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【日曜版】新たに聞く~日本の新聞の歴史~【第6回 言論弾圧の嵐】

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つい先日、イランでは大統領選後の混乱のため、国内外のメディアによる自由な取材活動の制限や、イラン人ジャーナリストの逮捕や外国人ジャーナリストの国外追放など、イラン政府による厳しい報道規制が行われていることが話題になっています。

「イランって大変な国なんだなぁ」と他人事のように思われるかもしれませんが、戦時中の日本における報道規制は現在のイランよりもずっと厳しいものでした。さらに言うならば、日本では“言論の自由”が保証されるようになってから、まだ60年ほどの歴史しかありません。日本の新聞の歴史は、言論弾圧の歴史と言ってもいいほどなのです。

新聞を苦しめた法律
明治の新政府と共に生まれた新聞は、新しい政府を世の中に知らせるメディアであると同時に、政府とその政治のあり方を批判するメディアでもありました。新政府は新聞に政府の公報的な役割のみを求め、その批判については封じ込めておきたいと考えていましたので、たびたび新聞を取り締まる法律を制定し、発行停止・禁止処分を行うようになりました。

厳しい新聞取締りの背景には、廃藩置県を不満に思う元・士族による反乱が続く不安定な国内情勢がありました。政府に批判的な士族たちは、当時の自由民権運動の基盤にもなっていたことから、当時の大新聞で活発に議論された自由民権論や革命論が危険視されたのです。

そんななか、明治8年(1875)には、新聞社の持主、社主、編集人から印刷会社に至るまで責任を明確にすることを義務付け、国家を転覆する恐れのある論を載せた場合は、新聞社の持主、社主、編集人から印刷会社に至るまで、新聞発行にかかわる者すべてに罰金あるいは懲役刑が課せられるという『新聞紙条例18カ条」が公布されました。同時に『讒謗律8カ条』も公布され、天皇、皇族、貴族、官吏、一般人への名誉毀損を防止するという建前のもと、政府要人や皇族を批判した者に、罰金あるいは懲役刑が課されたのです。

しかし、この二つの法律はきわめてずさんなもので、たとえば『讒謗律』には「凡その事実の有無を論ぜず人の栄誉を害すべきの行事を摘発公布する者これを讒毀とす」として、禁獄3ヶ月~6年以下、罰金54円~1000円以下と定めていますが、何が誹謗にあたるのかは明確に定められていません。これでは、何を書いても罰せられる可能性があることになります。

新聞の恐怖時代が始まる
これは、新聞記者にとっては、まさに恐怖時代の始まりでした。新聞記者たちは法に抵触しないように婉曲な表現で記事を書くようになりますが、やがて『曙新聞』の末広鉄腸が「新聞紙条例を論ず」という一文で批判記事を出すと、新聞紙条例違反第一号として禁固3ヶ月、罰金30円の刑を受けます。その後、末広に続くかたちで各紙の記者は政府批判の記事を書き始め、逮捕者の数や新聞への発行停止・禁止処分は日に日に増えていきました。

「新聞紙条例」が発布されてちょうど一年後、『東京日日新聞』の福地桜痴の呼びかけで、各新聞社の主だった人々が浅草観音本堂に集まり、「讒謗律」と「新聞紙条例」によって多数の逮捕者を出した新聞を供養する「新聞供養大施餓鬼会」を盛大に行いました。「お寺で新聞の供養をする」というあたりの洒落っ気は、当時の新聞記者らしいユーモアを感じさせます。

彼らは、式の後に話し合いを持ち、「讒謗律」について政府と意見を交換することを決め、各部門を担当してサンプルになる記事を書き、どういった記事が法令に触れるものなのかを確めるための質問状とあわせて提出することになりました。しかし、政府はそれを「指令の限りにあらず」と却下してしまい、この法律の及ぶ範囲のあいまいさを解決することはできないままでした。

しかし、有力な新聞記者たちの相次ぐ逮捕にも関わらず、新聞は「禁獄は屁のごとし」「罰金平左衛門」と叫び、政府を批判する記事を書き続けたので、たまりかねた政府は明治9年「国安を妨害する新聞雑誌は内務省が発行を禁止する」旨を公布、最も急進的な新聞を三紙を発行禁止にしてしまいます。三紙は、新聞名称を変更するなどして抵抗を続けましたが、度重なる発行禁止に耐え切れず、ついには廃刊に追い込まれてしまいました。

法律布告後に、禁固刑に処せられた新聞記者の数は、明治8年に11件、明治9年には86件、明治10年には47件にも上りました。以後10年間に起きた、筆禍事件は500件以上とも言われています。

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記者:

京都在住の編集・ライター。ガジェット通信では、GoogleとSNS、新製品などを担当していましたが、今は「書店・ブックカフェが選ぶ一冊」京都編を取材執筆中。

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