8月3日成立「東電救済法案」緊急勉強会・要約版

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「東電救済法案」勉強会

8月3日の参院本会議で成立予定の「東電救済法案」こと「原子力損害賠償支援機構法案」。この法律にはいくつかの問題が残されていると言われていますが、スピード成立に向けて進んでおり、おそらくこのまま8月3日に成立するだろうと言われています。この法案には一体どのような問題が含まれているのか。先日松田公太議員の呼びかけで有識者の方々にお集まりいただき、1時間にわたり問題点について勉強会を開いていただきました。たいへんわかりやすいと評判だったこの勉強会の内容を再度要約してお届けいたします。この法案通過をきっかけとして、今後わたしたちにとってマイナスなことが起きるのでしょうか。

■予想されているいくつかの問題
・将来、電力自由化の可能性がなくなります
・電気料金が高くなります
・電力会社を破綻させないための継続的な税の投入と増税が起きます

「こんなに問題、東電救済法案」緊急勉強会フルバージョン
https://getnews.jp/archives/132720
(全文をご覧になりたい方はこちらをご覧ください)

「東電救済法案」緊急勉強会・要約版

勉強会参加者

松田公太氏(参議院議員)
井上高志氏(株式会社ネクスト代表取締役社長)
福井秀夫氏(政策研究大学院大学教授)
原英史氏(政策工房代表取締役)

東電救済法

松田:「原子力損害賠償支援機構法」なんですが。この名前ひどいでしょ。噛んじゃいそうになる。これは凄く重要な法案なんです。今後の日本を占う法案でもあるかなと思うんですよね。ところが、マスコミはこういうことに関してなかなかとりあげてくれない。名前がまず難しすぎるのかなというような気がするんです。これ、なんか名前変えるとしたら原さんなんて名前にしますか。

原:『東電救済法』ですね。こういうの、役所の人たちに名前付けさせるとみんなこうやって訳のわからない難しい言葉にしちゃうので、みんなで略称を勝手に作っちゃえばいいと思うんですよね。

編集部補足:
編集部で調査したところ、この法案に関する呼称はマスコミ内でもバラバラで、ある日のニュースをチェックしただけでも、以下のような名称が使われていました。

原子力損害賠償支援機構法案
原発事故支援法案
原発賠償支援法案
原発賠償法案
賠償支援法案
機構法案

これらの他に「東電救済法案」などの別称もあります。

この法律で、誰が得をするのか

井上:(この法案によって東電を破綻から守ることで)誰が得をするんですか。

福井:一番得をするのは、東電のステークホルダー。利害関係者と言われる人たちで、株主、社債権者、一般債権者

松田:株主は、株価ゼロになりたくないと。

福井:社債権者は銀行が多いんですけど、貸しているからそれが圧縮されたくない。債権放棄されたくない。

松田:回収したいわけですね。

福井:社債ももちろん保護したいし、一般貸付している債権もできるだけ守りたい。当然東電の経営陣も、破綻処理をしたら自分達がいなくなるわけですから、わが身を守りたい。年金債務もカットしたくないと、東電の労働者、従業員はみんな思う。まさに支援機構法案のポイントは東電を債務超過にさせないことなんですね。させないで、利益を得るのはステークホルダーなんです。

それからこの機構法案の大きな特徴は、基本的に電力料金で賠償負担を賄おうというスキームなんですよ。そして納税者のお金もいれると。

井上:ものすごい負担を国民がするということになりますね。

福井:そうです。東電の電力料金だけじゃなくて、他の電力会社の電力料金でも賄う。しかも、超長期でとにかくそれで細々と払い続ける、というスキームですから、これは納税者とか電力料金負担者が株主や社債権者や東電の関係者に補助金をあげる、ていうことを意味する

この法律の内容をわかりやすくたとえてみる

松田:この法案が閣議決定された翌日に国会にたつチャンスがあったので、すぐその場で質問したんですよ。海江田経産大臣と枝野官房長官に質問しました。その際、このようなたとえ話をさせていただきました。この一連の出来事は、一般の社会だったらこういう話ですよ、という話です。

T君という人がいました。

T君は周りから「その車は危険だよ、ちょっと危ないところがあるかもしれない。ブレーキが緩いよ」そういう事を言われていた車を運転していた。

周りから注意があったにも関わらず。同乗者もいたんですが、一緒に「大丈夫大丈夫」ということで運転していた。

ところがある日、住宅街に突っ込んでいって大きな事故を起こしてしまった。

たくさんの負傷者も出しちゃったし、家も全壊か半壊させてしまった。

T君は、はたと困った。

T君は家を壊しちゃったから、賠償しなきゃいけない。「どうしようかな?」と考えて、次のようなことを思いついた。

「まずは、友達からお金を集めよう!」

T君にはC君とかK君とかいうお友達が沢山います。そういう人たちからお金をいっぱい集めて、それを使ってお金を払おうと考えたんです。

――その瞬間でおかしいでしょ、考え方が。保険だったら、事前に入らなきゃいけないはず。事故が起こる前に。そうじゃなくて事故が起こったあとに、慌ててそんなものを作って後からお金を友達から引っ張りあげる。C君とK君からしたらえらい迷惑だ。

