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『1001グラム ハカリしれない愛のこと』ベント・ハーメル監督インタビュー 「ユーモアは人生を理解する方法なんだ」

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『キッチン・ストーリー』(2003)、『酔いどれ詩人になる前に』(2004)、『ホルテンさんのはじめての冒険』(2007)など、愛すべきオヤジを描いてきて日本でもファンが多いノルウェーの名匠、ベント・ハーメル監督。その彼がめったに表情を変えない理系女子を主人公にした『1001グラム ハカリしれない愛のこと』が、2015年10月31日より東京・渋谷のBunkamuraル・シネマでロードショーとなります。
今回、日本公開に合わせて来日したベント・ハーメル監督にインタビューに成功。舞台に選ばれた計量研究所や、はじめて女性を主人公に起用した理由、そして過去作に比べて「人生のオモリ」というシリアスなテーマを描いた意味などをお聞きすることができました。

ーー今回、アーネ・ダール・トルプ演じるマリエが勤務している国立計量研究所ですが、そこを舞台にした理由を教えて下さい。

ベント・ハーメル監督(以下・H):僕もキログラム原器の存在は知らなかったのだけど、数年前に聴いたラジオのドキュメンタリーではじめて知ったんだ。その後、ノルウェーのオスロにある計量研究所を造った建築家に話を聞く機会があって、実際に案内をしてもらったのだけど、それぞれの部屋が、温度やホコリが完全にコントロールできていて、建物がそのまま地上に建てられているのではなく、長い脚が地下に伸びていて、地震のショックを吸収できるようにできている。その柱使いがとても美しいんだ。南側が赤、北側は青で決まっていたのだけれど、たまたま撮影していたところで、赤い柱があったので青色に塗り換えることをお願いしたこともあったね。

ーー『キッチン・ストーリー』や『ホルテンさんのはじめての冒険』など、監督の作品では男性が主人公の作品を撮られてきましたが、今回の主人公は女性です。

H:これまでもよく聞かれてきたのだけど……。この作品を編集している時に妻が亡くなってしまったのだけど、数年前の映画祭で彼女がアーネと一緒にタクシーに乗ったことがあったんだ。その時に妻が「夫の映画は男性ばかりが主人公だから女性にしてみればいいのに」と言ったら、アーネが「私から話してみましょう」と返したらしく、彼女は「私が女性を主人公にさせたのよ」と言っていたな。本当かどうか疑わしいが……。ただ、今回の作品のアイディアが生まれて脚本を書き始めた時には、正直男性でもよかったんだ。

ーーそれはどうしてでしょう?

H:今回、人間の孤独や、我々がいかに確かな基準にあるものを求めてしまうものだということが物語のテーマになっていた。だから、必ずしも女性でなければならないということはなかったんだ。「なぜ女性を主人公にしないのか」としょっちゅう聞かれていたから、今が挑戦する時だと思ったこともあったのだけれどね。

ーー実際に、主人公を女性にしたことで違ったアプローチをしたようなことは?

H:それは変わりなかった。システムや秩序があって、それに沿って生きることに安心感をもってしまう人間の性についてを描くことに、男女の違いはないからね。

ーー『ホルテンさんのはじめての冒険』をはじめ、どこか「クスッ」とさせられる作品に比べると、『1001グラム』はシリアスなテーマのようにも思えます。

H:もちろん、それぞれの作品で違いがあるし、『1001グラム』は他の作品よりも落ち着いている。マリエがずっと感情を抑えて抑えて、最後に自分の気持ちが癒やされて恋愛のチャンスを得るという、これまでと題材の違いがあるのかな。僕は人生をユーモアのあるまなざしで見ることができると考えているし、それをキャラクターに投影している。それが自分自身をより理解しようとする方法なんだ。僕自身はコメディを撮っているつもりはないのだけれど、そう呼んだ方が売れやすいのかな(笑)。

ーー演出で印象的だったのは、マリエの電気自動車や、絨毯、傘など、青色が随所で目立っていたことです。あえて強調されていたのでしょうか。

H:この映画は、フレミング・構図・色彩設計など、かなり綿密な計画で、全体の作品のムードを作ったんだ。そのすべては主人公の内なる旅を表現している。青を使っているのはストーリーの一部ではあるけれど、ノルウェーは寒い国だと知られているから寒色を、逆にパリでは自由な開放感をゴールドで表現して、マリエ自身の変化も見て伝わるようにした。ただ、ストーリーで感じてもらえると嬉しいけれどね。もうひとつ、パリとマリエの父親のアーンストが繋がっているところもあるんだ。彼は自由なところがあり、その農園やわらぶきの暖色といった色が一緒。さらに、マリエがパリで出会う男性ともリンクしているんだ。

ーー監督は『キッチン・ストーリー』で、スウェーデン人とノルウェー人の交流を描いています。監督が考えるノルウェー人らしさというのはどのようなものなのでしょう?

H:そういった人種の比較の意図はこの映画にはないのだけど……自分自身もノルウェー人だから、すごく難しい質問だね(笑)。ただ、人口200万人と日本と比べても少なくて、何もかもが小さいから透明感が高い。バイキングの歴史もあるけれど、文化的には若い国で、世界と繋がることでたくさんのことを学ぶ段階の国だと思う。100年前にはヨーロッパで一番貧しい国だったのが、世界でもっとも裕福な国になったけれど、最近の研究では幸福度は高くないというのは残念だね。それを聞くとヘコんじゃうんだよね。世界的に社会的な民主主義の国として成功しているよう見られているけれど、外国の人が投影しようとすると当てはまらないことも多いんじゃないかな。

ーーこの『1001グラム』が、鑑賞してシリアスでも温かい気持ちになれるのは、監督が北欧的な幸せを知っていらっしゃるからなのではと感じたのですが、いかがでしょう?

H:その答えは「YES」だけど、人はずっと幸せなわけじゃないし、それだと拷問じゃない?(笑) でも、自分の人生に感謝するのがとても大切で、何事も与えられていることが当然のように思ってしまってはいけない。あとは楽しむことを意識的にたもつ努力が必要なのかも。周りの人を幸せにして、人に対して何かできた時にはそれで幸せを感じること。僕は人の面倒を見るのが上手ではないのだけどね(笑)。

『1001グラム ハカリしれない愛のこと』予告編 – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=w-NehA5SC-w [リンク]

『1001グラム ハカリしれない愛のこと』

10月31日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

映画『1001グラム ハカリしれない愛のこと』公式サイト
http://1001grams-movie.com/ [リンク]

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記者:

乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営し、社会・カルチャー・ネット情報など幅広いテーマを縦横無尽に執筆する傍ら、ライターとしても様々なメディアで活動中。好物はホットケーキと女性ファッション誌。

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