なぜ「なぜ堀江氏は有罪になったのか」が分からないか
今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
なぜ「なぜ堀江氏は有罪になったのか」が分からないか
みんな「どうして堀江貴文氏が有罪なのか」分からないと口にする。そりゃ、無罪を主張する堀江貴文氏側からしか、言い分を聞かないからじゃないかと(苦笑)。kawango氏(ドワンゴの会長ですな)が、遅ればせながら堀江氏擁護を始めた。
「ライブドア事件は粉飾なのか?」 2011年06月21日 『はてなポイント3万を使い切るまで死なない日記』
http://d.hatena.ne.jp/kawango/20110621
擁護するならもっと最初から擁護してあげてればよかったのに。kawango氏に限らず、現在堀江氏を擁護している人たちのどれほどがライブドア事件当時、おそらく堀江氏が最も辛かった時期から堀江氏を擁護していただろうか。
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堀江氏がドワンゴの『ニコニコ動画』の番組に頻繁に出演するようになってから、ドワンゴの会長が堀江氏擁護に乗り出すというのは、いかにも“大人の事情”を感じてしまう。こういうのを見るとインターネットのメディアにも幻滅を感じざるを得ない。
既存のメディアが旧権力にこびて都合のいい報道しかしないように、インターネットのメディアも話題を呼ぶ堀江貴文氏に出演してもらったり対談してもらうために彼にこびる。既存のメディアが主たる視聴者である高齢者が喜ぶ報道しかしないように、インターネットメディアはインターネットの住人が喜ぶ報道に力をいれる。
まあ、メディアとは結局“力”あるものに擦り寄るしかないのかもしれない。そして大衆迎合に走るしかないのかもしれない。別に個人的に堀江氏が好きだというのは構わないし、自分の信念にしたがって擁護するのも良いと思う。問題は「右へ習え」で世論も報道も一色になってしまうことだ。
物事には様々な見方があり様々な意見がある。それら多種多様の意見をくみ上げ報道するのがメディアの正しい姿であり、まさにそういう点において新興のインターネットメディアは旧来のメディアを批判していたのではなかったのか。
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今回の堀江氏擁護一色の報道を見て、インターネットメディアもメッキがはがれたなと感じる俺であった。むしろ未熟な“若者”にこびている分、頭の硬い“高齢者”にこびる旧来のメディアよりも危うい感じがする今日この頃。
既存の仕組みを“ぶち壊す”のはいいけど、そろそろ“ぶち壊した後何を作るか”を同時に考える時期だと思うのだよね。「何もかも気に入らない、すべて壊れてしまえばいいんだ!」みたいな中高生の時期は終わった。壊すなら再建を考えてきちんと壊す(=革命)べき……。
既存メディアを批判していたインターネットメディアが既存メディアの劣化コピーでは、そろそろ先が見える人間はインターネットメディアに失望し始める頃だろう。案外“今”がインターネットメディアのピークかもしれないよ?
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企業の経営者が堀江貴文氏を擁護するというのは、俺から見ると結構思い切ったことだと思う。ようするに堀江氏のしたことは犯罪ではない、自分も同じ価値観を持っている、同じ状況なら自分も同じことをするかもしれない、と言ってるわけだから。まあそれだけ強く堀江氏の正当性を確信しているのだろうから、そこから先はその人の自由だが。
しかし単にインターネットの世論に迎合してる気がしないでもない。その方が得だと計算してる点が、まさに堀江氏と同じタイプの危うさを感じる。
上記のリンク先のkawango氏の記事、彼自身が注記しているように堀江氏のこれまでの主張をそのまま繰り返しているだけだ。「たまたま利益が上がったのであって、損する可能性もあった」というのが、そもそも間違いで、資本取引に得も損もないのだ。頭から利益だという考えだから、“損する”という話になる。
この件(自社株売買)、堀江氏は本当に触れられたくないらしく、これまで話題になるたびにことごとく「この件は単なる書類上のミス」と、あっさり流していた。そして他の罪状についてのみ力説していた。堀江氏はこういう部分が本当にうまいと思う。本当に触れられたくない部分は「それはたいした問題じゃない」といって、スルーするわけだ。そして堀江氏にとって多少なりとも有利に戦える部分に戦場を限定する。
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実はkawango氏が堀江氏を擁護すると聞いて、結構期待した。堀江氏擁護はインターネットに腐るほどあるが、どれも陳腐なものでしかない。kawango氏なら全面的に賛同できなくても「ほう、なるほど、一理あるかも」と俺が思うような主張が聞けるのではないか、と。
しかし……kawango氏のこのエントリもこの1つ前のエントリ(堀江氏の人間性が好きだ、みたいな話)も、結局堀江氏のどこが素晴らしいのかちっとも伝わってこなかった。『ニコニコ動画』ビジネスの都合で嫌々ながら形だけ擁護しているのではないかと思ったほどだ。俺が以前書いたエントリ