ところがさらにT君が車を買うためにお金を出していた人たちがいました。

銀行も貸していたし、お金を預けていた人達――これは株という形で――も居ました。そういう人たちはT君を守ろうと言い出した。「T君はそれだけの大事故を起こしたのだからたいへんな状況なので、みなさんのお金で守りましょう」と。

そしてさらに、実はT君、資産をたくさんもっている、もの凄いボンボンだった。大金持ちの息子だったんです。マンションとか他の車とかたくさん持っていた。普通だったらそれをまず売ってください、言うところを、それを売らせずに「みんなから集めたお金でとりあえず賠償しましょう」という話が出てきた。

さらには事故で怪我をしちゃった人たち、家をぶち壊されちゃった人たちが、実は知らない間に自分達でそのお金を払っていて、T君から自分達のお金を返してもらっているという仕組みがつくられていたんです。

――つまり電力料金の値上げとか、税金アップによって自分達の賠償金を返してもらう……。凄く変な話だと思わない? 普通の社会だったらこういうのありえないでしょ。暴動起こるよね。ところがそれを今やろうとしているんですよ。

井上:その質問に対してはどういう回答だったんですか。

松田:「T君は大切な仕事を担っているから」といった回答だったと思います。でも大切な仕事だったら、それこそ、そんな人に任せられない。そしてT君の代わりにやりたいっていう人はいくらでもいるだろうから、そういう人たちにやらせればいいじゃないですか、という話です。

井上:なるほど。今回の場合、友達のC君とかK君とかからもお金をもってくるんだけど、その他にも公的資金等がはいるんですか?

福井:納税者も交付国債という形でお金を出すことになってますね。

井上:我々が負担するということですね。

福井:そういうことです。普通の納税者や電力料金負担者という国民一般が負担して株主や社債権者の銀行を救済してさしあげる。こういうことですね。

井上:T君とその取り巻きたちを救うために、僕らはお金を出すし、「高い料金でもしょうがないな」て言って電気料金も払ってあげる。

福井:そういうことですね。

『国の責任』というのは、『国民が負担しろ』ということ

福井:今回の事故を「国の責任」という人が凄く多いんですよ。今回の法案の修正の段階では野党から「国の責任」を明記すべきだとか、国も監督してたんだからもっと負担すべきだ。みたいな議論があるんですね。

でも、国っていう人格がお金出してくれるわけじゃないんですよ。国の負担って納税者の負担なんですから。東電はさほど責任はないっていう人も多いんですよ。東電は責任はないって言いますが、こちらも東電という抽象的な人がいるわけじゃないんですよね。東電の株主や、債権者や東電の経営者のことなんですよね

国の責任の今の強調っていうのは、非常に奇妙な昔の一億総懺悔論みたいなごまかしでありまして、結局納税者がもっと苦労して、耐え忍ぶことで東電の関係者の損を賄ってあげましょう。っていうのが本質的な構図です。

ステークホルダー達を一生懸命救済しようとあの手この手で誤魔化しきったのが、今回の『東電救済法』ということだと思いますね。

なぜ政治家はこぞってこの法案を通過させようとしているのか

井上:こうやって説明を聞くとおかしいよね。っていう風に国民も分かるんですけど、政治家の人たちはなんでみんなこぞってこの法案を通過させようとするんですか。

松田:良い質問ですね! この件は、原さんが詳しいと思います。

原:結局東電のお世話になっている人たちが多いんです。

自民党のなかには東電から例えば献金を受けていたりとか、選挙でお世話になったりとか、会社の経営側の人たちからお世話になっている。これは東電だけじゃなくって関西だったら関電だったり、そういうグループになってるわけですね。
一方で民主党の人たち、これまた電力総連とか大電力会社の労働組合から選挙の時にお世話になってる人も多くて、その人たちはその人たちで電力会社にあんまり厳しいことをやることはできないんで、結局東京電力を潰さない。破綻をさせずになんとか助けてあげたい。ていう方向で物事が進んでいったと。

「電力村」とかよく言われますけど、要するに電力会社と役所と政治家とマスコミと、いろんなところが一体になって利権構造みたいなものが作られてしまっているんです。そんなおかしなことになっちゃってるのにマスコミはなんで報じないのか、というとマスコミもまたコマーシャル料金を受け取っている。「節電がんばってください」とかいうCMがたくさん流れてますけど、あれ結局みんな出しているのは電力会社ですよね。

電力会社が、マスコミに広告を出して、「言論を買っている」

福井:他社と競う必要がないのに随分な広告料が出ているわけですね。不思議でしょう? 普通は他社の買わないで、うちの買ってくださいといってまともな企業は広告代を出すんですよ。他社がいないのに広告出すってどういう意味ですか。

井上:お布施としてずっと出しているんですか。

福井:お布施というよりは言論を買っていると考えた方が分かりやすいんじゃないでしょうか。

原:コマーシャルが流れ始めてから急にテレビの論調変わっちゃったんですよね。3月以降見ていても「電力会社がこうやって広告料出してくれるんだ」っていうのが分かってから急にやわらかくなって、今こんなおかしなことが起きちゃってるなんて全然ニュースで報じられないんですよね。

(つづく)

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深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

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