全く似ていない2人をソックリに! 世界に認められた特殊メイク・アーティスト辻一弘氏インタビュー/映画『LOOPER/ルーパー』

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<現代の自分>と<未来の自分>が対決するという斬新な設定が話題のSFアクション『LOOPER/ルーパー』。全米では映画ファンを中心にヒットを記録し、日本でも1月12日より公開となります。

映画の見所の一つが、ブルース・ウィリスとジョゼフ・ゴードン=レヴィットが同一人物を演じている所。2人の顔が全く似ていないのは誰が見ても明らかですが、ジョゼフをブルースに似せるために一躍買ったのが、特殊メイクの力。

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ブルースの話し方や仕草を徹底的に研究し、真似たジョセフの演技に加え、顔の造形を変え全くの別人に作り上げた特殊メイク・アーティストが辻一弘さんです。辻さんは京都出身、ロサンゼルス在住の43歳。これまでに『猿の惑星』『メン・イン・ブラック』『グリンチ』などを手がけ、第79回、80回のアカデミー賞「メイクアップ賞」に2年連続でノミネートされています。

本作には、『G.I.ジョー』で一緒に仕事をしたジョゼフ・ゴードン=レヴィットの強い希望で制作への参加が決定。今回は「高校時代に独学で特殊メイクの勉強を始めた」という辻さんに、夢を実現するまでのお話や、作品について伺いました。

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――まず、辻さんが特殊メイクの世界に飛び込んだきっかけを教えてください。

辻一弘(以下、辻):『スター・ウォーズ』を子供の時に観て、特殊効果に興味を持って、中学生になった時に本気で将来の夢を考えた時に特殊効果の世界に行きたいと思ったんですね。そこから、8mm映画を撮ったり、ミニチュアを作ったり、ペインティングをしたり特殊効果について自分なりに色々試していたのですが、何か物足りなさを感じていて。

――最初に興味を抱いたのは特殊効果の方だったんですね。

辻:そもそも、最初は特殊メイクには興味が無かったんです。自分の中では特殊メイク=ホラー映画というイメージがあって、ホラー映画は苦手だったので。でも、リック・ベイカーさんやディック・スミスさんというアーティストを知って、自分が思っているより奥の深いものだと感じました。

それから洋書店で見つけた雑誌に、ハル・ホルブルックさんという俳優さんにリンカーン大統領の特殊メイクを行なうディック・スミスさんの記事が載っていて「自分がやりたいのはこれだ」と。人の顔をリアルに変えるという事が信じられなかったし、どうやってやっているのか知りたかった。その時、高校3年生になったばかりだったのですが、その日から自分で情報を集めて、材料を買って、勉強をスタートしました。

――高校3年生にして、夢を実現する為の行動が具体的だったのですね。

辻:学校行くのが嫌だったんですよ(笑)。普通の大学の勉強には興味がなかった。

――それでも、特殊メイクという専門分野についての情報収集には苦労されたのでは無いでしょうか?

辻:そうですね。今みたいにインターネットが無いから情報は全て本から。京都にある書店「丸善」は洋書も扱っていたので、毎週行って本棚の端から端まで漁って。英語の成績は悪かったので、苦労して辞書で調べながら。特殊メイクに関する色々な本を読み始めて数ヶ月したら、ディック・スミスさんの私書箱の住所が載っている記事を見つけて、それで手紙を送って「特殊メイクの仕事をしたいのだけど、どう勉強したら良いか」とアドバイスを求めたんですね。

――さすがの行動力ですね。

辻:そうしたら「アメリカにも良い学校は無いから、今は自分で勉強すると良い。作品が出来たら写真を送ってくれれば評価して返事をするから」と言ってくれて、何度も手紙を書きました。高校の担任が英語の先生だったので、手紙書く度にチェックしてもらって。そうしたら英語の成績も自然と上がったんですが(笑)。

――それから実際に特殊メイクの仕事をスタートするまでには、どの様な経緯があったのですか?

辻:ディック・スミスさんが黒沢清監督の『スウィートホーム』(1989)という映画でSFXのスーパーバイザーをするということで、スタッフの一人に推薦されました。そうして卒業してすぐ、東京の特殊メイクアーティストの江川悦子さんの会社「メイクアップディメンションズ」で仕事をはじめたんですね。

――高校卒業してすぐに実際に特殊メイクの仕事に関わるというのは刺激的ですね。そこから渡米するまでに、専門学校の講師も務められていますね。

辻:メイクアップディメンションズから独立して、自分の工房を設立したのですが、その頃に日本の景気が悪くなってしまって、映画をあまり撮らなくなってきたんですね。特殊メイクは時間もお金もかかるので特に影響が大きくて。そうした時にディック・スミスさんから電話がかかってきて、代々木アニメーション学院で特殊メイクの学科がスタートするのに講師が決まっていないという事で、働き始めました。

その時はまだ、日本全体の特殊メイクのレベルが低かったので講師を務めることが出来たけれど、自分もまだ21、22歳くらいで若く、アメリカに行く夢が実現していないのに人に物を教えるのはおかしいというジレンマがあって、『スウィートホーム』で知り合ったアメリカ人の友人に相談をして渡米し、リック・ベイカーの工房シノベーションスタジオに所属して働く様になりました。

――辻さんのお話を伺っていると、行動力と人との縁を強く感じます。本作『LOOPER/ルーパー』も、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットからのお声がけがあったとのことですが。

辻:ブルース・ウィリスとジョゼフ・ゴードン=レヴィット、2人の顔を近づけるのは本当に不可能だと思って断りかけたんですけど、良い友人のジョセフの頼みでもあるので、一度テストだけでもやってみようと。友人だからこそ下手な仕事はしたくないけど、でも失敗するなら友人の方がいいか、と考えてみたりして(笑)。

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――映画を拝見すると、ジョゼフの特徴や表情はそのままに、「大人になったらブルースの顔になるんだなぁ」と想像出来る見事なバランスが実現していますね。

辻:準備に1ヶ月ほど、現場ではメイクの時間が2時間半くらいかかっているのですが、その甲斐がありました。ジョゼフも喜んでくれたのですが、一番気になったのはブルースウィリスがどう反応するのかという事で。でも、実際に撮影で観て、納得してくれてたのでホッとしました。あの人は嘘をつかないんですよ、嫌なことははっきり嫌っていうので嬉しかったです。

――そうした特殊メイクの支えがあるからこそ、<現代の自分>と<未来の自分>が対決するという設定の斬新さが活きた作品に仕上がっていますね。

辻:設定も本当に面白くて、ストーリーも良く、役者も素晴らしい人が揃った作品で、とても気に入っています。自分が特殊メイクを担当出来て本当に良かったと思うし、今まで関わった映画の中で一番好きですね。

――どうもありがとうございました!

映画『LOOPER/ルーパー』は、2013年1月12日(土)より丸の内ルーブル他全国ロードショー。
http://looper.gaga.ne.jp/

『LOOPER/ルーパー』ストーリー

近未来、タイムマシンの使用は禁じられていたが、犯罪組織は法の目をかいくぐり、消したい標的を30年前に暗躍する<ルーパー>と呼ばれる暗殺者の元に送り、始末させていた。ある日、凄腕ルーパーのジョー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)の元に、ある男が送られてくる。なんとその男は“30年後の自分”(ブルース・ウィリス)だった……。

Copyright 2011, Looper, LLC

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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