「堀江貴文を好きな人・嫌いな人」 2011年05月08日
http://mechag.asks.jp/404227.html
の方がまだ心に響く内容なんじゃないだろうか(苦笑)。俺の文体は辛口だが、ちょっと細部の表現を変えるだけで堀江氏賛美に化けるだろう。
もっと書けるよ? たとえばオンザエッジの株式公開の前後でそれまでの社員の大半が辞めてしまったとき、堀江氏がそのことについて聞かれて憮然(ぶぜん)と「みんな、辞めちゃいましたけどね」と吐き捨てたインタビューがどこかにあった。会社を大きくしたという経営者と、これまでどおり等身大の仕事を堅実にこなしていきたいという社員の葛藤はどの会社にもある。
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kawango氏のこの堀江氏擁護の論法は陳腐で駄作だ。彼がこんなに頭が悪いわけないから、彼の頭脳を以てしても堀江氏擁護は容易なことではないということだろう。結局、堀江氏がいうように資本でも利益でもどっちでもよかったなら、
・なんで無難に資本に計上しなかったのか。
・まして複数の投資事業組合を駆使してなんであんなに複雑なことをする必要があったのか。
この2点に尽きると思うのだよね。つまり直接やると違法だけど、間に投資事業組合を介せば違法じゃなくなる(もしくは違法でもバレない)と“思った”ということだ。この時点で危うい橋を渡っている自覚がないわけがない。堀江氏は自覚した上で橋を渡りきれる方に賭け、そして賭けに負けたのだ。
kawango氏はこの程度のことで逮捕されては、今後他の経営者も安心して経営できない……と言っているけれど、自社株の売却益を売上に計上するというのは“この程度のこと”ではないのだ。人を殺して正当防衛が成立することに賭けるぐらいの綱渡りだ。何しろこれをやれば錬金術のように無尽蔵に利益を生み出せるのだから。
「1番簡単なライブドア事件まとめ」 2011年05月03日
http://mechag.asks.jp/403786.html
で、“この程度のこと”という認識に危なっかしさを感じるのだよなぁ。
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それに複数の投資事業組合を介在させて目くらましをするなど、“分かって”やらなければ絶対に無理なのだ。うっかり違法とは知らずにやってしまうようなレベルではない。ライブドア事件のときにさんざん報道されたVLMA1号投資事業組合、VLMA2号投資事業組合とか、もうみんな忘れちゃってるのかな。こういうことは堀江氏は語らないからね。どんどん堀江氏の語ることで上書きされて、堀江氏が語らないことは人々の記憶から、消えていってしまっているのだろう。
他の粉飾事件と比較して堀江氏が重い刑を受けたのは“悪質”と認定されたからだろう。多くの粉飾決算は倒産を免れるために切羽詰まって赤字を隠すために行われることが多い。一方ライブドアの場合は大幅な黒字を演出し株価をつり上げることが目的。それが悪質とされたのだろう。
食うに困って泥棒するのと、金持ちがさらに金持ちになるためにマルチ商法で詐欺をするのでは、後者のほうが重い罪になるのは、俺はこの感覚に共感するけどねぇ。しかしインターネットを見ていると「金持ちはすでに金持ちなんだから、犯罪を犯すわけがない!」みたいな理屈が幅を効かせている(苦笑)。
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まあいずれにせよ、堀江氏がなぜ有罪になったかを“本当に”知りたいなら、堀江氏以外の著書を読むべきですな。たとえば
『ライブドア監査人の告白』著:田中 慎一 ダイヤモンド社 『Amazon.co.jp』
http://www.amazon.co.jp/dp/4478312214
ライブドア監査人の告白
とか。kawango氏のエントリ中にもある“逮捕された監査人”が書いた本だ。事件が進行中の頃に書かれた本なので、今となっては誤りであることが明らかな記述もいくつかあるが、大雑把な流れを捉えるにはよい本だと思う。
kawango氏は堀江氏の言うことをうのみにして「堀江氏は監査人が出したOKを信じた」みたいなことを言っているが、この本では当時「このまま改善されないなら、自分はライブドアの監査人を辞任する」といったギリギリのやりとりがあったことが語られている。
投資事業組合についても「あれはうち(ライブドア)とは関係ありません」と宮内氏らにとぼけられてそれ以上調査できず、自力で実態を解明するために四苦八苦している。ようするに監査人にも全貌は隠されていたわけだ。投資事業組合は死んだ野口氏と宮内氏とで個人的にライブドアとつながっているだけで、会計をいくら追いかけても解明できない。というよりもそれで解明できてしまったら粉飾が成立しない。
『ライブドア監査人の告白』の著者は、VLMA1&2号ファンドはライブドア(の子会社)が大半を出資しているのもかかわらず、形式的には外部の会社、HSI(野口氏の会社)のファンドなので、ライブドアの監査人としては、ライブドアの自社株売買をしていると薄々分かっていても、運用実態を調査できなかったと述べている。これを検察はそれぞれのファンドや野口氏の会社を家宅捜索することで、実質的にVLMA1&2はライブドアのコントロール下にあると看破し、堀江氏らを立件した。
