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子宮頸がんワクチンをめぐるあれこれ(その4)

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今回は鹿野 司さんのブログ『くねくね科学探検日記』からご寄稿いただきました。

子宮頸がんワクチンをめぐるあれこれ(その4)

実をいうと、子宮頸がんワクチンは、集団防御的な効果はあまり考えられていない。

子宮頸がんは性感染症なので、セックスで男性から移される前に、女性側に免疫をつけておくという発想で、子どもを対象に定期接種になっている。

つまり、男性の側にはずっとウイルスがいるわけね。ただ、男性の場合はウイルスが感染しても、ごく希な陰茎がんとかの原因にはなるものの、その数はものすごく少ないので、まあ打たなくて良いんじゃないのって事になっている。

しかし、集団防御という観点からすれば、性感染症なんだから、男女とも子どものうちに接種しておいて、このウイルスの存在そのものを希にしておいたほうが良いんじゃないの?

それは理論的にはそうなんだけど、過去の事例から、男性に打っても集団の中の子宮頸がんをほとんど減らさないという結果になったり、すごく効果があったという結果が出たりしていてバラバラ。さらにその事例も、世界で数えるほどしかない。つまり、男性にも打った方がいいというエビデンスは、いまのところあるとはいえないんだよね。

集団防御というのは、予防接種にかかるコストのほうが、病気の流行が起きてしまう事によるコストよりかなりお得になるっていう経済学的な問題なので、そのあたりに関する証拠が、今のところないわけね。

では、個人レベルでのメリットはどうなのか。

子宮頸がんはヒトパピローマウイルスの感染で起きる病気だけど、このがんに関わる15種類のウイルスのうち、今回の子宮頸がんワクチンが防げるのは、2種類だけだ。

ただし、このワクチンを打つことで、日本人の子宮頸がんの50~60%は防ぐ事ができるとされている。

つまり、予防接種をしても、子宮頸がんになってしまうひとは少なからずいる。そこで子宮頸がんに関しては、予防接種をしようがしまいが、20歳以上の女性は2年に1度検診を行うべきだってなこともいわれている。

まあ、2年に1度の頻度で、子宮頸がん検診に行く人が今後増えるかというと、婦人科の検診はハードルが高い雰囲気があるので、なかなか難しそうではあるけど、さてそうなると、余計にこのワクチンを打つことにメリットがあるのかっていう感じになるよね。

ここからは超ざっくりした話。

日本で年間に生まれる女子の数はだいたい50万人で、子宮頸がんにかかる女性は年間に9000人だから、まあ2%の人がこの病気になる。子宮頸がんワクチンを打てば、それが1%に引き下げられるから、まあ、大数の法則を適用すれば、個人の子宮頸がんになる確率を1%にできるって事だ。

一方、子宮頸がんワクチンを接種した後で、深刻な副反応が起きる確率は最初に書いたように0.004%だ。

こう考えると、もしオレに娘がいたとしたら、オレはその子に、子宮頸がんワクチンをうけさせるだろうと思う。メリットのほうが、デメリットをはるかに上回っているからね。おそらく、ちゃんとした小児科医に予防接種を受けて良いかどうか相談すれば、ほとんど同じような説明になるんじゃないかな。

しかし、大手メディアは決してそういう事はいわないで、ただなんとなく自己判断してくださいっていうだけだ。

もう一つ気になるのは、メディアは重大な副反応の事例として、子宮頸がんワクチンの「被害者」側の発表した映像を使っていることだ。

子宮頸がんワクチンの接種後に、重大な副反応が起きた人がいることは、疑いの余地のない事実だ。それによって苦しんでいる人たちは、キチンと救済されるべきだと強く思う。

でも、そこに因果関係があるかどうかはわからないんだよね。子宮頸がんワクチンを打って、その後に、ある重篤な症状が出たという事実だけでは、子宮頸がんワクチンがその原因だとは言えない。前後関係だけで、因果関係ではないもんね。

つまり、副反応に苦しむ人たちがいることは確かだけど、それを「薬害」と決めつける根拠はない。ところがメディアはその映像を使って、両論併記みたいなつもりでいるから、かえって圧倒的多数の人の利益を損ねかねない状況になっていると思う。これはちょっと行き過ぎなんじゃないかと思うんだよね。

なんでこんな事になっちゃうのかというと、一つには予防接種健康被害救済制度ってのがあるんだけど、それの欠陥によるものじゃないかな。

この制度では、「その健康被害が接種を受けたことによるものであると厚生労働大臣が認定したときは、市町村により給付が行われ」るんだよね。

つまり、認定されないとダメなわけだ。

すると、国に予防接種が原因で問題が起きたと認めさせるには、これは薬害だと強く訴えて世間を動かしたいというインセンティブがどうしても生まれてしまうと思う。もちろん、個人の信念というか正義感から、因果関係は不明でも薬害だと強く訴えたい人はいるんだろうけど、今の制度では、それ以上に薬害だという信念を持ちたくなる人の数は多くなりがちじゃないかと思うんだよね。

そんな感じにならない様に、予防接種後に副反応が起きた場合は、ほぼ無条件に医療費の給付をすれば良いと思う。

そんな事をしたらフリーライドするやつが出てくるだろうなんて思う人もいるだろうけど、子宮頸がんワクチンの場合、重篤な副反応の起きる確率はわずか0.004%にすぎないので、その治療にかかる医療費を全額補助したとしても、全体に与えるコストは微々たるものじゃないかな。

そうすることで、2%の人が子宮頸がんになるのを1%に減らせるほうが、トータルのコストは下がるだろうし、同時に、重篤な副反応に苦しむ人を完全にとは言えないけど、ある程度までは救済できると思うんだよね。

この種の、メディアが科学的な合理性に基づいた情報を提供しないことで、おかしな隠謀論や誤解がはびこって、結果としていろいろと無駄や不幸を生産する片棒を担いでしまっている感じのする事例は、放射能に関係するものとか、食品の安全に関するものとか、今の日本では非常にしばしばあちこちで目にするんだよね。それを見るたび、なんだかなあって思う。

こういうことを減らすには、メディア関係者にももっと理系を増やしたらなんて事をいう人もいるけど、どうもそう言うことではないように思うんだよね。これって、理系がただ増えれば、うまくいくような単純な話ではないからなあ。

なかなか難しいんだけど、まあとりあえず、オレはこうして、こう考えたらいいんでないのって事を語っていくしかないと思っているんだけど。

関連記事
「子宮頸がんワクチンをめぐるあれこれ(その1)」 2013年08月16日 『ガジェット通信』
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「子宮頸がんワクチンをめぐるあれこれ(その2)」 2013年08月17日 『ガジェット通信』
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「子宮頸がんワクチンをめぐるあれこれ(その3)」 2013年08月18日 『ガジェット通信』
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執筆: この記事は鹿野 司さんのブログ『くねくね科学探検日記』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年08月16日時点のものです。

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