【ここは法廷だゼ!】SEが元派遣先のデータベースを改ざんした理由とは

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東京高等地方簡易裁判所合同庁舎の入口

こんにちは! 傍聴人の高橋ユキと申します。主に刑事裁判を傍聴して7年目です。これから、裁判所で見た色々なことを書かせていただければと思います。よろしくおねがいいたします。

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中肉中背、パリッとしたグレーのスーツに、ちょっと伸びた髪。見たところ、このような場所がふさわしくないが、この男性、A太郎(31)は不正アクセス禁止法違反ほかの容疑で今年9月に逮捕され、刑事被告人として東京地裁の法廷に座っていた。

A太郎は携帯電話向けゲームサイト『グリー』に『コーデマニア』というソフトを提供している、ゲーム開発運営会社の元SE。ゴールデンウィークまっただ中の5月1日、この元会社のネットワークに侵入し、あらかじめ会社を離れる前に設置していたプログラムを走らせ、データベース内のデータを削除したり改ざんしたりした。これによりゲーム内の所持金が100倍に増えたり、服装などが全員同じになるなどの不具合が発生したという。そのため社員全員が復旧作業にあたり、翌5月2日18時までゲームの配信停止を余儀なくされた。

しかし、そもそもA太郎はなぜそんなことをやったのか。法廷で語ったところによれば、

「同僚ににらまれたり、悪い噂を流されたり、椅子を蹴られたり、日常的にイヤミ……ある同僚が自分の近くに来て“今のシステムが不安定なのは、A太郎がちゃんとやってないから”と非難されたり……」

そんなこんなで、いっぱいいっぱいになってしまったようだ。

「思い知らせてやろう、利用者データを改ざんしようと考えました。セキュリティが脆弱だということも分かっていた。2月に考え、3月頃、データベース改ざんプログラムのPHPファイルを設置した。ゴールデンウィークのタイミングで復旧作業にあたらせ、休みを返上させようと、5月1日に決行した」

という。会社を離れて1か月過ぎているのに、恨みパワーが消えないとは余程である。

こういう、小さいけどイヤな出来事というのはどの会社でもあるのでは……という気もするが、当の運営会社の元同僚らの調書によれば「彼はボクが、口を押さえて笑う仕草をしたり、回覧用の新聞記事を彼だけに配らなかった、等と言ってるが、そんなことはしてない。仕事上でもプライベートでもトラブルはなかった」と言っており、両者の言い分は対立している。この辺の真相は追求されず、結局あからさまな嫌がらせがあったのかは判然としないが、少なくともA太郎はそう受け取ってしまったようだ。

被告人質問では、それら嫌がらせに加えて「長時間労働による精神的不安定があった……」とも。勤務期間中にメンタルクリニックで「うつ状態」と診断されており、通院している。「すごく売り上げを意識していて、売り上げが一番重要な職場だったと思う」と淡々と語るが、これもわざわざ言うからには、当時はプレッシャーに感じていた事柄なのだろう。

「会社の人たちに対しては、実際、嫌がらせ自体は許す事ができないが、休日に予想してない事が起きた、大変な事をしてしまったと思う……」

と、反省はしつつも、未だにわだかまりがあるようだ。

結局A太郎には「運営会社に大損害を与えた」と懲役2年6月が求刑され、判決は懲役2年6月・執行猶予4年。

派遣社員であるため会社への愛情が薄かったことも遠因のような気がするし、嫌がらせを巡るA太郎と他の社員との認識が大きく違うところには、その会社全体のコミュニケーション不足も感じさせる。こういう事件はまたどこかで起こるだろうなぁ……。

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高橋 ユキ

傍聴人。近著『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)ほか古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』(扶桑社)など。好きな食べ物は氷。

ウェブサイト: http://tk84.cocolog-nifty.com/

TwitterID: tk84yuki

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