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溶ける電力業界 解体・再編へ(ジャーナリスト杜耕次)

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 電力業界の“メルトダウン”が加速している。大飯原子力発電所(福井県おおい町)3、4号機は7月にフル稼働したものの、業界悲願の「国内50基すべて再稼働」はまったくメドが立たない。需要が高まる夏場を迎え、各社は代替電源の火力発電向けの燃料費が嵩むばかりで台所は火の車。中部電力原子力部の課長が「(福島の原発事故で)放射能の直接的な影響で亡くなった人は1人もいない」(7月16日、政府の原発比率を巡る意見聴取会での発言)と“原子力ムラ”の理屈を説き、関西電力社長の八木誠(62)が「次(の再稼働)は高浜3、4号機が最有力」(同25日、福井県おおい町で記者団に発言)とアドバルーンを上げても、国民の不信感は収まるどころか膨らむ一方。7月29日投開票の山口県知事選では「脱原発」のイデオローグでもある飯田哲也(53)が出馬表明から2カ月足らずで約18.5万票(得票率35.0%)を集めた。毎週数万人が集まる首相官邸、国会周辺のデモへの懸念も高じて永田町、霞が関には波紋が広がり、民主党政権の「粛々と再稼働」路線は大きく揺らいでいる。

矛盾だらけの「総理の決断」

「国民の生活を守るために、大飯発電所3、4号機を再起働すべきというのが私の判断だ」

 6月8日に野田佳彦首相(55)が官邸で開いた記者会見で表明した「総理の決断」。大飯原発を保有する関西電力をはじめ、国内電力10社(原発を保有しない沖縄電力を除く電力9社と、茨城県東海村や福井県敦賀市に原発を持つ日本原子力発電)はクビを長くして待ち望んでいたに違いないが、今から見れば、政府や電力業界にとってはこれが「誤算の始まり」だった。

 野田は大飯原発再稼働の理由について無理を重ねて釈明した。例えば、「万が一すべての電源が失われるような事態においても、炉心損傷に至らないことが確認をされている」と「安全」を強調しながら、直後に「政府の安全判断の基準は暫定的なものであり、新たな体制が発足した時点で安全規制を見直していく」とその「不完全さ」を吐露。また「化石燃料への依存を増やして、電力価格が高騰すれば、ぎりぎりの経営を行なっている小売店や中小企業、そして、家庭にも影響が及ぶ」とユーザー側への配慮を滲(にじ)ませたつもりなのかもしれないが、脅迫にも聞こえる。そもそも現状の電力不足や東京電力の料金値上げの引き金になったのは福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の事故であり、電力需給でも業績面でも業界で最も苦境にある関西電力の経営が逼迫しているのは「原発への過度な依存」(2010年度総発電量に占める原発比率は51%)が最大の原因だった。

<再稼働させなければ日本の電力会社は代替火力の燃料費で今後も巨額の赤字を背負うことになり、さらに保有原発の廃炉費用計上を迫られ、軒並み債務超過の瀬戸際に追い込まれてしまいます>

 国民に向けて、野田が直面する危機を正直に説明するなら、こう訴えるべきだったろう。

どさくさ紛れの再稼働

 ところが、「消費増税を成し遂げた宰相」という虚ろな名声を夢想して「(増税に)政治生命を懸ける」と大見得を切っていた野田は、国論を二分するエネルギー政策に対して首相就任当初から逃げ腰だった。

 北海道電力泊原発(北海道泊村)3号機が運転を停止して「原発ゼロ」が現実のものになった5月5日以降、野田は霞が関の高級官僚と気脈を通じた民主党政調会長代行の仙谷由人(66)の術中にはまり、元自治官僚(最終職歴は国土庁長官官房審議官)である福井県知事の西川一誠(67)による「首相が原発の重要性や再稼働の必要性を国民に直接説明すべき」との要請を跳ね返すことができず、“ムラ”の論調をそのまま代弁する形で、前述の6月8日の記者会見に臨んだ。そして翌週末の16日、政府は大飯原発再稼働を正式決定。7月1日に大飯3号機が、18日に同4号機がそれぞれ運転を再開した。

「原発事故は人災」と認定し、「政府の危機管理体制の抜本的な見直し」などを提言した東京電力福島第1原発事故を検証する「国会事故調査委員会」。委員長を務める黒川清・東京大学名誉教授(75)が最終報告書を衆参両院議長に提出したのが7月5日である。同報告書の厳しい内容を予想し、いかにもどさくさ紛れの駆け込みで「再稼働」を果たした野田政権に対し、久しく国内では見られなかった市民の抗議活動が一気に広がった。

デモに連動して下落する株価

 その代表格が、毎週金曜日夜に東京・永田町の首相官邸前で行なわれる「原発再稼働反対デモ」である。市民団体「首都圏反原発連合」が今年4月に始めた当初は約300人だった参加者は、野田が大飯原発再稼働の意向を示した6月8日の記者会見以降、急速に増え始めた。

 ツイッターやフェイスブックなどインターネット上の口コミで広まり、再稼働正式決定前日の15日には主催者集計で1万人を突破。22日は約4万人(警視庁発表は1万人)、29日には約20万人(同約2万人)、7月6日、13日はいずれも約15万人(同2万数千人、約1万人)、20日は約9万人で推移。夏休みシーズンに入り、日曜日の29日夜に実施された国会議事堂を取り囲む「再稼働反対」デモには約20万人(同約1万数千人)が参加。警察官僚OBで衆院議員の亀井静香(75)は動員された後輩の警官たちが入り混じる群衆に向かい「再稼働は正気の沙汰ではない。この運動が日本を変える」と演説した。

