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危険な「幹細胞ビジネス」には厳しい視線を

危険な「幹細胞ビジネス」には厳しい視線を

この記事は八代嘉美さんのブログ『SYNODOS JOURNAL』からご寄稿いただきました。
※この記事は2011年1月31日に書かれたものです。

危険な「幹細胞ビジネス」には厳しい視線を

◇国の基幹産業として育成される「再生医療」◇

1月31日付の朝日新聞に、「安易に幹細胞治療」という見出しの記事が掲載された。幹細胞といえば、再生医療の一角を担うとされる重要なキーワードである。文部科学省の予算案にはかねてより実施されている「再生医療の実現化プロジェクト」への予算がつけられているし、厚生労働省の「元気な日本復活特別枠」(健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクトの推進)には、再生医療技術の実用化に向けた研究への予算も盛り込まれた。
さらに、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省が基礎研究、臨床研究、周辺技術等開発、知財戦略等について連携を行い、基礎研究と応用研究の間に横たわる「死の谷」(基礎と応用の所轄官庁が違うために生じる予算の不足や法律の障壁)を埋め、再生医療の早期の実用化を図る「再生医療実用化ハイウェイ事業」が実施されることとなっている。国をあげて「再生医療」を日本の基幹産業として育成していこうということであろう。

ヒトiPS細胞の成功以来、日本国内では再生医療に対する認知は急速に高まっており、長い低迷期にある日本にとってひとつの希望であることは間違いない。また、政府は2010年12月に海外から病気の治療や健康診断を目的に来日する外国人への対応として、最長6ヶ月の滞在を認める「医療滞在査証(ビザ)」を新設すると発表しており、将来的には「再生医療」も「医療ツーリズム」の目的として加わっていくことも考えられる。

◇韓国のバイオベンチャー企業が日本で幹細胞移植◇

朝日新聞の記事に先がけて、イギリスの科学雑誌ネイチャー2010年11月25日号(「Korean deaths spark inquiry」2010年11月23日『nature』http://www.nature.com/news/2010/101123/full/468485a.html)に、韓国のバイオベンチャー企業が日本で幹細胞移植を行っているという記事が掲載された。幹細胞には身体を構成するすべての細胞へと分化しうるES細胞やiPS細胞のような幹細胞とは別に、身体の中にあって、生涯にわたってその組織を維持し、個体の生命を維持していくための幹細胞も存在する。骨髄の中には血液の源となる造血幹細胞があり、脂肪の中にも幹細胞が存在している。こうした幹細胞は体性幹細胞と呼ばれ、iPS細胞などとともに再生医療のための重要な研究対象となっている。

記事によれば、韓国のバイオベンチャー企業は糖尿病患者などから脂肪組織由来の幹細胞を単離し、その上で患者と細胞を中国や日本などにある提携クリニックへ送り込み、患者への移植を行っているという。さらに記事によれば、この日本と中国のクリニックで施術をうけた韓国人患者が死亡する事態が生じているという。韓国では新聞などでも大きく報道され、また国会でも取り上げられるなど、大きな問題となっている。

韓国国内では、患者自身から取り出した細胞であっても、薬事法で認可を受けなければ、それを調製し投与する行為は行うことはできないとされている。一方、朝日新聞の記事にもあるように、日本の医療現場においては、「医師の裁量権」を根拠に、「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(ヒト幹指針)の遵守や薬事法に基づく治験等の申請といった、安全性の確保等のための正規の手続きを経ず、幹細胞の輸注、投与、移植等の所謂、再生・細胞医療と称する行為が行われている実態がある。

◇横行するグレーゾーンの医療行為◇

ためしにインターネットの検索エンジンで「幹細胞」を検索すると、学術的な記事や新聞メディアの記事にまじって、美容クリニックなどによる豊胸術やアンチエイジング施術などの宣伝を見出すことができる。

だが、日本国内でヒト幹指針にもとづいて行われている臨床研究はまだ二十数例にとどまっているし、臨床研究は科学的根拠や安全性の確保、患者保護の観点からある程度の設備や人員が必要であり、どこでもできるといった代物ではない。つまり、こうしたクリニックが行う「幹細胞治療」と称するものが正規の手続きを踏んでいるとは考えにくく、細胞の移植法や安全性などについて開示情報がきわめて不十分で、正当な医療行為といえるのかどうか、グレーといわざるをえない。

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