覚醒剤運搬役「知らなかった」でも有罪。対処法は?

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「知らなかった」どうかは、その人の内心の状態に過ぎない

覚醒剤運搬役「知らなかった」でも有罪。対処法は?

覚醒剤を営利目的で密輸する場合、その運搬役が営利目的密輸の覚せい剤取締法違反に問われるには、それが故意犯である以上、「運搬物が覚醒剤であること」と「それを営利目的で密輸するものであること」を認識している必要があります。罪を犯す意思(犯罪の認識)がない行為は、他に過失犯などとして処罰するための特別の規定がない限り、処罰されることはないからです(刑法38条1項)。

覚醒剤密輸事件において、覚醒剤を忍び込ませた荷物を運搬している者が検挙される際、往々にして「覚醒剤が入っていること」あるいは「その物体が覚醒剤であること」を「知らなかった」などと弁解し、無実の主張をすることがあります。しかし、「知っていた」か「知らなかった」かは、その人物の内心の状態に過ぎません。本人が一貫して「知らなかった」と主張する限り、これを直接証明する手段がないために「知らなかった」ものとせざるを得ないとしたら、覚醒剤の密輸など、いとも簡単にできることになってしまいます。これは、殺人罪だって同じです。「殺すつもりはなかった」などと言い張れば、殺意がなかったことになってしまうのでしょうか。そうではありません。他の状況証拠から殺意があったことを認定することは十分に可能です。結局のところ、本人が犯罪の故意をいくら否定したとしても、他の状況証拠から故意を認定されることなどいくらでもあるのです。

「知らなかった」が通用するような事案は極めて少なくなる

最近、覚醒剤密輸事件で被告人が「覚醒剤の認識がなかった」などとして争ったものの中で、一審の裁判員裁判が無罪となり、控訴審で逆転有罪となったのに関して、最高裁が控訴審を破棄して無罪となった事件(最高裁平成24年2月13日判決)もあれば、逆に、最高裁が控訴審を維持して有罪が確定した事件(最高裁平成25年10月21日決定)もあります。

この2つの最高裁の結論が異なってしまった理由を直ちに解明することはできません。しかし、後者の最高裁は、逆転有罪とした控訴審が「この種の犯罪において、運搬者が、誰からも何らの委託も受けていないとか、受託物の回収方法について何らの指示も依頼も受けていないということは、現実にはあり得ない」とした経験則について、例外を認める余地を認めつつも、これを肯定していることからすると、「知らなかった」との弁解が通用するような事案は極めて少なくなるように思われます。

そうだとすると、中身のわからない荷物を預かり、これを運搬するなどということは、安易に請け負わないに越したことはないでしょう。

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