問題なのかを解説したいと思います。はっきり言って、世間でこの問題を論評している偉そうな文系学者の99%は、何が問題なのか全く理解しておりません(笑)。「博論のイントロをコピペでごまかしたな! おかげで俺の博士号の信ぴょう性にも傷がついたじゃねーか。この女、氏ね!氏ね!」と繰り返しているだけです。

それでは論文で行われたことを一つひとつ解説しましょう。このNature論文の主旨は、STAP細胞を作る方法の発見です。STAP細胞をこうしたら作れるんじゃないか、みたいなアイディアは米ハーバード大のバカンティ教授らが持っていました。そして、オボちゃんは、ひたすら条件を変えながら、STAP細胞作成の実験を繰り返していたのです。実際のSTAP細胞作成の実験をしているのはオボちゃんひとりでした。そして、STAP細胞らしきものができたのが、おそらく1年以上前です。当然ですが、理研とハーバード大はこの発見で先に特許を出願しました。

特許を出願する前に、一度だけSTAP細胞を作ることにオボちゃん以外で成功したのは、共同研究者の若山さんです。若山さんは、オボちゃんといっしょにSTAP細胞を作って、確かに万能細胞の特徴のいくつかを確認した、と思ったわけです。僕の知る限り、Nature論文が発表された時点では、STAP細胞を作る実験で、オボちゃん単独実験以外で成功しているのは、この時だけです。しかし、その後に、若山さんが山梨大学に移ってからは、同じ方法で一度も成功していません。

ちなみに、若山さんは、クローン・マウスを作ったり細胞核を操作する技術で世界的に評価されている研究者です。また、英語で論文を書くことに慣れていないオボちゃんに代わって、いっしょに実験データを整理しながら論文を書いてあげたのがオボちゃんの上司に当たる笹井さんで、笹井さんは幹細胞の分化のメカニズムの研究やES細胞から様々な器官を作り出す研究で世界的に認められているスター研究者です。オボちゃんのバックには、このようなスター研究者が何人もいて、彼女の論文の信ぴょう性を一層高めました。こうしたネーム・バリューがあったから、これほどの驚くような発見でも、データが信頼され、世界的な科学誌であるNatureの査読を通ったと言ってもいいでしょう。

社会学や哲学などの世の中に役に立たないことをやっている文系学者は、STAP細胞ができたかどうかは、コンピュータに細胞を入れてボタンを押したら、マンガみたいに、「STAP細胞確認できました。実験成功!」と画面に出てくると思っていますが、現実の実験はそんなに簡単ではありません。

STAP細胞ができたことを証明するには、以下のことを示す必要があります。


(1) STAP細胞と思われる細胞は、すでに分化してもう元には戻らないはずの体細胞が初期化(reprogram)されたものである。

(2) STAP細胞と思われる細胞は、確かに多能性(pluripotency)があり、再びどんな体細胞にも分化する能力がある。

なぜ、(1)が必要かというと、幼いマウスには、わずかであるが未分化の幹細胞が残っていることがあり、今回のSTAP細胞を作ると言われているプロセスは、そうした残っている幹細胞を単に取り出しているだけかもしれないからです。それでオボちゃんたちは、(1)を証明するためにT細胞を使うことにしました。

はい、この辺で、ほとんどの文系学者*2は脱落です(笑)。しかし、僕が文系学者でもわかるようにがんばって書きます。

*2:「博士論文のコピペ問題に関する議論を聞いていて、やっぱり文系学者って本当に頭悪いんだなって思った」 2014年03月20日 『金融日記』
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/52004530.html

T細胞というのは、血液中を流れている白血球のうち、リンパ球(lymphocyte)と呼ばれる細胞の一種です。身体の外部から侵入した様々なウィルスや細菌を見つけ出す役割をしており、動物の免疫システムにおいて非常に重要な働きをしている細胞です。これがなぜ重要かというと、この細胞はDNA組み換えが起こっているからです。

ちょっと中学、高校で学んだ生物学を思い出しましょう。みなさんの身体は、約60兆個もあると言われている細胞でできているのですが、この細胞一つひとつの核の中には、身体の設計図と言われているDNAでできた遺伝子が格納されていて、この遺伝子は(精子や卵子を除く)全ての体細胞が等しく完全なものを持っている、と教えられたと思います。しかし、あれは嘘です。その例外がT細胞です。T細胞ではDNA組み換えが起こっています。

