【大阪グルメ】愛と煙の人情焼肉! 大阪で65年続くおばあちゃんちみたいな名店“新楽井”
煙が出ないことを売りにする焼肉店が、近頃増えてきた。しかし、そんな“焼肉のオシャレ化”に流されず、昔懐かしい炭火焼肉を食べさせてくれる名店が、今も愛され続けている。
「なぜ、焼肉無煙化のブームに乗らないんですか」
「おばあちゃんの昔からのやり方でやってるだけなんで」
「面白いですね」
「面白い、言うてくれたら何より」
大阪・鶴橋で65年続く名店、“新楽井”である。
おいしい、そして、おもしろい
かめば肉汁があふれるような、肉厚のハラミ、骨つきのカルビ、コリコリのミノ。秘伝のタレが、注文ごとに丁寧に揉み込まれる。
お肉は毎日その日のぶんだけ仕込み、新鮮、使い切り。タレだけでなくキムチも自家製。ダシは粉末タイプでなく干し魚などから取っている。
これが、伝統の味。“おばあちゃんの昔からのやり方”なのだ。が……
煙、すごすぎやろ!!
よって、ゴーグル貸し出し無料。このものすごい煙に、こんな面白い格好で対抗するところが大阪である。
ゴーグル焼肉、という新感覚体験
安くて美味しい焼肉を、面白い格好で。「おいしい、そしておもしろい」というコッテコテの大阪体験ができる“新楽井”には、大阪のお客さんが他の地域のお客さんを連れてくることが多いという。
ゴーグル貸し出しは無料、しかし「洗うのが間に合いまへん お一人ひとつでたのんます」とのこと。
煙から服を守るレインコートは100円(税別)、髪を守るヘアキャップは10円(税別)で購入できる。「においを少しでも防げたらもうけもん」とお店の説明書きにはあるが、筆者が個人的に試したところ、なかなかの効果があった。オススメする。おもしろいし。
ゴーグル焼肉はお客さんの発案
ゴーグル焼肉、というこのスタイルは、さすがにおばあちゃんが考案したものではなかった。煙もくもく、肉汁ジュージューのこのお店を愛する常連客たちが、自発的にゴーグルを持ってくるようになったことが始まりだという。
ゴーグル持参客の中には、先代・中村勘九郎さんもいたとのこと。店内には永六輔さんはじめ、著名人のサイン色紙やハガキなども並んでいた。
そうそうたる文化人や歌舞伎役者たちが、ゴーグルで焼肉を食べている姿を想像すると、なんだか和む。
おばあちゃんが始めた、おばあちゃんちみたいな焼肉
歴史ある“新楽井”の創業は、1952年。「淑林(しゅくりん)ばあちゃん」と呼ばれ愛された、韓国・チェジュ島出身の金淑林さんが、自宅の一角で、つぶれたテーブルを人から譲り受け、夫の姓「新井」に「楽」の一字を加えて、手作りでお店を始めたことがきっかけだった。
今ではもちろん、つぶれていないテーブルを使っている。だが、あえて足を折りたたんだまま、低いテーブルと座布団にあぐらで食べるのが“新楽井”スタイルになっている。テーブルの足を折りたたんだまま七輪を乗せた方が、かえって、焼き網の位置が絶妙に便利なところに来るのだ。
あぐらや正座が苦手な人には、低い椅子もちゃんと用意されている。
扇風機、壁でニコニコする恵比寿様、やじろべえ柄の座布団、民家によくある洗面台。お店にあるもののひとつひとつが、おばあちゃんちに帰ってきたような「ほっとする感」をかもし出している。お店で漬ける自家製キムチの唐辛子や、ワカメ、干し魚などの食材は、淑林ばあちゃんの故郷・チェジュ島のものだ。
愛されて65年
満腹で帰る出口には、ちゃっかり「営業してくれるヒト募集中!!」と書かれ、ショップカードが並ぶ。
壁には、NHKドキュメンタリー『新日本風土記』のポスターが。お店の方によれば、「ウチがNHKに出た時、お客さんがわざわざテレビ画面を写真に撮ってくれはったんです」とのこと。その写真がアルバムに入れられ、お店に大事に保管されているところからも、“新楽井”の人情味と、愛されて65年続く歴史が伝わって来る。
日が落ちた鶴橋の空に、ぽっかりと、黄色い看板。65年間、どれだけの人たちが「ただいま」ってここに帰ってきたのだろうかと思った。たとえ大阪出身でなくても、なんだか、「ただいま」と言いたくなる。それは、海の向こう・韓国から大阪へやってきて、たくさんの人たちのお腹と心を満たしてきた、淑林ばあちゃんの作った場所だからなのかもしれない。
【店舗情報】
焼肉専門店 新楽井(あらい)
〒544-0031 大阪市生野区鶴橋5-17-28
Googleマップ:https://goo.gl/maps/ELUzKhxWfh72
電話番号 06-6716-1795
月曜定休、15時〜22時営業
メニュー例(税抜)
焼肉盛り合わせ(一人前200g、ハラミ・ミノ・カルビ)……1600円
もやしナムル・キムチ・キャベツ……各200円
キリン一番搾り大瓶……600円
烏龍茶、三ツ矢サイダー他ソフトドリンク……200円
アイス・シャーベット各種……250円~
(※店舗情報やメニュー価格等は、2017年9月時点のものです)
写真:松浦達也、牧村朝子
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(執筆者: 牧村 朝子) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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