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あとはライブドアのナンバー2、宮内氏の書いたこの本か。
『虚構 堀江と私とライブドア』著:宮内 亮治 講談社 『Amazon.co.jp』
http://www.amazon.co.jp/dp/4062140233
虚構 堀江と私とライブドア
例えばこの本には株価下落リスクを避けるための策としてこんなやり取りが語られている。株価の時価が20万円のときにあえて8万8000円とかなり低めの価格で計算しているわけだ。しかも“3か月の加重平均”とちゃんと根拠のある数値にしているところが上手いなと思う。
p.41
この時、野口から受けたアドバイスは、「株価の算定時期をずらして、株の単価を下げてリスクヘッジしたほうがいいですよ」というものだった。(略)その結果、(略)「契約まで3ヶ月間の加重平均」に変更した。これなら株価は約8万8000円で、(略)この時、ライブドアの株価は(略)20万円前後をつけていた。(略)一挙に売却できれば約18億円となり、クラサワに支払う分を差し引いても、約10億円の利益が得られる計算だった。
p.43
堀江は(略)野口の説明を完全に理解できたようだった。「10億円の利益」というところで顔はほころび、野口に対してこう言った。「うほほほ。そんなにもうかっちゃうの。そりゃー、凄いね」その上で私や中村に対して、こう指示したのだった。「じゃ、予算にも乗せなきゃ。上方修正だね。20億はいくね。その数字、乗せといて、乗せといて」
堀江氏は裁判でもかなり検察側の主張を突き崩せたと言っているが、これを読むとそうは見えない。というかこんな姿勢では自ら実刑にしてくれと言わんばかりだ。堀江氏本人はともかく弁護団は何を考えて堀江氏にこういった態度をとらせていたのか……。
p.197
│「堀江公判」の被告人質問(11月28日)で、小坂敏幸裁判長は、「ファンド利用スキームの詳細を知らなかった」という堀江に、こう尋ねたという。
│《─君は宮内らのやっていることを、まったく知らないというわけだ。
│「はい」
│─ (資料を示す_これは?
│「M&Aチャレンジャー1号投資事業組合と私の貸株契約書です」
│─ (資料を示す)これは?
│「熊谷からのメールです」
│─どちらも貸し株については、重要な部分であるよね。
│「はい」
│─記憶は再生できないの?
│「はい」
│─これは客観的事実ですよね。そうすると、裁判長として君の記憶がどこまで信用していいのか判断できない。この記憶を再生できないと、君の当時の記憶はかなり曖昧なんじゃないの。》
│証拠がそろい、私だけでなく他の幹部の証言もある。それを「知らぬ存ぜぬ」では、小坂裁判長が「信用できない」と言うのも無理はない。やはりすべてを「否認」するのには無理がある。
結局堀江氏は“逮捕された監査法人の人”とか“横領をしていた宮内氏”とか“ウソをついて辞めていくような人間(野口氏)”とかレッテルを貼ることで、こういう自分に都合の悪い内容すべてシャットアウトしているのだよね。
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とはいえ誰でも自分のことはよく語りたいものだ。上記の2冊の本も必ずしも公平には書かれていないだろう。たとえば『ライブドア監査人の告白』は、ライブドアの粉飾に切り込む正義の味方っぽく書かれていて、ちょっとできすぎの感がある。だから立場の違うそれぞれの人間の意見を聞き、さまざまな観点から考察しなければならないのだ。
堀江氏の話しか聞かない人は、堀江氏に都合の悪いことは一切見聞きしないので、「なぜ堀江氏が有罪になったのか分からない」となる。まあ“分からない”のではなく“知りたくない”のだろうけど。
追記。
「なぜ有罪か」ではなく「なぜ実刑か」だろうというツッコミがあるけど、そういう人はタイトルしか読んでない人ですな(苦笑)。
あと上記にも書いたと思うが、株価を上げるために粉飾するという事件はこれまでなかった。前代未聞の事件なわけで「他の粉飾事件と比較して刑が重すぎる」とか言っている人たちは、何と比較しているのだろうね。
粉飾した金額だけで量刑が決まるなら裁判所いらないじゃん。『Excel』のマクロで十分。影響を受けた株価の総額を考えただけでも、すごい金額になると思うのだけどね。これは別に俺が言っているのではなく、判決文を読めばこう書いてある(こんなくだけた表現ではないにしろ)。
参考サイト:
「フツーーーーーの人間ならば当然に感じとれるはずの「ライブドア事件は粉飾なのか」に対する疑問点w – 消毒しましょ!」 2011年06月23日
http://d.hatena.ne.jp/AntiSeptic/20110623/p1
関連記事:「さらにもう一度ライブドア事件」2009年04月14日
http://mechag.asks.jp/252967.html
執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
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