T細胞は外部から入ってきた物質を発見し、他の免疫を司る細胞と連携して攻撃します。こうした侵入してくる物質は多種多様なのに、なぜ、T細胞は、そんなに多様な物質を判別できるかというと、各T細胞に「一種類」ずつ付いているT細胞受容体(T cell receptor、TCR)がものすごく多様だからです。それぞれのT細胞の表面からチョロっと一種類伸びている受容体があるのですが、これがむちゃくちゃ種類があります。

それで、T細胞の設計図であるDNAは同じであるはずなのに、なぜ、そんなにものすごいたくさんの種類の受容体を作れるのかは謎でした。しかし、じつはここで驚くようなDNA組み換えが起こっていたのです。

DNAが何か簡単に説明しておきましょう。DNAとは、デオキシリボースという糖を含む核酸(酸性の化学物質)のことで、デオキシリボ核酸とも言われます。これが鎖状の二重らせん構造をしていてすごく長いです。これは普段は、細胞の核の中でぐちゃぐちゃっと入っているのですが、細胞が分裂するときは、一本ずついい具合に丸まって染色体になり、その染色体が複製されます。この染色体がいくつあるかというと、ヒトの場合は46本でしたね。23本がお母さんから、同じく23本がお父さんから来ている、というのを学校で習ったと思います。

驚くことにT細胞ができるときに、DNAの一部が切れてなくなり、切れて2本になったDNAが再びくっつくことによって、ものすごい組み合わせの数の組み換えを可能にしているのです。これがTCR再構成です。つまり、T細胞では、DNA組み換えが起こることによって、他の体細胞と違い、一つひとつのT細胞が違ったDNAを持っていることになります。ちなみに、この辺の機構の解明に貢献した利根川進さんは、ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

「免疫のしくみを学ぼう! T細胞はどこでどのようにつくられるの?」 『独立行政法人 理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター』
http://www.riken.jp/rcai.lymdev/common_contents/common_contents_09.html

とにかく、T細胞は、染色体の一部でTCR再構成により遺伝子が組み替えられるわけです。つまり、T細胞の中の特定のDNAはちょっと短くなっているわけです。これが確かに分化した体細胞だという目印になります。つまり、T細胞からできたSTAP細胞なら、DNAの一部が短くなっているので、確かにそれは分化されたT細胞が初期化されたものだ、とわかるわけです。

さて、DNAの長さをどうやって測ったらいいでしょうか? それはPCRと電気泳動という方法を使います。PCRというのは、DNAの特定の部位を何倍にも複製して増幅させる方法です。

「増える遺伝子」 『広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻』
http://www.mls.sci.hiroshima-u.ac.jp/smg/education/pcr.html

こうして増幅されたDNAの一部を電気泳動実験にかけます。電気泳動実験というのは、電気を帯びた大きな分子のサンプルをいくつか用意して、電圧をかけたゲル状のプールで、よ~いドンで走らせて、どれぐらい移動するかを調べる実験です。

「電気泳動法(アガロースゲル電気泳動法)とは?」 『ケニス株式会社』
https://www.kenis.co.jp/biokit/theory.htm

DNAのような電気を帯びている鎖状の分子で電気泳動実験をすると、短いDNAほどゲルの中を速く泳ぐので、遠くまで進みます。この原理を利用して、DNAの長さを調べられるのです。

さて、その結果が、Nature論文のFig.1i*3です。

*3:「Figure 1: Stimulus-triggered conversion of lymphocytes into Oct4-GFP+ cells.」 2014年01月30日 『nature』
http://www.nature.com/nature/journal/v505/n7485/fig_tab/nature12968_F1.html


(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://px1img.getnews.jp/img/archives/2014/04/21.jpg

この図の読み方ですが、上下方向に電圧がかかっていて、よ~いドンで電気泳動実験をすれば、短いDNAほど下まで行って、電圧を止めると、そこに線ができるはずです。5つのレーンがあり、それぞれに5種類の細胞からPCRで得られたDNAサンプルが入っていました。それで競争させて、ラインを描くわけです。

