高速炉『もんじゅ』落下装置の引き抜きは困難
今回は団藤保晴さんのブログ『Blog vs. Media 時評』からご寄稿いただきました。
高速炉『もんじゅ』落下装置落下装置の引き抜きは困難
高速増殖炉『もんじゅ』落下装置(福井・敦賀)で落下した炉内中継装置の引き抜きは、詰まっている燃料孔スリーブごと抜けばよいとする日本原子力研究開発機構の解決法では困難と考えられます。
最大の理由は20年前に筒状のスリーブを原子炉の厚い蓋に組み込んだときより、200度くらい温度が高まっているからです。組み込んだ際のすき間は現在は存在せず、熱膨張で蓋とスリーブはがっちりかみ合っている可能性が高いと思われます。工学的常識として引き抜きにかかる前に模擬装置で抜けるのか実験しておかねばならず、引き抜き費用で後からこっそり公表された“落下した装置の状態を観察する”3億7千万円がそれに該当するのではないでしょうか。
「高速増殖原型炉『もんじゅ』炉内中継装置の取りはずし作業中の落下について」5ページ「炉内中継装置の点検状況 (1/2)」から引用。日本原子力研究開発機構 ※Adobe Acrobat Readerが必要です
http://www.jaea.go.jp/04/turuga/jturuga/press/2010/09/p100907.pdf
燃料孔スリーブは外径640ミリ、内径465ミリの筒状で、厚さ3.695メートルの蓋の中に埋まっています。日本原子力研究開発機構が公表している図では“燃料出入孔スリーブ”と表記されており、下部は一段細くなっています。直径が50センチ程度の円筒と穴の組み合わせは切削加工の上で精度が出しやすい大きさです。お金に糸目を付けない一品生産の『もんじゅ』落下装置ですから非常に高精度に仕上げたはずで、特に原子炉内のアルゴンガスを封じねばならない下部ならすき間が0.5ミリもあるとは考えられません。
鉄は1メートルの材料が100度上がると1.2ミリくらい熱膨張します。冷却材の金属ナトリウム温度は原子炉入口で397℃、原子炉出口で529℃となっていますが、これは本格出力運転の仕様で現在のように温態停止中は2百数十度です。それでもスリーブを組み込んだ室温よりも200度は高いでしょう。温度が上がると円筒形のスリーブは外に膨らみ、広大な蓋に彫り込まれた穴は内側に縮みますから、当初に存在したすき間はなくなります。経年変化を起こすシール剤などを使えない『もんじゅ』落下装置の場合はむしろ好都合で、予想される温度上昇ですき間をなくすように設計するべきなのです。
ところで、小さな金属板でも鏡面仕上げをしてくっつけると接着剤がなくても接合してしまう現象が見られます。金属原子が境界面から互いに拡散、浸透して分離不能になるのです。20年間、熱膨張で圧着されてきた、高精度加工のスリーブと蓋の間に同様の現象が起きる条件が整っている感じがします。もしあれば非常な障害になります。
引き抜くためにせめて温度を室温に戻したいところですが、金属ナトリウムを固まらせる訳にはいきません。核燃料を取り出しておければナトリウムは抜けますが、八方塞がりぶりは昨年10月に書いた「高速炉もんじゅに出た『生殺し』死亡宣告」 * の段階に戻ります。
*:「高速炉もんじゅに出た『生殺し』死亡宣告」 2010/10/17 『Blog vs. Media 時評』
http://blog.dandoweb.com/?eid=108141
旧ソ連チェルノブイリ原発のような“永遠のお荷物”にしないための方策を真剣に考えるべきでしょう。運転はもちろん、廃炉にもできないならナトリウムを無為に加熱するだけでも膨大な電気料金を支払い続けねばなりません。既に不幸な出来事が起きてしまいました。
執筆: この記事は団藤保晴さんのブログ『Blog vs. Media 時評』からご寄稿いただきました。
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