 興味深いのは、全国紙やテレビの全国ネットで再稼働反対デモが大々的に報じられるようになるのに伴い、電力会社の株価が連動するように値を下げていったことである。6月16日に大飯3、4号機の再稼働が正式決定し、「本来なら株価が上がるべき」(前出のアナリスト)なのに、例えば、関西電力の株価は6月15日の1042円から7月31日現在588円へと43.6%も下落。北陸電力は1133円から799円へ29.5%、九州電力も913円から613円へ32.9%といった大幅な値下がりになった。

 拙稿「株価急落『関西電力』が怯える“東電化”」(「Foresight」2012年6月27日付)*1でも指摘したように、保有原発の再稼働が大飯の2基にとどまった場合、関電の今期(13年3月期連結)最終赤字は5000億円規模になると予想されている。

*1:「株価急落「関西電力」が怯える“東電化”」2012年6月27日『Foresight』
http://www.fsight.jp/article/11592

 内閣府が5月に公表した「原子力発電所が停止し続けた場合の電力9社の財務状況」によると、原発再稼働が叶わない状況が続くと、各社の今期最終赤字(単体)は東電の1兆594億円をはじめ、九州電力が3885億円、東北電力が1542億円、四国電力が1285億円、北海道電力が1146億円と、関電を含む6社が千億円単位の巨額赤字に陥ると見られている。

中長期のエネルギー政策

 さらにもう1つ、電力業界には「爆弾」がある。野田首相が「大飯原発再稼働」の意向を表明した6月8日の記者会見で持ち出した中長期のエネルギー政策。具体的には政府の「エネルギー・環境会議」(議長・古川元久国家戦略担当相)が8月末をメドにまとめる「2030年時点の原子力依存度」で、6月に「0%」「15%」「20-25%」という3つの選択肢を政府は用意した。

 全国11カ所で意見聴取会を開催し、インターネットなどを通じて意見を集めるパブリックコメント、加えて討論の前後にアンケートを実施する「討論型世論調査」といった手法を採用するとされるが、集めた意見や見解を政策にどのように反映させるかについて政府は示していない。新たなエネルギー政策は、「大飯原発再稼働」を決めた手順と同じく、経済産業相の枝野幸男(48)ら関係閣僚による決定を受け、最終判断は野田首相が下すという。

 冒頭で触れたように7月16日に名古屋で開かれた聴取会で中部電力の課長が原発推進の立場で発言、その前日15日に仙台で開かれた聴取会でも東北電力の執行役員が「20-25%」を支持する会社としての主張を滔々と述べたこともあってマスコミなどの批判が集中。その後、政府は電力会社関係者の聴取会での意見表明を禁じた。聴取会での意見やパブリックコメントでは「0%」の数が圧倒しているといわれ、さらに前述したように再稼働反対デモが東京だけでなく、札幌や大阪、福岡など全国各地に広がっている。ポピュリスト集団である民主党政権が、消費増税や在日米軍への垂直離着陸輸送機「オスプレイ」配備に加えてさらなる原発再稼働を進めた場合、一段と強まる逆風に耐えられるかどうか。

「落としどころはもちろん『15%』だが、もしも世論に迎合して『0%』になったら、原発依存度の低い中部と中国を除いて電力各社は壊滅状態になる」と電力業界関係者は危機感を強めている。原発の再稼働が不可能になり「廃炉」が決まった場合、原発を保有する電力会社は巨額の損失処理を余儀なくされる。経産省が6月にまとめた原発廃炉決定の際の損失シミュレーションによると、国内50基の原発の廃炉が今期中に決まると、電力9社と日本原電の計10社は合計4兆4000億円の損失処理を迫られる。

「原発ゼロ」なら将棋倒し

 そして、この損失計上の結果、東電が6221億円、北海道電力が993億円、日本原電が933億円、東北電力が201億円のそれぞれ債務超過になり、北陸電力はわずか62億円の資産超過になると試算した。「『原発ゼロ』になれば電力会社は将棋倒し」という事態に電力業界だけでなく、財界も慌てて対応策を練り始めた。経団連は7月27日、政府が示した原発比率の3つの選択肢を「問題が多い」と批判。これを受け、野田政権は8月中としていたエネルギー政策策定の時期を先送りする方針を固めたと報じられている(7月29日付「朝日新聞」)。

 ただ、野田や「東電応援団」として有名な経団連会長の米倉弘昌(75)が結論の先送りで電力業界の崩壊を食い止めようとしても、時代の趨勢は変えられない。業界団体である電気事業連合会の会長を兼務する関電社長の八木は7月20日の記者会見で、経産省の電力システム改革専門委員会(委員長・伊藤元重東京大学大学院教授)が検討している「発送電分離」について「新電力の参入拡大に対応した競争環境と安定供給を守れる仕組みを考える必要がある」と述べ、全面反対ではなく、協議に協力する姿勢を打ち出した。
「原発再稼働の是非」という生殺与奪の権利を政府に握られた電力業界は、成り行き次第で債務超過という現実を前に動揺を隠せない。霞が関の一部では、発送電分離の実現や全50基廃炉が現実になった場合などを想定して、電力業界再編のシナリオの検討が始まったともいわれている。既存11社(沖縄電力、日本原電を含む)の業界内統合だけでなく、大阪ガスや東京ガスなどのエネルギー関連企業、京セラやソフトバンク、オリックスといった新規参入企業などを巻き込んだ組み合わせも取りざたされている。

 カネの切れ目が縁の切れ目――。永田町や霞が関への影響力を低下させた電力業界の解体は不可避となりつつある。(敬称略)

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※この記事はニュース解説サイト『Foresight』より転載させていただいたものです。 http://fsight.jp/ [リンク]

※画像:「7.29脱原発国会大包囲33」By midorisyu
http://www.flickr.com/photos/midorisyu/7672497246/

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