今回の場合は、比べるために第1レーンにES細胞から得たDNAサンプル、第2レーンに線維芽細胞、第3レーンにT細胞、第4レーンと第5レーンが第3レーンのT細胞から作れられたSTAP細胞のDNAサンプルです。対照実験なので、PCRによって、全て染色体上の同じ位置のDNAが増幅されています。

この論文ではおかしなところが色々あるのですが、最初の重要な捏造ポイントがこのFig.1iの第3レーンで起こりました。よーく、第3レーンを見て下さい。ちょっと黒色のトーンが違うのに気が付きましたか? じつは、第3レーンは、オボちゃんが、捏造して切り貼りしたものです。

オボちゃんは、根はすごくいい娘だし、頭だって、その辺の文系学者*4よりいいのですが、ちょっと手癖が悪くて、よく画像をいじくって、自分に都合がいいように変えちゃいます(笑)。しかも、このFig.1iは、とても面白くて、元々の画像が合っていて、それを間違った画像に切り貼りしてしまっているのです。本当にお茶目です(笑)。

*4:「博士論文のコピペ問題に関する議論を聞いていて、やっぱり文系学者って本当に頭悪いんだなって思った」 2014年03月20日 『金融日記』
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/52004530.html

T細胞ではTCR再構成が起こり、一部のDNAが短くがなります。この短くなり方はランダムなので、T細胞のサンプルから、PCRでDNAを増幅させたサンプルを作れば、複数のラインができるわけです。実際に、第3レーン、第4レーン、第5レーンでは、ES細胞には見られなかった複数のラインが出ていて、様々な短いDNAができている証拠になっていて、TCR再構成の形跡が確認できています。

しかし、TCR再構成というのは、対になっている染色体の片方にしか起こらないのです。細胞の中に入っている染色体は、お母さんからもらったものと、お父さんからもらったもので、対になっているのですが、片側にTCR再構成が起こっても、もう片方には起こっておらず、そっち側のDNAは、ES細胞や他の体細胞と同じものなので、電気泳動実験をすると、同じ所にラインが出るはずなのです。このラインが出ていないことがおかしいことに関しては、論文発表後にさまざまな研究者に指摘されていました。

ところが、オボちゃんは、勘違いしていて、T細胞の電気泳動実験では、ES細胞から出たラインが出たらダメだと思って、そこを手の込んだ捏造で消しちゃったのです。本当におっちょこちょいですけど、この辺のTCR再構成の話は、免疫の専門家じゃない人が理解していなくても、無理もありません。実際に、オボちゃんの捏造は、共著者全員のチェックをすり抜けたわけです。共著者には免疫の専門家はいませんでした。

オボちゃんは、おそらく、この電気泳動実験は、多能性幹細胞であるES細胞から出るラインは、分化したT細胞から消えて、STAP細胞になるとまた戻って、多能性獲得のひとつの証拠になる、というストーリーを考えていたと思うんですけど、ここでまた大きな勘違いをしています。だって、初期化というのはDNA組み換えとぜんぜん違うんだから、レーン3で消えたDNAが、STAP細胞にしたレーン4とレーン5で復活してたら、めちゃくちゃおかしいじゃないですか。欠損したDNA復活なんて、絶対にありえない現象です。

つまり、Fig.1iというのは、オボちゃんのTCR再構成を理解していないこと、初期化とDNA組み換えを勘違いしていた、というミス×2によって、オボちゃんの頭に入っている間違ったストーリーを作るために捏造をして、その結果、正しい実験画像を間違ったものに張り替えてしまったのです(笑)。

この切り貼り問題は、理研の中間発表*5でも、本人が認めたことを認めています。理研によると、本人に悪意はあったのかと聞いたところ、悪意はないと答えたので、悪意のある捏造ではない、とのことです。つまり、ケアレスミスですね。そして、元の生データも開示されましたが、やはりそちらは正しいラインが出ていました。本当に、おっちょこちょいですね。オボちゃん。

*5:「研究論文(STAP細胞)の疑義に関する調査中間報告について」 2014年03月14日 『理化学研究所』
http://www.riken.jp/pr/topics/2014/20140314_1/

それでは、次回はSTAP細胞によるテラトーマ、キメラマウスの実験について解説しましょう。

執筆: この記事は藤沢数希さんのブログ『金融日記』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年04月25日時点のものです。

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