真理だから成功するのではなく、真理だと信じられた時に成功する
今回はNonrealさんのブログ『海国防衛ジャーナル』からご寄稿いただきました。
真理だから成功するのではなく、真理だと信じられた時に成功する
新作が封切られたばかりの某映画監督の、憲法や領土、慰安婦問題に関する見解が少々物議を醸しているようですね。領土問題や慰安婦問題は、左右両極の意見に大きな隔たりがあり、互いに提示する資料がまったく食い違っていることも多いものです。
これについては、国際政治の泰斗ハンス・J・モーゲンソーが「宣伝」について記した、以下の文章が正鵠を射ているのではないでしょうか。
アメリカ独立革命やフランス革命の理念、またボルシェヴィズムやファシズムのスローガンのように人間のイマジネーションをとらえ、そして政治行動へとかり立てた過去の偉大な哲学は、それらが真理であるから成功したのではなくて、それらが真理であると信じられたから成功したのである。つまりこれらの哲学は、その訴えかけた人びとに対して、知識の点でも行動の点でも、彼らが切望しているものを与えたから成功したのである。(強調筆者)
ハンス・モーゲンソー、『国際政治―権力と平和』 354-355ページ。
「国際政治―権力と平和 [単行本]」 ハンス・J. モーゲンソー(著), 現代平和研究会(翻訳) 『amazon』
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4571400063/
よく言われるように、「人は信じたいものしか信じない」ということですね。真理/事実はひとつだ、と言う人もいるでしょうし、実際、真理や事実はある程度狭い範囲に収斂していくことが多いでしょう。しかし、それでもその真理/事実が自分にとって「信じたくない」ものであった場合、人はそれを受け入れません。真理や事実はひとつでも、正義はいくつもあると言われる所以です。
領土問題や慰安婦問題に関して客観資料を積み重ねたり、国際法などで理論武装したりすることももちろん必要ですが、外交は、学術的な正確さを競う舞台ではありません。それに、日本の主張がどんなものであれ、それらは係争相手にとって「信じたくない」ものなので、受け入れられることは期待できないでしょう。
ですから、日本が取り込んでいくべきは、係争相手以外の第三国であり、彼らを糾合して多数派を形成しなければなりません。その際、自分の思う正しさ=真実であっても、それを押し付けられた第三国が我が国の味方にならないのであれば、これは筋の悪いやりかたです。重要なのは、「宣伝の対象がどのようなものを信じたいのか」を判定し、そこに日本の利益を反映するよう導いていくことです。第三国が日本の主張を「信じたい」ものとして認識すれば、彼らは自分の信じた「真理/事実」を積極的に喧伝するでしょう。
当然なことですが、どれだけ事実がこちら側にあろうとも、国際社会が日本の主張に耳を傾けてくれるとは限りません。正義は必ず勝つ、ではなく、勝った方が正義になるのが国際政治です。物理的暴力を忌避するのであればなおさら、心理戦・宣伝戦によって人心獲得を図らねばならず、それさえも怠るなら外交的敗北は必至です。
執筆: この記事はNonrealさんのブログ『海国防衛ジャーナル』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年07月26日時点のものです。
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